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Jを目指せ! by 木次成夫

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第36回 北信越リーグ 松本山雅「聖籠町の奇跡」
by 木次成夫

「Jを目指すクラブ」最大の激戦区を制したのは松本山雅FCでした。それも「ジョホールバルの奇跡」に劣らないほど劇的な結末。改めて、拮抗したライバルの存在あってこそサッカーは楽しくなると実感しました。

9月9日
リーグ最終節
JSC(ジャパンサッカーカレッジ) 2-2 松本山雅FC

前半17分 0-1 得点=明堂和也(JSC)
後半40分 1-1 得点=白尾秀人(山雅)
後半42分 1-2 得点=尾林陽介(山雅)
後半44分 2-2 得点=ルシアーノ佐藤(JSC=PK)。矢畑智裕(山雅)退場
後半44分     片山真人(山雅)退場

 最終節を前に山雅は勝ち点30の1位。JSCは同28の2位。そして、長野パルセイロが同28の3位。山雅と長野の「得失点差」の差は18。つまり、山雅は引き分ければ“ほぼ”優勝という状況でした。とはいえ、JSCは昨年度の王者。専門学校のチームですが、アテネア五輪代表のGK黒河貴矢ら元・Jリーガーはじめ、系列のアルビレックス新潟・シンガポールでのプレー経験がある選手もいます。簡単に勝てる相手ではありません。

 その上、JSCグラウンド(新潟県聖籠町)のピッチは人工芝。山雅が暑さと慣れないピッチでのボールコントロールに苦しむ中、JSCは馴染んだ感触を楽しむかのように、淀みないリズムで試合を展開しました。90分中80分は完全に山雅の「負け試合」。それでも引き分けに持ち込めたのは「選手の執念」(辛島監督)と、自分たちのサッカーへの“こだわり”、そして、アウェーの地に集まった500人近い、山雅ファンの声援の賜物でしょう。

 山雅の持ち味は4-2-3-1(4-4-2)からサイド攻撃を重視したポゼッションサッカーです。サイドアタッカーが相手に競り勝てない場合、停滞しがちですが、そんな場合には、スペースへの走りこみを得意にする“スーパーサブ”白尾秀人(前・甲府)を投入するなどして、活路を見出してきました。JSC戦も同様です。サイドアタッカーの竹内優(駒澤大学新卒)を白尾に代えたほか、「3人枠」を使い切りました。1点目は土橋宏由樹(前・甲府)のセンタリング、2点目は白尾のドリブル突破、共に竹内がプレーしていたゾーンが基点になりました。サイドからしかけた竹内。空いたサイドを生かした土橋と白尾。試合を通してみれば、両極端ともいえるプレーで相手を揺さぶった結果の2得点。これほど采配が的中する試合も珍しいと思いました。

 また、いわゆる“パワープレー”を最後までしなかった点、FW片山真人(写真)が強引にシュートを狙わずに、献身的に“クサビ”あるいは“スペース作り”に徹して、シュートを誘発した点も賞賛に値します。パワープレーは、いわばバクチ。せっかくキープしたボールを相手に渡す可能性も高いのです。その一方で、ポゼッションしている限り、得点の可能性がある上に、失点の可能性はゼロ。JSC戦の引き分けは結果だけでなくプロセスも歴史の「誇るべき1ページ」になりえると思います。最後までチームメイトを信じて“つなぐ”のが山雅のサッカーだ、と――。

「大学新卒を中心にした強化」
 山雅がJリーグを目指して活動を始めたのは北信越リーグ2部に所属していた04年でした。ところが、結果は2部6位。「一時は県リーグ降格も覚悟した」(関係者)という苦難の船出でした。そこで、クラブ側は短期的強化に乗り出します。翌05年、G大阪などでCBとして活躍した経験のある辛島啓殊氏を監督に招聘した他、元Jリーガーも含めた選手補強が功を奏して2部優勝。昨季(06年)は、さらなる強化で1部2位。優勝したJSCとの勝ち点差は、わずかに1。強化が結果に結びついたのは明らかですが、”急ぎすぎている”という印象も持ちました。元・Jリーガーがやがて衰え、去った後には何も残らないのではないか、という懸念です。

 ところが、今季は意外にも(幸いにも)大学新卒選手を中心にした強化路線に変更。小粒ながらもまとまりがあり、チーム全体的にはパワーアップしたサッカーに生まれ変わったのです。後に辛島啓珠監督に問うと「昨年の天皇杯1回戦で大学生(同志社大学)に苦戦(2-2の末にPK勝ち)したのも、方向転換のきっかけのひとつだった」とのこと。

 例えば、アテネ五輪を振り返れば明らかですが、選手は大学卒業世代になった後も成長する可能性があります。そこでカギになるのは、成長を促せる環境の有無です。言い方をかえれば、日々練習に励むことができる大学時代よりも、劣悪な環境下では成長しにくいということです。かといって、地域リーグ所属クラブが完全プロ化することは至難ですし、無理やりやれば、財政面で破綻してしまうリスクが生じます。

 そんな状況下、山雅が取った策は斬新ながらも、シンプルでした。「Jリーガーに次ぐ」程度の実力の選手を揃えれば、練習環境整備しだいでは、「Jリーグに次ぐ」程度のチームが出来る可能がある。おらそく、こんな感じでしょう。では、肝心の練習環境をどうするか。

 答えは、平日昼間練習への移行と、選手への仕事斡旋。例えば、インカレを制覇した駒沢大学のレギュラーで「インカレ・ベストGK」にも選ばれた三栗寛士はユニフォームの胸スポンサーのエプソン(の系列会社)で働いています。JSC戦では2本、決定的なシュートをセーブするなど大活躍しました。

「アントラーズユースの先輩の矢畑さんから、誘われたんです。せっかく、“必要だ”といってくれるチームがあるなら、“そこから這い上がってやろう”と思って、来ました。ファンも多いし、楽しいです」(三栗)

 最終節のJSC戦のスタメン中、今季新加入選手は7人(うち、大学新卒選手6人)。シーズンを通して見れば、主将の土橋宏由樹(29歳=主将=2年目、前・甲府)、矢畑智裕(27歳=3年目、元・鹿島など、鹿島Y出身)と三本菅 崇(29歳=3年目、元・浦和など)のCBコンビが軸になって、若手、中堅の持ち味を生かしました。ポジション別にバランス良く強化した監督やスタッフの手腕も大したものです。

「地域リーグ決勝大会に向けて」
 山雅は11月23日から始まる「全国地域リーグ決勝大会」に出場します。すでに、FC町田ゼルビア(関東リーグ)、ファジアーノ岡山(中国リーグ、Jリーグ準加盟)、バンディオンセ神戸(関西リーグ)の出場も決まっています。同大会で決勝に残った2チームがJFLに昇格しますが、山雅は結果に関わらず、今季活躍した若手が成長していく限りは、地道にやっていってほしいものです。

 かつてのザスパ草津や現在のロッソ熊本のような短期的強化スタイルは、もはや山雅には似合わないと思います。もしかしたら、そろそろ三栗らの後輩(大学生)から、「先輩、どうすっか?」みたいな感じで電話がかかってくるかもしれませんし、そうなれば、幸いです。

 例えば「Jリーグ」を目指す「Jターン」(就職)のクラブ、松本山雅。略して「JJ山雅」(JA=農協=みたいですが)。今までどのクラブもなしえていないスタイルを貫けば、また、そんな山雅に信州大学や、松本市(自治体)が協力すれば、地方活性化の見本にもなりえるのではないでしょうか。

<写真説明>優勝旗を掲げるFW片山真人。G大阪ユース出身、近畿大学新卒の23歳

「Jリーグを目指す」クラブの動向

●JFL
後期9節(8、9日)
アルテ高崎 1-3 流通経済大学
FC刈谷 2-1 FC岐阜
ロッソ熊本 1-2 YKK AP
栃木SC  0-3Honda FC
横河武蔵野FC 0-3 佐川急便SC
佐川印刷SC  2-4 ガイナーレ鳥取

首位=佐川急便SC(勝ち点61)、2位=ロッソ熊本(同54)、3位=YKK AP(同47)、4位=FC岐阜(同43)、5位=アローズ北陸(同43、得失点差)、6位=ジェフリザーブズ(同42)、7位=Honda FC(同41)、8位=横河武蔵野FC(同38)、9位=流通経済大学(同38)、10位=栃木SC(同35)、11位=三菱水島FC(同34)、12位=佐川印刷SC(同33)、13位=ソニー仙台FC(同31)、14位=TDK SC(同30)、15位=ガイナーレ鳥取(同30)、16位=FC刈谷(同26)、17位=FC琉球(同20)、18位=アルテ高崎(同6)
ロッソ、岐阜、栃木が痛恨の敗退。8節の1試合、佐川急便対栃木(9月28日)は未消化。10節は10月13、14日開催。注目カードは佐川急便対ロッソ熊本(13日)、FC岐阜対YKK(14日)。

●東北リーグ2部
金井クラブ 0-11ビアンコーネ福島 
ペラーダ福島 10-0 中新田SC
*首位=ペラーダ(10試合消化。勝ち点28)、2位=ビアンコーネ(9試合消化。勝ち点28)

●関東リーグ1部
後期7節(最終節=9日)
FC町田ゼルビア 0-1 日立栃木UVA SC
優勝=ゼルビア(勝ち点37、12勝1分け1敗)、2位=日立栃木(同27)

●北信越リーグ
14節(最終節=9日)
1部
JSC(ジャパンサッカーカレッジ)2-2 松本山雅FC
長野パルセイロ 4-1ツエーゲン金沢
新潟経営大学 4-2 フェルヴォローザ石川・白山FC
上田ジェンシャン 0-3 ヴァリエンテ富山

優勝=松本山雅(勝ち点31、得失点差32)、2位=長野パルセイロ(同31、得失点差17)、3位=JSC(同29)、4位=ツエーゲン金沢(同28)、5位=フェルヴォ(同24)、6位=ヴァリエンテ(同10)、7位=新潟経営大学(同9)、8位=上田ジェンシャン(同2)

2部
テイヘンズFC 0-2 サウルコス福井
富山新庄クラブ 2-2 FCアンテロープ塩尻

優勝=グランセナ新潟(勝ち点31)、2位=サウルコス福井(同28)、3位=大原学園(同26)、4位=アンテロープ(同23)、5位=CUPS NIIGATA(同20)、6位=丸岡フェニックス(同15)、7位=テイヘンズ(同12)、8位=富山新庄クラブ(同5)

●中国リーグ
14節(最終節=9日)
セントラル中国 0-2ファジアーノ岡山
優勝=ファジアーノ岡山(勝ち点42、14勝0敗)、2位=セントラル中国(同30)、3位=佐川急便中国(同21)、4位=レノファ山口(同21)。
*10月7、21、28日開催のプレーオフ(上位4チーム)で、セントラルは2位(地域リーグ決勝大会出場権獲得)を狙う


●四国リーグ
12節(9日)
カマタマーレ讃岐 6-1 三洋電機徳島
南国高知FC 6-4 しまなみFC
首位=徳島ヴォルティス・アマチュア(勝ち点34)、2位=カマタマーレ讃岐(同31)、3位=南国高知(同27)


●九州リーグ
20週(9日)
ニューウェーブ北九州 1-1(PK3-1) ホンダロック
新日鐵大分 0-2 V・ファーレン長崎 
首位=ホンダロック(勝ち点49、残り2試合)、2位=NW(同48、残り2試合)、3位=V・ファーレン(同47、残り1試合)
残すは10月27、28日(北九州集中開催)のみ。
NW対熊本教員蹴友団=10位(27日)
NW対海邦銀行=9位(28日)
V・ファーレン対ホンダロック(28日)

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