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Jを目指せ! by 木次成夫

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第23回 信州ダービー「全国社会人選手権」展望編
by 木次成夫

 先週に続いて長野県松本市に行ってきました。6月10日、全国社会人選手権長野県大会決勝、松本山雅FC(9節終了時点でリーグ2位)対AC長野パルセイロ(同3位)。4月29日の山雅ホームのリーグ戦には、入場料無料とはいえ6399人の観客が集まった「信州ダービー」です。

 全国社会人選手権(通称・全社)は今年が43回目で、10月12日から17日まで“チャレンジ! 大分国体サッカー競技リハーサル大会”と銘打って、開催されます。優勝チームは所属リーグ順位に関わらず、「JFLへの登竜門」全国地域リーグ決勝大会(11月23日から開催予定)に出場できます。全社・優勝チームが地域リーグ枠で出場権を得た場合は、準優勝チームに出場権が与えられます。昨年は、九州リーグ王者のV・ファーレン長崎が全社を制したため、全社・準優勝の静岡FC(東海リーグ2位)が出場権を得ました。

 つまり、地域リーグ所属クラブ、中でも北信越リーグ所属の「Jを目指す」クラブにとっては、他地域とは比較にならないほど重要な大会なのです。8クラブ中5クラブが「Jを目指す」激戦区ながら、地域リーグ決勝大会出場枠は「1チーム」なのですから。
 
 全社・長野県大会決勝は、1-0で山雅が勝利しました。ホームながら0-1で敗れたリーグ戦の雪辱を果たしたわけです。観衆は1215人(公式発表)。リーグ戦に比べるとはるかに少ないですが、キックオフが10時30分と早かったことと、大会の知名度の低さを考慮すれば、“よくこれだけ集まった”という印象です。1人あるいは、2~3人で訪れた中高年のファンも目立ちました。以前は、生活感覚としてはライバル意識を持ちつつも、サッカーには興味がなかった方々にも徐々に火がついてきた感じです。さすがは、明治維新の廃藩置県で当初は「別々の県」だった都市どうし。例えば、企業サッカー部から発展した2クラブが争う“多摩川クラシコ”とは、かなり状況が違います。
 
 試合は“今季2度目のダービー”と言うにふさわしい展開でした。リーグ戦は山雅の持ち味である「サイドの攻防で優位に立つ」サッカーができなかったのが、敗因のひとつでした。そして、一瞬の気の緩みを長野のエース、要田勇一(前ジェフ千葉)に突かれました。全体的に小粒な山雅に対して、大味な面もあるものの際立った個人の能力で競り勝った長野。拮抗しているとはいえ、山雅の限界が見えたような試合でもありました。
ところが、全社・決勝の山雅は課題を修正して、粘り強いサッカーを展開できました。DFを含めた両サイドが強引なアタックを自重し、スタミナを浪費しなかった点が勝因のひとつだと思います。小粒ながらも完成度を高めた山雅の組織力が、長野の“優れた個”を抑えきった試合でした。決勝点を決めたのは、4月のリーグ戦で“ほぼ消えていた”左サイドアタッカーの竹内優(写真)。得点チャンスを再三逃して気が緩んだ長野の隙を狙ったゴールでした。これで今季1勝1敗。7月1日予定の長野ホームのリーグ戦が楽しみです。長野にとっては、残された“JFLへの道”はリーグ優勝しかないわけですから、熱い戦いになることは間違いありません。
ちなみに竹内優は駒沢大学出身で、去る1月のインカレ決勝では途中出場ながら2得点を決めるなど優勝に貢献した選手です。グランパスに入団したエースFW、巻佑樹らに比べると地味な存在でしたが、山雅では開幕からレギュラーとして活躍しています。Jリーグと地域リーグは当然ながらレベルが違いますが、真剣勝負の連続で成長しています。それは、駒澤大学のチームメイトの三栗寛士(インカレ・ベストGK)、近畿大学卒の片山真人(FW)と金沢慶一(右SB)、びわこ成蹊スポーツ大学卒の今井昌太(右サイドアタッカー)も同様です。チーム全体としては主将の土橋宏由樹(元・甲府)らの指導のもと、「インカレ風」サッカー進化中、という感じです。

 同じ10日、石川県では全社・石川県決勝が行われ、ツエーゲン金沢(リーグ4位)が昨年度優勝のフェルヴォローザ石川・白山FC(リーグ5位)に3-0で勝ちました。リーグ初戦はツエーゲンが勝ち、2戦目はフェルヴォが雪辱を果たし、今回はツエーゲンがリベンジ。長野同様、石川県の覇権争いも激しいです。
 
 ところで、全社出場に至るプロセスは地域によって違います。北信越のように、トーナメント方式をとっている地域もあれば、リーグ順位を考慮した上で、集中開催で出場チームを決める地域もあります。例えば、九州地域は「リーグ1部前期リーグ上位2チーム」(1位=ホンダロック、2位=ニューウェーブ九州)に出場資格が与えられ、残る2枠は、8月に予定されている全社・九州大会で争われます。昨年の全国地域リーグ決勝大会でV・ファーレン長崎がベスト4に残ったため、今年度大会の九州地域出場枠は「2チーム」ですが、V・ファーレンはリーグ前期3位。つまり、V・ファーレンにとっては今後のリーグ戦同様に、全社・九州大会も大問題です。

 山雅とツエーゲンは8月に長野県で開催される全社・北信越大会に臨みます。大会出場枠は「3チーム」。社会人サッカー連盟登録チーム数の比率をもとに、出場枠が全国9地域に配分されているため、チーム数が少ない北信越地域はリーグ戦同様に「最大の激戦区」なのです。リーグは7月22日が最終節。つまり、結果がでた後の大会ですから、リーグ優勝チーム以外は「死活問題」。プレーのレベルを補ってあまりある、日本屈指の熱い大会になるでしょう。

今まで紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●JFL
6月9日・10日 第15節
佐川急便SC 2-4 YKK AP
FC岐阜 1-2 ジェフリザーブス
Honda FC 2-4 ロッソ熊本
三菱水島FC 1-0 栃木SC
FC琉球   3-1 アルテ高崎

首位=佐川急便SC(勝ち点35)、2位=ロッソ熊本(同34)、3位=FC岐阜(同33)、7位=栃木SC(同23)、18位=アルテ(最下位、同4)
佐川急便と岐阜が破れたため、ロッソが首位と勝ち点差1の2位に上昇。Jリーグ準加盟クラブのひとつ、栃木SCは10節から3分け3敗。アルテは17位のFC琉球と勝ち点差9。次節の注目カードは、佐川急便SC対FC岐阜と栃木SC対流通経済大学(16日)


●関西リーグ
6月9日・10日 8節
グラスポ柏原 0-2 FC Mi-OびわこKusatsu
FC京都BAMB 1993 0-4 バンディオンセ神戸
Mi-O、,バンディともに7勝1敗ながら、得失点差でバンディが首位。最終節(7月22日)のMi-Oホームの直接対決間までもつれ込むか!? 

●中国リーグ
6月10日 第10節
JFE西日本 0-7 ファジアーノ岡山  
ファジアーノは開幕10連勝。通算58得点、2失点。ダントツ首位。相変わらず、強すぎです!

※本コラムは毎週火曜更新予定。試合の模様は最新Photo Newsもご覧ください

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