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Jを目指せ! by 木次成夫

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第38回 天皇杯2回戦 栃木SC対FC Mi-OびわこKusatsu
by 木次成夫

 栃木はJFL10位(9月25日現在)。天皇杯出場は10回目。昨季は3回戦で東京Vを破る快挙を達成。4回戦では清水に4-6で敗れたものの、流れの中で相手守備陣を崩して得点をあげるなどなど、大健闘しました。

 対するMi-O(ミーオ)は関西リーグ2位(7月22日終了。優勝はバンディオンセ神戸)。天皇杯は初出場です。

 Mi-Oの「小粒ながらもまとまりのあるサッカー」が、どこまで栃木に通じるか――。天皇杯直前に、前・FC岐阜監督の戸塚哲也氏がMi-Oのヘッドコーチ(事実上の監督)に就任した点も、この試合に興味を持った理由でした。

 結果は2-1で栃木が勝利。順当とはいえ、Mi-Oの健闘も光った試合でした。

 栃木は前半4分に小林成光(29歳、佐野日大高校出身、元FC東京など)のFKを横山聡(28歳、前・湘南)がヘディングであわせて、あっけなく先制。いきなり「力の違い」を見せつけたのですが、その後は危なげのない“つなぐ”サッカーを実践したものの、ゴールには至らず。

 Mi-Oは上野優作(33歳、真岡高校出身、前・広島)と横山の2トップ、只木章広(32歳、真岡高校出身、順天堂大学卒)と小林のサイドMFに対して4-4-2フォーメーションで、真っ向から勝負しました。Mi-Oの守備陣は、右SB浦島貴大(19歳、滋賀県・北大津高校卒業1年目)、CB田尾知己(23歳、ガイナーレ鳥取から6月にレンタル移籍)&石澤典明(22歳、今季開幕前にV神戸からレンタル移籍)、左SB根岸誠貴(27歳、前・佐川急便京都)。栃木攻撃陣と比べると、どう見ても「小粒」ですし、経験も不足しています。田尾は昨季、アルテ高崎の一員として天皇杯に出場しましたが、6月中旬にMi-Oに加入した“新人”です。

 5バックにしてスイーパーを1人余らせるというような“消極策”をとらなかった点にも、戸塚氏らしさを感じました。そして、選手たちも期待に応えました。

 前半34分にはMi-Oの冨田晋矢(27歳、7月に加入。前アルテ高崎)が栃木守備陣のミスに乗じて、同点ゴール。これで選手たちに自信が生まれたのでしょうか、Mi-Oの粘りは、試合終了まで途切れませんでした。

 栃木の決勝点は後半17分。後半14分に交代出場した深澤幸次(22歳、国士舘大学新卒)からのパスを横山がゴール。深澤は左サイドからの強引とも思えるドリブル突破が魅力の選手です。以前見た、横河武蔵野戦でも勝利の立役者になりました。柱谷監督の采配が功を奏したというわけです。

 試合後、Mi-O関係者が「勝てる試合だったよなあ」、「でも、試合を見ていない人は、1-2で負けという結果しかわからないのが残念だよね」という感じで、笑顔まじりで語っていたのが印象的でした。結果的には、栃木が「Jを目指す」大先輩としての意地を見せたわけですが、Mi-Oにとっても、全国社会人選手権(10月13日から大分で開催)に向けて、大きな自信につながる試合だったと思います。

 JFL昇格を目指すMi-Oにとって、残された道は全社で優勝して全国地域リーグ決勝大会
出場権を獲得することです。一回戦でホンダロック(九州リーグ1位=9月25日現在)と対戦するなど、厳しい組み合わせですが、戸塚監督の手腕の見せ所ともいえます。昨季は、FC岐阜を率いて全社、全国地域リーグ決勝大会、そして、ホンダロックとの「JFL入れ替え戦」を経験しているのですから。

 FC岐阜が戸塚氏からヘッドコーチ(当時)の松永英機氏にチーム指揮権を移管することを発表したのは6月22日、前期17節のガイナーレ鳥取戦前日ことでした。その時点で、岐阜は3位。14節から2分け1敗と停滞して、首位の佐川急便との勝ち点差は5になったとはいえ……驚きました。ちなみに、後期9節終了時点で岐阜は首位の佐川急便と勝ち点差18の4位です。

 戸塚氏がMi-Oの監督に就任した際も驚きました。が、経緯を知り、“人のつながり”にサッカークラブの面白さを痛感したしだいです。

 Mi-Oの運営会社「Mi-Oスポーツ」代表の田村忠義氏は78年生まれ。地元・草津東高校卒業後、ガンバ大阪に在籍した経験があります。戸塚氏とMi-Oをつないだのは、いわば“ガンバ・コネクション”でした。「FC岐阜の平岡直起(ガンバ出身)が、(Mi-Oが)監督を探しているらしいですよ、と声をかけてくれたのが、きっかけでした」(戸塚氏)

 戸塚氏は現在46歳。現役時代は都並敏史と共に「読売クラブ」の生え抜きとして活躍しました。ポジションは攻撃的MFあるいは「1.5列目」。繊細なトラップ、柔軟なキープ力、卓越したセンスは当時の日本サッカーの常識を逸脱していました。ちなみに栃木SCの柱谷幸一監督は「1学年上」で、「読売」のライバル、日産自動車のFWでした。

 現役晩年の96年には、栃木県小山市をベースにJリーグ入りを目指した「ワールドブリッツ小山」というクラブで監督兼選手として天皇杯に出場した経験もあります。結果は1回戦でV神戸(当時JFL)に0-7で完敗。当時の神戸には元デンマーク代表のラウドルップの他、Mi-O前監督(現・強化部長)の中尾幸太郎氏も在籍していました。

 その後、ワールドブリッツ小山は運営につまづいて解散。入れ替わるように、栃木SCが躍進し始めた点も面白いところです。また、栃木SC躍進の原動力になったのは、96年度の天皇杯に順天堂大学で出場した只木と堀田利明である点も……。

 ちなみに、戸塚氏がFC岐阜監督に就任したきっかけは、森山泰行(現FC岐阜選手兼コーチ)との“飲み屋つながり”だそうです。戸塚氏が経営していた居酒屋に「森山が川崎フロンターレ所属時代に度々、飲みに来てくれたんですよ」(戸塚氏)。小山で果たせなかった夢を岐阜で……という思いのあったのかもしれません。

 ちなみにMi-Oには去る6月、北信越リーグのヴァリエンテ富山から元ガンバの木場昌雄が選手兼コーチとして加入しました。木場は74年生まれ。平岡同様、田村氏にとっては“かつての”先輩。「Jへの夢」を富山で果たせなかった経験もあります。

Mi-Oは9月30日、ザスパ草津と初の“草津ちゃうとこ”ダービーを開催します。滋賀県草津市と群馬県草津町の”友好都市10周年”を記念したイベントでもあります。草津市の方々には、是非、Mi-Oを地域活性化に利用してほしいと思います。個人的な印象でいえば、Mi-Oは実力の割にはファンの数が少ない点で日本ナンバーワン。馬鹿にするのではなく、“もったいない”です。草津ダービー詳細はこちら

 その一方で、例えば宇都宮市内の商店街(アーケード)には、「栃木SCを応援します」という垂れ幕が多数掲げられていました。さすがは「Jを目指す」大先輩、という感じです。現在の成績はFC岐阜に劣っていますが、クラブを応援する雰囲気は岐阜をはるかに凌いでいると思いました。

 栃木の天皇杯3回戦の相手は山下芳輝と上野優作の古巣、アビスパ福岡。昨季以上に天皇杯を盛り上げてほしいものです。

<写真説明>Mi-OのFW安部雄二郎(手前・25歳)と、栃木SB片野寛理(25歳)

今までに紹介した「Jリーグを目指す」クラブの動向

●天皇杯
2回戦(9月22、23日)
FC刈谷 0-1 ツエーゲン金沢(22日)
V・ファーレン長崎 5―0 八戸大学
バンディオンセ神戸 6―2天理大学
ガイナーレ鳥取 1―3 鹿屋体育大学
栃木SC 2-1 FC Mi-OびわこKusatsu
大阪体育大学 1-2 FC岐阜

天皇杯3回戦は10月7日
湘南 - V・ファーレン
水戸 -ツエーゲン
佐川急便 - バンディオンセ
福岡 - 栃木
徳島 - 岐阜

●東北リーグ2部
(23日)
マリソル松島  0-1 ペラーダ福島
ビアンコーネ福島 8-0 相馬SC
ビアンコーネは10勝1分け(残り3試合)。ペラーダは10勝1敗1分け(残り2試合)。3位の相馬に圧勝したことで、ビアンコーネの優勝が濃厚になった

●四国リーグ
13節(23日)
しまなみFC 1-4 カマタマーレ讃岐
三洋電機徳島 1-3 南国高知FC   
*首位ヴォルティス・アマは、天皇杯のため試合延期。カマタマーレ、南国高知とも全社で全国地域リーグ決勝大会出場を目指す


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