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Jを目指せ! by 木次成夫

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第32回 JFL後期7節 横河武蔵野FC対ロッソ熊本
by 木次成夫

 8月11日、土曜日。東京都江東区、夢の島競技場。新木場駅から徒歩5分以内。アクセスの良さという点では日本トップクラスです。対戦カードは2位ロッソ熊本と6位横河武蔵野FC。武蔵野は後期5節アウェーの栃木に0-1で敗戦、同6節アウェーの岐阜に1-1の引き分け。善戦が続いていました。「Jを目指すクラブ」にとって、最も厄介な存在といっても良いでしょう。

 観衆は672人(公式発表)。うち約半数はロッソ・ファンでした。東京在住の熊本県出身者が集まったそうです。今まで「Jを目指すクラブ」の存在は、地方のアインデンティティという点でも価値があると思っていたのですが、東京(大阪など大都会)に住む地方出身者にとっては年に1回(J2に昇格すれば年に2回)の“楽しみ”にもなるのだと実感しました。JFLに東京のクラブが所属している点も幸いです。ロッソ・ファンからすれば「JFLで県人会は今年が最後」となってほしいでしょうが……。

 試合はロッソが2-3で勝利。昨季もJリーグ昇格が期待され、リーグ随一の戦力を誇るチームとしては大苦戦でした。ロッソはスタメン中10人が元Jリーガー。対する武蔵野は、横河電機社員と“フリーのアマチュア”混合チーム。選手の経歴と試合成績だけ見れば、ロッソが勝って当然という感じですが、そうならないのがサッカーの醍醐味であり、武蔵野の魅力です。

 ロッソは2点先制したものの、その後、追いつかれ、決勝点はロスタイム。決勝点を入れたのは、現在リーグ得点王の高橋泰(前・ジェフ)。武蔵野DFのヘディング・クリアが流れたところを拾って、冷静に狙ったシュートでした。ロッソの池谷友良監督いわく、「引き分けで良しとするのではなく、(失点する)リスクをおかしても、“勝ち点3(勝利)を狙っていた」。

 同じ11日、首位・佐川急便がアローズ北陸と引き分けたため、ロッソと佐川の勝ち点差は5に縮まりました。「Jを目指していない」佐川がダントツ優勝を果して、イマイチながらも「J昇格」なんて、格好悪い状況にならないよう、頑張ってほしいものです。

 試合後、ロッソの選手たちは羽田23:30発北九州行きの最終便で帰りました。熊本行きの最終便には間に合わないため、1泊するかと思っていたのですが……。夜中に熊本に着く選択をした理由のひとつは、経費削減。かつて群馬FCホリコシ(現・アルテ高崎)でJFLを経験した方が運営に関わっているからでしょうか、堅実な点にクラブの未来を感じます。

 ところで武蔵野ですが、サイドを広く使った“つなぐ”サッカーは、期待通りでした。ロッソ戦では身長171cmの長沼圭一(23歳・早稲田大学卒1年目)をワントップで起用する4-4-1-1フォーメーション。ロッソのCB、上村健一(元・広島など)、矢野大輔(前・鳥栖)が“高さ”とフィジカルコンタクトの強さに比べると、足元のプレーの脆さがある点を狙ったのでしょう。実際、ロッソ守備陣が戸惑うシーンもありました。ちなみに、守備陣からのフィードはロッソの課題です。
 武蔵野の依田博樹監督は千葉県の名門、習志野高校出身。コンサドーレ札幌の大塚信司と同級生の32歳で、現役選手、コーチを経て、今季からチームを率いています。“つなぐ”サッカーの完成度もさることながら、平日夜間練習にも関わらず、プロ集団に“ほとんどの時間帯で”走り負けしない点も驚きでした。今後の課題は“つなぐ”過程で、いかにシュートチャンスを作るためのアクセントをつけるか。とはいえ、武蔵野のサッカーは、負けても堪能できます。TV放映がないからこそ、いっそう、現場で見る価値があるチームだともいえます。実際、1人で静かに見ている大人のファンを何人も見かけました。

 都内及び近郊のサッカー好きの皆さん、武蔵野のサッカーは、お勧めです。たとえるなら、武蔵野のサッカーは美味な“大衆的”ハンバーグで、FC東京は“かなり”高級な素材を使ったステーキ。コストパフォーマンスで評価すれば、武蔵野の方が上かもしれません。

 ところで、この試合を見て、改めてJリーグに疑問を感じたことがあります。

1=サテライトリーグの存在意義って?
 サテライトを廃止して、各地の“大人のリーグ”に加入したほうが、選手の成長につながるのではないでしょうか。若い世代同士でサテライトを戦うよりも、レベルの低さを老獪なプレーで補う大人と真剣勝負をしてこそ得られるものもあるでしょう。もし、Jサテライトが地域リーグの「Jを目指すクラブ」と対戦したとすると……、若手Jリーガーは、相手チームのファンに罵倒されるかもしれませんが、「ファンあってのプロ」ということを実感できると思います。地域リーグ所属クラブの清貧な状況を見ることで、社会勉強にもなるはずです。ファンにとっては、観戦の魅力も高まります。また、Jリーグ特別指定選手という制度がありますが、彼らも地元の地域リーグ(都道府県リーグ)所属クラブでプレーしたほうが良いのではないかと思います。例えば星稜高校の鈴木大輔(U-17日本代表)は地元ツエーゲン金沢(北信越リーグ)でプレーする、というような特別措置です。現状よりも、はるかに「地域密着」していると思うのですが……。例えば、FCバルセロナBは4部に所属しています。かつては2部の強豪だった時代もありました。トップがアウェーの週にBのホーム試合を観戦することは、“通な”地元ファンの楽しみになっています。

2=指導者ライセンスの価値って?
 Jリーグ所属チームの監督は、国内最高峰のS級ライセンス所持者しかできません。理由はわかりません。例えば、武蔵野の依田博樹監督はS級を持っていません。では、S級保持者よりも能力がないかというと……少なくとも実践しているサッカーは遜色ありません。
 もし、S級所持者でなくても、クラブ側が「チーム予算などを考慮すればベストの選択」と判断するなら、まったく問題ないと思うのですが……。うがった見方をすると、S級限定すなわち排他的“互助会”制度とすら思えます。

今まで紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●JFL
後期7節(8月11、12日)

横河武蔵野FC 2-3 ロッソ熊本
FC琉球 0-1 FC岐阜
アルテ高崎 1-2 TDK 

首位=佐川急便(勝ち点58)、2位=ロッソ熊本(同53)、3位=FC岐阜(同42)、4位=YKK AP(同41)、5位=アローズ北陸(同41、得失点差)、6位=横河武蔵野(同38)、7位=Honda(同37)、8位=ジェフリザーブズ(同36)、9位=佐川印刷(同33)、10位=栃木(同32)、18位=アルテ高崎(最下位、同6)
*栃木SC対YKK APは8月25日に開催のため、3位と4位、9位と10位は暫定。FC岐阜は片桐淳至のゴールで7試合ぶりの(後期初)勝利。次節の注目カードはFC岐阜対ロッソ熊本(8月19日)、佐川急便対栃木(19日)。

●北信越リーグ所属クラブ 
天皇杯長野県予選準決勝(8月11、12日)

松本山雅 3-0日精樹脂工業(11日)、
上田ジェンシャン 1-4大原学園(12日)
*決勝は9月2日。大原学園は北信越リーグ2部所属

●中国リーグ
13節(8月11日、未消化試合)

セントラル中国 5-2 レノファ山口
*セントラルは1位ファジアーノ岡山と勝ち点差12の2位

●九州リーグ
20週(8月12日)

V・ファーレン長崎 0-1 ニューウェーブ北九州
首位=ホンダロック(勝ち点48=17試合)、2位=NW(同46=17試合)、3位=V・ファーレン(同44=18試合)
*NWの得点は藤吉信次。V・ファーレンは全国地域リーグ決勝大会出場権(2位以内)自力獲得の可能性がなくなった。NWとホンダロックは残り3試合、V・ファーレンは2試合。今後の注目カードは、NW対ホンダロック(9月9日)、V・ファーレン対ホンダロック(10月28日=最終戦)


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