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Jを目指せ! by 木次成夫

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第35回 群馬リーグ1部 図南SC群馬&「天皇杯展望」編
by 木次成夫

 天皇杯予選の都道府県決勝が日本各地で行われた9月2日、群馬県では群馬県リーグ1部所属の図南SC群馬が、JFLのアルテ高崎に3-1で勝ち、本大会初出場を決めました。

 図南(トナン)の由来は、中国の故事「図南鵬翼」(大きく飛躍して大事を成し遂げようとする、という意味)。現在の監督、菅原宏氏らが前橋商業卒業後の82年にチームを結成して以来、今年で26年目になります。同氏は63年生まれの44歳。清水東高校で華麗なサッカーをした反町康治(北京五輪代表監督)、望月達也(仙台監督)らと「同学年」です。

 3月のプレシーズンマッチで、図南はアルテに5-1で快勝していました。その試合を見た時から、気になっていたクラブです。関東リーグ2部昇格を目指している段階は思えないほど、質の高いサッカーをしていました。スタジアム外で携帯ストラップなどクラブ公式グッズを売っていた他、TONANという文字が入った“お揃いの”トレーニングウエアを着た子供たちや、前橋商業のジャージを着た高校生が多数観戦していた点も印象的でした。さらには、スタンドのファンからは「図南も最近は、けっこう補強しているよね?」といった会話が……。地域密着ぶりに驚きました。

 実際、図南の下部組織整備はJリーグクラブにすら負けていません。幼児から小学校低学年向けのスクール、ジュニア(小学生)、ジュニアユース(中学生)、ユース(高校生)、女子、女子ユース&ジュニアユース、そして、シニアもあります。ちなみに、女子のジュニアユースチームは今年度、全日本女子ユース選手権(U-15)出場を果たしました。

 天皇杯予選決勝、アルテ戦の図南スタメン中、元リーガーは5人。GK鏑木豪(元・水戸など)、DF森田真吾(元・横浜FCなど)、MF氏家英行(元・大宮など)、マルキーニョ(元・FC東京など)、樹森大介(元・草津など)。と、書くと、「短期強化をして一気にJを目指すチーム」と思うかもしれませんが、菅原氏いわく「強化するために選手を集めてはいません。口コミなどで集まってくるんですよ」。

 観衆は870人(公式発表)。バックスタンドの一方には、約10人の熱いアルテ・サポーターがいました。その逆サイドを見ると、図南の下部組織の選手たちが数十人。「大会で来られないチームの選手以外は呼びました」(菅原監督)。

 今まであまり見られなかった光景でした。“なぜ、子供たちのスケジュールを変更してでも、トップチームの試合を観戦させないのか”と疑問に思うことは度々ありました。身近で見る大人のプレーは勉強になり、憧れにつながり、そして、クラブへの愛着度も増すのではないのか――。

 結果的に図南の子供たちにとって最高の試合になりました。どちらが格上なのかわからなくなるほど、図南の選手は落ち着いていました。カウンター狙いではなく、ボールを丁寧につないで、ゲームを作りました。

 中でも「キレまくって」いたのが、主将でサイドアタッカーの樹森大介(31歳)。状況に応じて両サイドを使い分け、ドリブルで駆け上がり、3点すべてに“からみ”ました。

 先制点は、左SB森田のセンタリングに樹森がボレーシュート。
 2点目は、樹森のドリブル突破から奪ったPKをタファレル(前・アルテ)が決め、
 3点目は、樹森のセンタリングにFWの関根秀輝(28歳、前・三菱水島FC)が走りこんで、スライディングでギリギリ合わせました。

「(樹森は)最近、良くなかったんですけど、久しぶりにやってくれました。スタンドで後輩も見ていましたし……」(菅原監督)。この試合のボールボーイは前橋商業サッカー部員。スタンドでも同校部員が観戦していました。

 樹森は地元、前橋商業出身で、専修大学卒業後、湘南ベルマーレ、水戸ホーリーホック、ザスパ草津でプレーした経験があります。図南に加入したのは昨シーズン。現在は、母校の前橋商業、図南の下部組織などのコーチをしています。

 JFAの「夢先生」を思い出しました。往年のスターが「夢の重要性を語る」授業をする企画です。価値のあることだとは思いますが、この日の樹森のほうが、はるかに子供たちに訴えることができたと思います。また、夢先生は授業後に帰ってしまいますが、樹森は毎日、地元にいます。

「見に来てくれたファンに感謝する気持ちを持って試合をしよう」(ハーフタイムに選手に向かって)
「次の世代に夢を伝えられないなら、意味がない」
「天皇杯では、群馬県にはザスパ以外にもチームがあるということを表現したい」

 菅原監督の言葉です。

 スタンドの子供からマルキーニョに向かって「マルちゃん、頑張れ」という声が何度も上がりました。それに笑顔で手を振って答えるマルキーニョ。彼は図南のフットサル場でコーチをしているそうです。「群馬に来て良かったと言ってくれています」(菅原監督)。

 地域密着という言葉では表現できないほど、温もりのあるクラブでした。というか、クラブの枠を超えた「ファミリー」という感じです。Jリーグへの道のりは長いかもしれませんが、現時点で図南ほど「Jの理念」を体現しているクラブは稀ではないか、とも思いました。

 天皇杯一回戦(9月16日)は、奈良県で天理大学と対戦します。

 また、Jリーグを目指すクラブでは、バンディオンセ神戸、FC Mi-OびわこKusatsu、V・ファーレン長崎、ビアンコーネ福島、ツエーゲン金沢、カマタマーレ讃岐などが天皇杯に出場します。昨年はバンディが横浜FCに、栃木SCが東京Vに勝つ、カップ戦ならではの「番狂わせ」がありました。果たして今年は……「Jを目指す」クラブとしての意地を見せてほしいものです。

 一回戦の注目カードをあえてあげるなら、ビアンコーネ対V・ファーレン。前者は登録の関係で県予選に出場できなかった小倉大昌ら、経営難に陥ったフェルヴォローザ石川・白山FCから加入した選手が出場可能です。試合開催地は、いわばホームのJビレッジ。準決勝で敗退したペラーダ福島のファンの方を含めて、福島県のサッカーファンには集まってほしいものです。

<写真説明>先制点をあげて歓喜する図南の樹森大介


Jリーグを目指す」クラブの動向

天皇杯予選決勝
JFL所属クラブ
栃木県予選(2日) 栃木SC 4-1 作新学院大学
岐阜県予選(2日)FC岐阜 6-0 岐阜経済大学
鳥取県予選(2日) ガイナーレ鳥取 4-1 境高校
熊本県予選(2日) ロッソ熊本 7-2 熊本大学

東北リーグ所属クラブ
福島県予選(2日)ビアンコーネ福島 2-0 古河電池FC

関東リーグ所属クラブ
東京都予選(2日)FC町田セルビア 0-1 明治大学

北信越リーグ所属クラブ
長野県予選(2日) 松本山雅FC 2-2(PK1-4)大原学園
石川県予選(2日) ツエーゲン金沢 2-1 テイヘンズFC
福井県予選(2日) サウルコス福井 2-3 丸岡フェニックス

関西リーグ所属クラブ
滋賀県予選(2日)FC Mi-OびわこKusatsu 4-2 びわこ成蹊スポーツ大学
兵庫県予選(2日) バンディオンセ神戸 1-0 関西学院大学

九州リーグ所属クラブ(2日)
長崎県予選(2日)V・ファーレン長崎 5-1 三菱重工長崎

中国リーグ 10節(未消化試合、2日)
2日 セントラル中国 4-2 フジタSC
*セントラルはファジアーノ岡山と勝ち点差9の2位。次節(9月9日)、セントラル対ファジアーノで敗れると、上位4チームで戦うプレーオフ(1回戦総当り)を待たずにファジアーノの優勝が決まる

四国リーグ 11節(未消化試合、2日)
徳島ヴォルティス・アマ 3-0 カマタマーレ讃岐
* カマタマーレ痛恨の敗退。ヴォルティス・アマは通産10勝1分け(勝ち点31)で首位。カマタマーレは9勝1分け1敗(勝ち点28)の2位ながら、自力優勝の可能性がなくなった。3位は南国高知FC(勝ち点24)

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