beacon

Jを目指せ! by 木次成夫

このエントリーをはてなブックマークに追加

第22回 「キリンカップの日」特別編
by 木次成夫

6月3日(日)、長野県松本市の総合球技場アルウィンで、キリンカップのモンテネグロ対コロンビアが行われました。大会告知ポスターのキャッチコピーは「その日、MATSUMOTOは、世界になる」。その結果、「その日、松本山雅FCは、長野市で試合をした」のです。

普段は長野パルセイロがホームで使用している南長野運動公園総合球技場(長野市)で13時から松本山雅対新潟経営大学戦、17時から長野パルセイロ対上田ジェンシャン戦が行われました。ちなみにキリンカップのキックオフは13時15分で、前座のU-15日本代表対U-16長野県国体選抜戦は10時20分キックオフ。南長野運動公園のある篠ノ井までは、松本市内から車で1時間程度です。つまり、キリンカップ後、急いで移動すれば長野対上田戦には間に合いますが、キリンカップ(前座を含む)にも魅力を感じていた松本山雅ファンは、どちらの試合を見るか“厳しい選択”をせざるをえなかったわけです。長野県選抜には地元、松商学園所属の選手もいました。また、長野県で国際Aマッチが開催されるのは史上初のことでした。ましてや、モンテネグロは初の外国遠征ですし、コロンビアは日本よりも強豪です。173センチながらも世界トップクラスのDFとして有名なイバン・コルドバもいます。子供たちにとってはサッカーの勉強になることはいうまでもなく、ファンは「その日、MATSUMOTOで、世界も見る」ことで、地元クラブのある喜びと夢を改めて感じる機会になったと思うのですが……。北信越リーグを土曜日に開催するなど、日程を変更できなかったのでしょうか?
 もっとも、地域リーグ所属クラブのスケジュールが過密なのは、事実です。アマチュア選手が多いこともあり、試合は週末、あるいは祝祭日。ナイター設備のないスタジアムもある上に、試合運営費を低額にすませたいという点からか、基本的に昼間開催です。
 例えば北信越リーグは4月8日開幕で、最終節は7月22日。その間、全国社会人選手権(通称、全社)、天皇杯県大会などを含めると、土日ともに休める週はありません。それどころか、4月29日から5月6日の8日間で4試合(うち3試合は天皇杯県大会)、5月26日と27日はリーグ連戦という過酷なスケジュールでした。
リーグ終了後も忙しい状況は変わりません。長野県を例にとると、以下の通りです。
7月29日=天皇杯県大会4回戦。8月5日=同5回戦。8月11日=同準決勝。8月17日―19日=全社北信越大会。8月24日―26日=北信越国民体育大会(国体の予選に相当します)。9月2日=天皇杯県大会決勝。9月16日以降=天皇杯(詳細未発表)。9月30日―10月4日=国民体育大会(秋田県開催)。10月12日―17日=全国社会人選手権(大分県開催)。11月下旬―12発上旬=全国地域リーグ決勝大会(詳細未発表)。
国体はプロ選手には出場資格がないものの、各都道府県の判断で、単独チームでも選抜チームでも参加できます。ただ、決勝まで4連戦という日程です。全社はさらに過酷で、決勝まで5連戦です。地域リーグ決勝大会は詳細が未定なので昨年の例をあげると、グループリーグ3連戦というチームもありました。
つまり、強いチーム(勝ち続けるチーム)ほど、過密なスケジュールで試合をこなすわけです。

 完全なプロ選手ならまだしも、仕事もこなしつつプレーするアマチュア選手にとっては過酷です。昨年の例をあげると、V・ファーレン長崎はケガ人が続出して、全国地域リーグ決勝大会前に短期的に10人近い選手を補強せざるをえませんでした。過密スケジュールに加えて、土のグラウンドでも練習せざるを得ない環境なども影響したのでしょう。
 多少でもスケジュールを緩和するためには、例えば、国体の青年サッカー競技を廃止すべき時期がきているのではないかと思います。

 忙しいのは大人だけではありません。高校生と、その指導者も同様です。夏のインターハイ、冬の全国選手権に加えて、強豪チームはプリンスリーグ、全日本ユース選手権などがあります。ちなみに長野県の場合、6月2日はインターハイ長野県準決勝、3日は決勝でした。
6月2日にU-15日本代表の練習をアルウィン・サブグラウンドで見て、思いました。長野県中のサッカー少年少女と指導者にとっては、予定を変更してでも見学する価値があったのではないか、と――。トップクラスの選手のプレーはいうまでもなく、日本最先端の練習を間近で見られるという点でも貴重な機会です。試合や練習の関係で、見たくでも来ることはできなかった人が多かったようですが、“もったいない”と思いました。

ところで、3日に行われた試合の観衆は、キリンカップ=10070人、松本山雅対新潟経営大=483人、長野対上田=1093人(すべて主催者発表)でした。キリンカップ前座の観衆数は発表されませんでしたが、大雑把に俯瞰した印象では、7-8割が前座も観戦しました。
5月20日のホーム、JSC(ジャパンサッカーカレッジ)戦で2006人を集めた山雅としては、観客激減です。その一方で、長野は第1節・新潟経営大戦の1358人には及ばないものの、第3節・ヴァリエンテ富山戦の969人を上回りました。ちなみに、山雅主催試合は入場料無料ですが、長野主催試合は500円(子供200円)です。
僕はキリンカップ後に長野対上田戦に向かったのですが、見ごたえのある試合でした。結果は長野が2-1で逆転勝ち。最下位の上田ジェンシャンが元Jリーガーを複数擁する長野相手に、粘り強い組織的守備とカウンター狙いで最後まで闘志溢れる試合をした点が印象的でした。さすがは、2001年の全国地域リーグ決勝大会で4位になったアマチュアクラブです。そんな上田を粉砕した長野の攻撃的3トップ・スタイルも圧巻でした。攻撃的ゆえにピンチも多い“ハラハラ、ドキドキ感”は、90年代中盤のアヤックスや現在のFCバルセロナと似た魅力です。
試合後、長野のバドウ監督(元イラン代表監督)と選手たちは、ファンとの記念写真や握手に応じたり、きさくに話をしていました。前節、アウェー連戦の疲労ゆえか、ヴァリエンテ富山にまさかの敗戦を喫したゆえに、喜びも大きかったのでしょう。
関西リーグ、四国リーグを見た翌週ゆえに“より”感じたのですが、長野県のサッカー熱は不思議です。相対的かつ歴史的に見れば日本有数の「サッカーの不毛の地」を何が変えつつあるのでしょうか? 
 
今まで紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●JFL
6月2日・3日 第14節
YKK AP 0-0 FC 岐阜 
ロッソ熊本 1-1 佐川急便SC
栃木SC 1-1 三菱水島FC
アルテ高崎 1-2 佐川印刷
首位=佐川急便SC(勝ち点35)、2位=FC岐阜(同33)、3位=ロッソ熊本(同31)、4位=横河武蔵野FC(24)、5位=栃木SC(同23)、18位=アルテ(最下位、同4)

●北信越リーグ 
6月3日=第9節
JSC(ジャパンサッカーカレッジ) 2-1 フェルヴォローザ石川・白山FC
松本山雅FC 12-0 新潟経営大学
長野パルセイロ 2-1 上田ジェンシャン
ツエーゲン金沢 3-0 ヴァリエンテ富山
首位=JSC(勝ち点22)、2位=松本山雅(同21)、3位=長野(同19)、4位=ツエーゲン金沢(同18)、5位=フェルヴォ(同15)、6位=V富山(同6)

● 中国リーグ
6月3日 第9節(前期最終節)
ファジアーノ岡山 13-0 日立笠戸 
ファジアーノは開幕9連勝。ダントツ首位で前期終了。相変わらず、強すぎです!

● 九州リーグ
6月2日・3日  第10節、第11節(前期最終節)
6月2日
熊本教員蹴友団 0-1 ニューウェーブ北九州
6月3日
ニューウェーブ北九州 11-0 海邦銀行
ホンダロック 3-1 V・ファーレン長崎
首位=ホンダロック(勝ち点27)、2位=NW北九州(同25)、3位=V・ファーレン(同23)。
ホンダロックは昨季JFL最下位チーム。九州社会人連盟の規定により、前期上位2チーム(ホンダロックとNW北九州)は全国社会人選手権出場権獲得。

<写真>キリンカップのポスターに記された松本開催試合キャッチコピー

※本コラムは毎週火曜日更新予定です

TOP