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Jを目指せ! by 木次成夫

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第8回 西日本社会人大会特別編その2
by 木次成夫

 今回は4位に終わったファジアーノ岡山について書きます。この連載の第1回で紹介したクラブです。その後、昨季のメンバーのうち約20人がチームを去るなど、大変革がありました。今大会の初戦、対新日鐵大分戦を例にとれば、MF弦巻健人(19歳)とFW喜山康平(18歳)の「東京V」レンタル移籍コンビはじめ、CBの野本安啓(前・札幌、23歳)らスタメンの半分以上が“新人”でした。昨季の主力メンバーは主将の川原周剛(26歳)、右CB伊藤琢矢(32歳)、MF朝比奈祐作(23歳)くらいしか残っていません。

 Jリーグを目指す上でチーム強化は大事ですし、J2を18クラブにするという構想がある現状下、あと5クラブは“早い者勝ち”ゆえ、最短で昇格したいと考えることは理解できます。でも、急ぎすぎではないかという印象もあります。

 メンバーが毎年大幅に代わるのはスペイン、イタリアなどサッカー先進国では当たり前のことです。ファンも納得しています。「選手愛」もありますが、同時に「クラブ愛」も強いからです。そして、「あの選手が昇格に貢献してくれた」とか、「あの選手は元々、うちで育った」など口にします。果たしてファジアーノ・ファンは地元色が薄れたチームに、どんな反応を示すでしょうか。クラブ経営幹部の方々には、是非、退団選手を4月15日の中国リーグ開幕戦に招待してほしいと思います。
 数年前、小野伸二がオランダのフェイエノールトに移籍した際、開幕前の“お披露目”に行きました。これは恒例行事で毎年、スタジアムは満員になります。新人はヘリコプターで颯爽とピッチに降り立つ派手な演出に驚きつつ、クラブを去る選手も登場し、感謝の意をこめたアナウンスがある様に感動しました。衰えて引退する選手もいますし、実力があるゆえにビッグクラブに移籍する選手もいますが、共通しているのは彼ら全員が「クラブの歴史」だということ。会社でいえば歓送迎会みたいな感じです。素晴らしい配慮だと思いました。

 昨年、邑久グラウンドで聞いた、数少ないながらも熱いファンたちの声援を、もう一度聞きたいものです。「キャプテン・カズマサ! サンキュー・カズマサ!」という感じで。ちなみに、この連載コラム第1回目にファジアーノを紹介したのは、チーム大変革の前に昨季の感動を書いておきたいと思ったからです。サッカーの魅力のひとつは、レベルに関係なく、相手との攻防ではないでしょうか。だからこそ、JリーグもJFLも、地域リーグも、高校サッカーも、子供の試合も楽しいわけです。そんな当たり前の事実を、昨季のファジアーノ(中国リーグ)は思い出させてくれました。「地域リーグはレベルが低い」というファンもいるかもしれませんが、だとしたら「Jリーグも世界トップクラスと比べると、はるかにレベルが低い」ですよ。

 ところで、今季のファジアーノで、あえて注目選手を1人あげるなら弦巻です。喜山同様にヴェルディの生え抜きで今季がプロ入り2年目。05年全日本ユースでは優勝の立役者になった選手です。90年代前半に“天才”と称された“読売”の先輩、山口貴之(現・鳥栖)を髣髴させる体型と的確なテクニック、“中盤のダイナモ”と称された北沢豪を髣髴させる運動量。彼が高校3年の時に初めて見た際、小粒ゆえにヴェルディのトップチームでは活躍できないだろうと思いつつ、巧さと献身さを兼ね備えたプレーが印象的でした。
 今回、西日本大会に行きたくなった理由のひとつは、当時の記憶があったからです。実際、新日鐵大分戦(8-1)では、ボランチの位置から的確にボールを裁いたり、時にはドリブルで前線に突入したり、“攻守のつなぎ役”としてだけでなく“チャンスメーカー”として素晴らしいパフォーマンスを発揮しました。レベルは“かなり”違いますが、例えばFCバルセロナのデコ、シャビ、イニエスタにも似ています。当然ともいえますが、“つきあい”の長い喜山とのコンビネーションも抜群です。

 ちなみにファジアーノは右サイドアタッカーの重光貴葵(23歳)もヴェルディからのレンタルです。レンタルは「借りる側」のファジアーノにとっても、「貸す側」のヴェルディにとってもメリットがあると思います。サテライトでプレーするよりは、地域リーグといえども“大人の真剣勝負”ゆえに選手を成長させるでしょうし、見ている側も面白いです。
 是非、他のクラブも積極的にレンタル移籍を積極的に活用してほしいものです。

PS 24日の対Mi-O戦、ファジアーノのファンは数人。もっとも、Mi-Oのユニフォームを着たファンは1人もいませんでしたが……。僕にとっては、ゼロックススーパーカップを見ないで、山口を訪れた甲斐があったと思うほど、楽しい試合でした。是非、皆さん、TV観戦や“遠くのJリーグ”だけでなく、“地元クラブ”も見てください。

<写真説明>23日、対新日鐵大分戦の弦巻。ユニフォームの胸スポンサーは、地元・岡山の代表的な和菓子会社。一見して由緒ありげな名前ですが、試しに岡山名物、吉備だんごではなく「吉備餅」を食べたら、非常に美味でした

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(文・木次成夫)

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