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Jを目指せ! by 木次成夫

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第37回 天皇杯1回戦 ビアンコーネ福島対V・ファーレン長崎
by 木次成夫

 ビアンコーネは東北リーグ2部南ブロック所属で、リーグ戦4試合を残して9勝1分(9月16日時点)。来季の1部昇格最有力候補です。天皇杯予選決勝では東北リーグ1部の古河電池FCを破りました。Jリーグを目指し始めて1年目の“順当な”快挙です。

 チーム全体が勢いに乗っている上に、天皇杯では新たな期待材料もありました。8月に加入した前・フェルヴォローザ石川・白山FC(北信越リーグ1部)の3人です。選手登録の関係で天皇杯予選は出場不可でしたが、この試合は揃ってスタメン出場。4-4-2の右MFに橋爪拓磨(22歳)、左MFに渡辺憲司(23歳)、そして小倉大昌(24歳)はエースストライカーの足立原健二(22歳、流通経済大学新卒)と2トップ。地域リーグ2部のチームとしては異例の「強力攻撃陣」が、一発勝負のカップ戦でどんなパフォーマンスを見せてくれるか。興味津々でした。

 対するV・ファーレンはJリーグを目指して本格的強化を始めてから3年目。昨季は九州リーグ優勝、全国社会人選手権優勝、全国地域リーグ決勝大会4位。ところが今季は、残り1試合という段階で3位(勝ち点47)。首位のホンダロック(同49)と2位のニューウェーブ北九州(以下NW、同48)が2試合残しているため、全国地域リーグ決勝大会出場(リーグ2位以内)も危うい状況です。V・ファーレンが停滞しているというよりは、昨季JFL最下位のホンダロックが降格してきた上に、NWが積極的な強化をしたため、九州リーグの覇権争いが熾烈になったわけです。

 V・ファーレンはチームとしてもクラブとしても地道に成長しています。当初は原田武男(35歳、元・横浜Fなど)だけだったプロ契約選手が昨季は5人、今季開幕前の体制発表時は9人。この試合のスタメン中、2人がJクラブからのレンタル(GK丹野研太=C大阪、DF梶原公=大分)で、6人が元Jリーガー。国見高校出身の重鎮、原田と左アタッカーの竹村栄哉(33歳、前・鳥栖)を除けば20代中盤が中心です。つまり、まだまだ成長段階。将来をしっかりと見据えているチームの「3年目」らしいと思います。岩本文昭監督(39歳)は指導に専念すべく、去る7月から勤務先の長崎銀行を休職中です。人手不足も理由でしょうが、GK練習では自らボールを蹴ります。精度が高い点は、“さすがは”元・国見高校のスター。休職を許可した長崎銀行の配慮も太っ腹だと思います。

 戦力的にはV・ファーレン勝利が順当ですが、必ずしもそうはならないのがサッカーの難しいところであり、魅力です。試合会場は福島県のJビレッジ・スタジアムだった点も、ビアンコーネにとっては追い風になりました。郡山(コオリヤマ)がベースのビアンコーネにとっては“ホーム”のようなものですから。

 数百人のファンの応援のもと、ビアンコーネは組織的かつ勤勉なプレッシングで序盤から互角以上に試合を進めました。「相手のアプローチ、勢いは素晴らしかった」(岩本監督)。中でも、フェルヴォから給料支払い遅延の末に契約解除された3人の、“失うものはない”ハングリー・パワーは圧巻。そんな“新人”に刺激されてか、主将のCB伊勢野司(29歳、仙台大学出身)は176cmながらも、高さですら負けない奮闘。格上相手にチーム全体が普段の“つなぐ”サッカーを実践した点も感動的でした。

 対するV・ファーレンは走力、体力、技術など個々の力では勝るゆえに、まだ“粘れる”、あるいは“つなげる”ような状況で、大雑把なパスを出すシーンが散見しました。一見、豪快ですし、実際、後半19分の決勝点は、サイドを幅広く使ったプレーで相手選手を散らして、スペースを狙う“持ち味”が活きました。シュートを決めたのは後半11分に交代出場したばかりの小田幸司(25歳、国見高校出身)。組織力だけでは凌ぎきれないフィジカル能力の差を感じさせましたが、試合全体を通して“もったいない”というのが率直な印象でした。

 失点後もビアンコーネの粘りは続きました。得点には至らないものの、ゴールを脅かす“惜しいシーン”を作ることはできました。結果、0-1。練習は平日夜で、試合前日も選手の仕事の関係で夜9時頃から練習を始めたアマチュア・チームとしては大善戦です。また、地域リーグ随一の強豪との戦いは、チームの現在位置を知る貴重な機会になったことでしょう。

 ところで、V・ファーレンは開幕当初と比べると、4-4-2から3-5-2にフォーメーションを変えていました。中でも注目は、主に左サイドでプレーしていた田上渉(25歳)を「中盤の底」にして、その前方に原田武男と佐野裕哉(主将・25歳)を置く構成です。後者2人のセンスを活かすと同時に攻守のバランスをとりたいという意図でしょう。まだ熟成段階ですが、面白い策だと思いました。

 田上渉(タガミ・ワタル)は国見高校出身で3年時は主将として大久保嘉人(V・神戸)、松橋章太(大分)らとインターハイ、国体、全国選手権の「三冠」を達成した選手です。現在、JFLのガイナーレ鳥取でプレーする川田和宏との「2人ボランチ」は地味ながら「攻守の要」でした。

 その後、田上は大阪商業大学に進学。「長崎に戻ることはないと思っていた」(本人)ところ、岩本監督から誘われてV・ファーレンに加入。今季が「3年目」。去る5月に退社するまで、監督と同じ長崎銀行に勤務していました。168cm、66kgと小柄ながら、豊富な運動量、旺盛な闘志、左右両足で的確にさばける技術は、古巣にコンバートされた理由が納得できるほどです。

 退社した理由を田上は、こう言います。

「仕事(営業担当)をしているとプロ選手と比べると、(練習環境などで)ハンディキャップがありますから。今年はプロ契約選手が増えましたし……」

 田上と同学年(同世代)が多い点も、退社決断の理由でしょう。ビアンコーネ戦で決勝点を決めた小田は国見高校の同級生(全国選手権では補欠)。DF久留貴昭と税所義博(ともに鹿児島実業)、MF佐野(清水商業、前・湘南)、FW福嶋洋(都立駒場高校、前・ロッソ熊本)も「同学年」です。中でも、昨季プロとして加入した佐野は高校時代、大久保と並ぶ全国的スターでした。ちなみに、税所は大商大時代のチームメイト。GK近藤健一(前・FC東京)は国見の「1学年下」です。

「チームの今後は、あいつら(若手)が、どう考えているかしだい」(原田)

 全体の図式としては、良くも悪くも「お友達集団」になる可能性のあるチームを、大ベテランの原田がしきっているという感じです。

 V・ファーレンの2回戦の対戦相手は八戸大学(23日、Jビレッジ)。この試合に勝てば、3回戦でJ2の湘南と戦うことになります。また、10月13日からは全国社会人選手権も控えています。リーグ2位以内が危うい状況ゆえ、是が非でも2連覇を達成して全国地域リーグ決勝大会出場権をとりたい、というところでしょう。

 いずれにせよ、V・ファーレン「3年目の正念場」は、注目です。

<写真説明>ビアンコーネ足立原健二とV・ファーレン加藤寿一(左)、田上渉の攻防


今までに紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●天皇杯1回戦(16日)
ビアンコーネ福島 0―1 V・ファーレン長崎
バンディオンセ神戸 5―0 山形大学
ガイナーレ鳥取 2-0 佐賀大学
天理大学 3―1 図南SC群馬
FC岐阜 3―1 福岡教育大学
カマタマーレ讃岐 1―4 三菱水島FC
四日市大学 2―3 FC Mi-OびわこKusatsu
ツエーゲン金沢 3―2 ロッソ熊本
*北信越リーグ4位がJFL2位を破る快挙!
FCセントラル中国 2―5 近大附属和歌山高校

2回戦の予定(9月22、23日)
FC刈谷 - ツエーゲン金沢(22日)
V・ファーレン長崎 - 八戸大学
バンディオンセ神戸 - 天理大学
ガイナーレ鳥取 - 鹿屋体育大学
栃木SC - FC Mi-OびわこKusatsu

※本コラムは毎週火曜更新予定です

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