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Jを目指せ! by 木次成夫

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第13回 九州リーグ V・ファーレン長崎
by 木次成夫

 日本各地の地域リーグの先陣を切って3月31日、第35回九州リーグが開幕しました。第1節と第2節は全11チームが長崎県島原市内の2会場で2日間に渡って試合をする集中開催。いろいろなチームが見られるという魅力にひかれ、行ってきました。
 最大の注目は昨季の王者、V・ファーレン長崎でした。“ヴィ・ファーレン”と発音します。有明SCと国見FCが04年に合併してできたクラブで、代表取締役は国見高校を名門に育て上げた小嶺忠敏氏です。初年度の05年は九州リーグ3位。そして、昨年は優勝。さらには全国社会人大会も優勝。ところが、JFL昇格を目指して臨んだ全国地域リーグ決勝大会では、4チームで争った決勝ラウンド最下位。1位はTDK(秋田)で以下、2位=FC岐阜、3位=ファジアーノ岡山という結果でした。
 僕が始めてV・ファーレンを見たのは、昨年の全国社会人大会でしたが、昔の国見高校のような、「大雑把なサッカーをする」というのが第一印象でした。その後、地域リーグ決勝大会で1試合、今年の西日本大会で1試合見ました。注目クラブゆえに多少厳しい目で期待してしまうのですが、“これでは、来期のJFL昇格は難しい”と思いました。
 第1節の相手は「熊本教員蹴友団」でした。今季、昇格したチームで、いわば格下ですが、結果は1-0の辛勝。教員チームはメンバーがあまり代わらないためか、一般的にチーム完成度が高いのですが、「熊本教員」も同様でした。V・ファーレンは以前よりも“つなぐ”意識とチーム全体の完成度という点で成長を感じましたが、メリハリに欠けていました。サイドアタックの単調さは、さながら古き良き?イングランドサッカー。ただ、個々のメンバーを見る限り、チーム力向上は十分に可能だと思いました。その理由は、チームの要である2人のボランチが実力者だからです。
 まずは、国見高校出身で、横浜フリューゲルスなどで活躍した大ベテラン、原田武男(35歳)。持ち前の“散らし”と“溜め”は、チーム全体のリズムを作る面で欠かせません。そして、もう1人は清水商業出身で、東京Vと湘南でプレーした経験のある佐野裕哉(24歳・主将)。状況判断、ボールコントロールに優れ、決定的なシーンも演出できる選手です。この2人が新加入のツートップ、共にアビスパ福岡出身の福嶋洋(23歳)と有光亮太(25歳)らとのコンビを磨けば、非常に魅力的なチームになると思います。
 ちなみに4月1日の第2節、海邦銀行戦(昨季9チーム中9位)では12-0で圧勝しました。結果、同じく2戦2勝の新日鐵大分(同2位)、三菱重工長崎(同7位)を得失点差でおさえて1位(沖縄かりゆしFCと、JFLから降格したホンダロックは1試合のみ消化)。結果としては好スタートを切ったわけです。その一方で、V・ファーレン同様にJリーグを目指しているニューウェーブ北九州(以下NW・同3位)は1節で七隅トンビーズ(同8位)に5-1で勝ったものの、2節で三菱重工長崎に0-1で敗退。JFL同様、企業チームは地味ながらも完成度が高いため、侮れません。CKからフリーでヘッドを打たれて失点した点も情けなかったです。今季NWに加入した藤吉信次(元・読売クラブなど)いわく、「こういう取りこぼしをしていたら上にあがれない」。その通りだと思います。もっとも、三菱重工長崎の組織的なプレッシングも素晴らしかったです。
 ところでV・ファーレンの監督は国見高校でサイドアタッカーとして全国高校選手権などで活躍した岩本文昭氏(38歳)です。古い話になりますが、同高が全国選手権で初優勝した年、取材したことがあります。駒沢大学に在籍していた岩本氏は選手が滞在していた東京・本郷の旅館にやってきて、後輩たちのヘルパーを見ていました。面倒見の良い“熱い”先輩でした。現在、同氏は地元の銀行に勤務しながら監督をしています。ファンたちからも「イワモト・ナガサキ」というフレーズが再三、叫ばれるほど人気です。
 日本全国の「Jリーグを目指す」クラブの中では、補強という点では地味な面もありますが、岩本監督、原田選手はじめ地域密着という「根っこ」がある点は素晴らしいと思います。試合会場のアクセスが不便ゆえに島原駅からタクシーを利用したら、運転手の方に「甥がGKをやっている」(近藤健一=国見高校出身、元FC東京、23歳)といわれ、驚きました。また、地元マスコミの報道も地域リーグとしては破格です。1節の翌日、つまり4月1日の日曜日は1ページの約半面をさいてV・ファーレンをメインに三菱重工長崎の試合結果を報道していました。その一方で、例えば翌2日の福岡県の地元紙はNWの試合結果のみ。プロ野球が人気でアビスパ福岡もあり、さらにはNWは博多ではなく小倉のクラブという点も問題なのでしょうが……。
 Jリーグを目座すクラブを見に行くのは不便さの連続で、ストレスが溜まりますが、その分、嬉しさもあります。ただ、少なくとも、この2日間の九州リーグは「運営」はできましたが、アクセスを含めて「見たい」ファンへのPRも配慮も足りなかったと思います。V・ファーレンの試合時にはクラブグッズや焼きそばなどを売っていましたが、試合後は即、撤収。せっかく、集中開催するなら、各クラブが協力し合ってグッズを販売したり、リーグ全体のPRをするなどしても良かったのではないでしょうか。V・ファーレンが試合をしなかった会場では、場内アナウンスもなければ、メンバー表の配布もなかったです。
例えば第2節には大隅NIFSユナイテッド対ヴォルカ鹿児島の“鹿児島ダービー”もあったにも関わらず、全チームを紹介していたパンフレットすら販売していないのは残念でした。地元新聞の方々にも、是非、相手クラブの情報も掲載してほしいと思いました。

PS 九州リーグ注目カード。かなり先ですが5月19日、NW北九州対V・ファーレン

<写真>熊本教員蹴友団戦。得点を決めた有光(右)と鎌田安啓(左)

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