beacon

Jを目指せ! by 木次成夫

このエントリーをはてなブックマークに追加

第25回 FCアンテロープ塩尻&北信越リーグ11節
by 木次成夫

 激戦模様が楽しくて、またもや北信越リーグを見に行ってきました。といっても、今回は2部リーグのFCアンテロープ塩尻(略称アンテ)対サウルコス福井。アンテロープ・ファンの読者から「大事な試合」という趣旨の情報メールをいただいたのも、観戦を決めた理由でした。
※情報はこちらまで、お待ちしております。

 アンテは1955年発足の長野県教員チームから発展してきたクラブです。ホームタウンの長野県塩尻(シオジリと発音します)市は人口約6万8000人の小都市で、松本市の南に隣接しています。地理的には松本平という盆地にあることもあり、松本対長野のような歴史的対立関係はありません。アンテロープ(英語)は“かもしか”。長野県の“県獣”です。

 04年に北信越リーグ2部で新潟経営大学に次ぐ2位になり、05年は1部に昇格したものの、最下位。2部優勝の松本山雅FCと入れ替わる形で2部に降格し、昨季は5位でした。積極的な補強で「Jを目指す」クラブに比べると、地味な存在ですが、05年には長野エルザ(現・パルセイロ)を破って天皇杯に出場した実績があります。1回戦でバンディオンセ神戸(兵庫県代表)に0-1で敗れてしまいましたが……。

6月24日
北信越リーグ2部
アンテロープ塩尻対サウルコス福井

 会場は松本山雅がホームで使用しているアルウィン。住所は松本市ですが、アンテにとってもホームであり、聖地です。雨にも関わらず観衆は120人(公式発表)。数少ないながらもサウルコス・ファンもおり、福井のサッカー熱を感じました。
 10節終了時点で首位はサウルコス福井(勝ち点25)で、2位はグランセナ新潟(勝ち点21)。アンテは勝ち点18の3位。残り4試合で、首位との勝ち点差は7。つまり、サウルコス戦はアンテにとって“絶対に負けられない”試合でした。サウルコスは昨年設立された「NPO法人 福井にJリーグチームをつくる会」が、昨季2部2位のFC金津を母体にしてJを目指し始めたクラブです。スポンサーのバックアップという点を含めて、勢いという点ではアンテに勝っていますが、試合はアンテが2-1で勝利。サウルコス関係者の方には申し訳ない言い方になりますが、サッカーの醍醐味を感じさせる試合でした。
 この日の試合結果で
首位=サウルコス(勝ち点25)
2位=グランセナ(同24)
3位=アンテ(同21)
4位=大原学園(同=19)
 となりました。残り3試合の激戦が楽しみです。

 ところで試合前、アンテの公認サポータークラブの方がスタンド席を回って、マッチデー・チラシと、「同じ夢をかなえよう」というタイトルにメッセージを書いた紙などを配っていました。チラシはA4サイズで前節までの概況、順位表、予想スタメン、今後の試合予定がコンパクトにまとめられていました。地域リーグ2部のクラブということを考慮すれば、“日本最高レベルのホスピタリティ”といっても過言ではないほど、ありがたかったです。

 メッセージも感動的でした。一部を以下に抜粋(カッコで括った部分)します。

「Jリーグを目指すには大量のJ経験者を採用するという方法もあります。ですがアンテロ-プ塩尻はそうした選択をしていません。アンテロープ塩尻は長野県で生まれ育った選手や、県内の大学を卒業した選手が多いという特色があります。私達は長野県で働き、長野県で暮らしています。ここには家族がいる。恋人がいる。友達がいる。しっかり地に足をつけ、地元地域のみんなといっしょに夢を追い続けたいからなのです」

「あなたと同じ出身校の選手がJの舞台を目指しています」

「もしもあなたが、信州が大好きなら。もしもあなたが、信州のために何かしたいのなら。もしもあなたが、誰かを支えてみたいなら。いっしょにアンテロープ塩尻を応援しよう!

もしもあなたが、疲れてしまっているのなら。もしもあなたが、泣きたいくらいしんどいなら。もしもあなたが、元気がないなら。アンテロープ塩尻から勇気をもらおう!」

「DREAMS COME TRUE 同じ夢をかなえよう 私達の信州のために」
 
……例えば、NHKドラマ「風林火山」に便乗した大々的な観光PRとは比べ物にならない“ぬくもり”を感じました。

 多くのスポンサーと自治体の支援のもとで短期的にJリーグを目指しているクラブに比べると、アンテは数多いアマチュア・クラブのひとつです。練習は平日夜間、週に2回。現状では、Jリーグは“はるか遠い夢”です。でも、数少ないながらも、地道かつ熱いサポーターがいます。福井戦のスタメンのうち10人が長野県出身で、残る1人は岐阜県出身ながら信州大学卒業。ユース(高校)こそないものの、キッズ(U6)からジュニアユース(U15)までは下部組織があります。トップチーム監督の奥田真央氏いわく「育った選手が大人になってから、戻って来られるようなクラブにしていきたい」。
 こんな志を持ったクラブが日本中で増えれば最高なのだろうと思いました。Jリーグは決して天国ではありません。一度、昇格したら、たとえダントツで低迷しても降格できないのです。強くなればファンが増えるかもしれません。でも、弱くなるとファンが減る可能性もあります。つまり、短期的強化で昇格を果たすことは、必ずしもベストではないのです。そもそも、すべての“Jを目指すクラブ”関係者の目標は、強さには関係なく、地域にとって“かけがえのないクラブ”になることではないでしょうか。いわば、アンテは地元の食堂みたいなもの。大資本が運営するレストランにはない魅力がある……という感じです。

北信越リーグ1部
上田ジェンシャン対ツエーゲン金沢

 アンテ対福井戦後、上田ジェンシャン(最下位)対ツエーゲン金沢(4位)が行われました。ちなみにジェンシャン(英語)は、長野県花“りんどう”です。結果は0-9でツエーゲンが完勝。上田は前半こそ0-2と粘りましたが、元Jリーガーを多数揃えたツエーゲンとは自力が違いました。

 2部と1部の試合を同じ会場で続けて見られることは、楽しいことです。来期は是非、こういった機会を増やしてほしいものです。また、この2試合を見て、思いました。当たり前のことですが、ライバルがいてこそサッカーは楽しくなる──と。例えばジェンシャンは、アマチュア・クラブゆえに低迷していますが、数年前には全国地域リーグ決勝大会に出場するほどの強豪でした。
 脇役といっては失礼ですが、ジェンシャン、アンテのようなクラブの存在あってこそリーグ戦が楽しくなるのだと思います。かつて、横浜フリューゲルスとマリノスが合併したような「大資本の事情」に左右されずに、それぞれが群雄割拠の道を歩んでほしいものです。

 ところで、北信越1部リーグは、残り3試合で首位から4位までの勝ち点差が4という状況になりました。つまり、4チームに優勝の可能性があります。24日の結果は以下の通りです。

新潟経営大学 0-2 長野パルセイロ 
フェルヴォローザ石川・白山 4-1 松本山雅
ヴァリエンテ富山 0-8  JSC(ジャパンサッカーカレッジ)
上田ジェンシャン 0-9 ツエーゲン金沢 

首位=JSC(勝ち点28)
2位=長野パルセイロ(同25)
3位=松本山雅(同24)
4位=ツエーゲン金沢(同24)
 ※得失点差
5位=フェルヴォ(同18)
6位=ヴァリエンテ富山(同6)

 次節(7月1日)は長野対松本、ツエーゲン対JSC。JSCと長野が共に勝てば、松本とツエーゲンは優勝の可能性がなくなります。戦力的に見ると、優勝戦線の鍵を握るのは、個々の選手のレベルで分があるツエーゲン。中でも5月上旬に松本山雅から加入した奈良安剛(元・札幌など)が効いています。逆転優勝も十分にありえます。


今まで紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●JFL
6月23日・24日
第17節(前期最終節)

佐川印刷 2-2 栃木SC
FC岐阜 4-2 ガイナーレ鳥取
三菱水島FC 1-0 ロッソ熊本
ジェフリザーブズ 2-1 アルテ高崎
Honda FC 2-2 佐川急便SC

首位=佐川急便SC(勝ち点39)、2位=ロッソ熊本(同37)、3位=FC岐阜(同36)、7位=栃木SC(同25)、18位=アルテ(最下位、同5)
首位の佐川急便が分け、2位ロッソが敗れたため、FC岐阜との勝ち点差が縮まった。栃木SCは前節終了後、高橋高監督が辞任。10節から5分け3敗の不調。新監督の柱谷幸一氏(前・京都監督)のもと、後半戦での挽回を狙う

●関西リーグ
6月23日
第10節

ASラランジャ京都 0-4 FC Mi-OびわこKusatsu
アイン食品    1-4 バンディオンセ神戸 
首位バンディと、2位Mi-Oの勝ち点差は2。Mi-Oホームの直接対決(7月22日)まで、優勝争いはもつれこむか?

●四国リーグ
6月24日
第9節
徳島コンプリール 0-4 カマタマーレ讃岐 
南国高知FC 3-1 三和クラブ
首位は得失点差でヴォルティス・アマ。今後の注目は7月15日、ヴォルティス・ホームのカマタマーレ戦。南国高知は3位

<写真説明>試合後、勝利を喜ぶアンテロープのファンと選手たち

●このコラムの感想、あなたの地元の「Jを目指す」クラブ情報をぜひこちらにお送りください!

※本コラムは毎週火曜日更新予定です

試合の模様は最新NEWS
06.24?命・・恁・血浣部、2部

TOP