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Jを目指せ! by 木次成夫

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第12回 北信越リーグ AC長野パルセイロ
by 木次成夫

 昨季までは長野エルザSCという名前でした。クラブ名の由来は、世界的に有名なノンフィクションの名作「野生のエルザ」。発足は90年で、05年シーズンには北信越リーグ1部で優勝を飾っています。ところが、昨季は2年前までは格下だった松本山雅FCにリーグ戦2戦2敗を喫した上に、リーグ3位(松本山雅は2位)。Jリーグ入りを目指して、ブラジル人監督“バドゥ”ビエイラ氏を招聘したものの、結果的に、元Jリーガーを含めた強化をした松本山雅にはかなわなかったわけです。
 以来、長野市と松本市のライバル意識は強いので、“今後、エルザはどうするだろうか”と興味を持っていました。すると……期待?に違わず、この1月にクラブ名称を変えました。同時に、クラブを会社組織化。ちなみにPARCEIROはポルトガル語でパートナーという意味です。

 そして2月3日には、長野市内で元・日本代表監督の岡田武史氏を招き、ビエイラ監督と対談などもあるシンポジウムが開催されました。ビエイラ監督はブラジル人ですが、97年の「ジョホールバルの奇跡」(フランスW杯予選プレーオフ)当時のイラン代表監督でした。つまり、岡田氏とは縁があるのです。そして、その翌4日は松本市内で「Jクラブを信州に」と題したフォーラムが開催され、Jリーグチェアマンの鬼武氏が参加しました。ここまでライバル意識があると、“頑張ってください”といいたくなります。是非、将来はR・マドリー対FCバルセロナみたいな“名物”になってほしいです。サッカーだけでなく、様々なスポーツの対抗戦になれば面白いと思います。例えば、サッカーの敗退を、ゲートボールの老人チームが救った。立役者は80歳のXXさんです」みたいになれば最高ではないでしょうか? 

 ところで以前、松本山雅FCとツエーゲン金沢を紹介した際、北信越リーグは「Jを目指すクラブ」最大の激戦区であると書きましたが、この長野パルセイロも積極的な強化でJFL入りを狙っています。今季は8人が新加入。松本山雅、ツエーゲン金沢に比べると地味ですが、チーム代表の丸山朗氏は「技術面でも精神面でも強者揃い。パルセイロでなければできないアグレッシブなサッカーを見せたい」と自信満々です。新加入選手で注目は、まず、昨季までジェフ千葉に所属していたFW要田勇一(29歳・写真)。神戸と千葉でJ1リーグ通算25試合4得点(昨季は13試合1得点)の実績があります。そして、もう1人は昨季JFLのアルテ高崎で主将を務めたMF貞富信宏(27歳)。湘南と山形でプレー経験のある元Jリーガーです。他にも、昨季ザスパ草津でプレーしたDF籾谷真弘(23歳・元U-18、19日本代表、セレッソ大阪ユース出身)など、期待できそうな選手が揃いました。

 ただ、問題もあります。例えばパルセイロの練習場は、長野駅から徒歩で70分以上かかりました。バスは1時間に1本もありません。これでは、興味のある子供(あるいは年寄り)にとっては、見たくても大変です。長野市だけでなく、日本全国の地方都市にいえることですが、公務員は公共交通機関を利用するのが義務」くらいにしたほうが良いと思います。「不便ゆえに自動車社会」では、悪循環です。

 また、長野県は五輪開催で大きな負債をかかえています。競技人口が数百人に満たないボブスレーなどのために、ひとつの山を破壊しました。素人は滑れないような急勾配のスキーコースも作りました。後利用もまともにできない施設を作りまくった県の偉い方々は、今後どうしようと思っているのでしょうか。そして、“今度はサッカーですか?(野球ですか?)”という点で、節操のなさも感じます。北信越では今年から「四国アイランドリーグ」に続く、地方リーグが始まりますが、長野県にもチームができました。
もっとも、チーム代表の丸山氏は高校教師ながら、アマチュアクラブ“エルザ”をここまで育て上げてきた人で、休暇をとってワールドカップ観戦に行くなど、生粋の「サッカー人」です。長野県内では、「経済規模を考慮すればサッカーだけでも、2つのクラブの共存は難しい」という意見もあるようですが、共存は可能だと思います。要はエンターテンメント産業として、いかに魅力的なものになるかが大事だと思います。つまり、エンゲル係数以外の“小遣い”をいかに、使ってもらうかが勝負です。例えばライバルはパチンコ業界であり、ゲーム業界であり、インターネット業界。また、100万円で自動車を買うなら、「少し安い車を買って、サッカーを見にいこう」、東京に遊びに行くよりも地元で楽しもうと思うようなクラブになることができるか否か。「五輪の負債をサッカーで返済」となってほしいものです。

(取材・文 木次成夫)

<写真>期待度ナンバーワンの要田選手。ちなみにユニフォームの胸スポンサーは、紳士服で有名な「AOKI」。実は長野県の篠ノ井が会社発祥の地。是非、日本中の利益を長野に還元するくらい頑張ってほしいものです

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