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Jを目指せ! by 木次成夫

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第41回 全国社会人選手権「Mi-O快挙達成」
by 木次成夫

 全国社会人選手権(以下、全社)は、位置づけが微妙な大会です。優勝すれば、JFL昇格の登竜門=全国地域リーグ決勝大会に出場できますが、すでに同大会の出場権を得ているチームにとっては、“チーム強化に役立つ大会とはいえ、選手の大怪我も避けたい”わけです。

 全社の前にリーグ成績で地域リーグ決勝大会出場権を得ているチームは以下の通りです。
北海道(1)=ノルブリッツ北海道
東北(2)=グルージャ盛岡、NECトーキン
関東(1)=町田ゼルビア
北信越(1)=松本山雅
東海(2)=静岡FC、矢崎バレンテ
関西(1)=バンディオンセ神戸
中国(2)=ファジアーノ岡山、セントラル中国
四国(1)=未定(首位のヴォルティス・アマが有力)
九州(2)=未定

 例えば、関西リーグのバンディは補欠中心のメンバーで、一回戦で沖縄かりゆしFC(九州リーグ6位)に3-4で敗退。山雅はバンディほどではないものの、バックアップメンバーを起用して2回戦で1-1からPK2-4でV・ファーレンに敗退。その一方で、ツエーゲン金沢(北信越4位)、FC Mi-OびわこKusatsu(関西2位)にとって、全社は死活問題。図南SC群馬(群馬優勝。JFLアルテ高崎に勝って天皇杯出場)、沖縄かりゆしFCにとっては、番狂わせのチャンスでした。

 結果は、V・ファーレン長崎に勝って決勝に進出したMi-Oが地域リーグ決勝大会出場権を獲得しました。準決勝で沖縄かりゆしFCにPK戦の末に勝った矢崎バレンテが東海リーグ2位=地域リーグ決勝大会出場権取得=ゆえ、自動的に「全社枠」を得たわけです。組み合わせに恵まれず、強豪との対戦の連続になりましたが、結果的には、厳しい状況がプラスに働いたのかもしれません。対戦相手の戦略は別にして、初戦から全力で向かわなければいけない状況が選手たちのモチベーションを高め、勢いに乗ったのでしょう。

13日=1回戦 2-1 ホンダロック(九州1位)
14日=2回戦 2-0 町田ゼルビア(関東優勝)

 天皇杯直前からチームを率いた戸塚哲也監督(前FC岐阜監督)の手腕ゆえでしょうか、関西リーグ当時に比べるとチーム全体の“プレーの質”が高くなっていました。粘って“つなぐ”意識が高まり、パスワークがスピーディになり、ボールコントロールも安定。クリアあるいはパスミスは明らかに減りました。リーグ後半に加入したDF田尾知己(24歳、ガイナーレ鳥取からレンタル)、リーグ終了後に加入したMF冨田晋矢(27歳、元アルテ高崎)ら補強選手も実力を発揮しています。

15日=3回戦 3-1 ニューウェーブ北九州(九州2位)

NW戦は、Mi-Oにとってはラッキーな面もありました。NWの攻撃には絶対的に欠かせないサイドアタッカー森本惟人(25歳、前・アルエット熊本=ロッソ熊本の前身)が出場停止。その上、前半終了直前にNWの宮川大輔(28歳、前・ザスパ草津)が2枚目のイエローカードで退場。Mi-Oは10人になった相手をコンビネーションで崩して、後半4分(左サイドアタッカーの壽健志=24歳、近畿大学卒)、17分(ボランチの若林令緒=29歳、前・バンディ)、27分(ボランチの金東秀=24歳、大阪商業大学卒)がゴール。34分にPKで1点返されましたが、快勝でした。再三チャンスを作った右サイドアタッカー冨田を含め、MF4人と2トップの合計6人が豊富な運動量を生かして組み立てる攻撃は、見応えがありました。「戸塚マジックとしかありません」(チーム関係者)。

16日=準決勝 1-0 V・ファーレン長崎 

 V・ファーレンは試合当日時点で九州リーグ3位。地域リーグ決勝大会出場圏内(2位)は上位2チーム(首位=ホンダロック、2位=NW北九州)の結果しだいです。つまり、全社優勝への思いはMi-Oに負けていません。事実、天皇杯の湘南戦以上に勝利への執念が感じられました。

 そして、大接戦でした。Mi-Oの得点は後半12分。右サイドを切り込んだ冨田がファーサイドにパスを流し、V・ファーレンDF加藤寿一(26歳、前・三菱自動車水島)のカバーよりも一瞬早く走りこんだ安部雄二郎(25歳、前・佐川印刷)が押し込みました(写真)。

 その後、V・ファーレンはDFの伝庄優(23歳、道都大学出身)をトップに起用するなどパワープレーも敢行しましたが、得点には至らず。結果論になりますが、“ダイナミックなサッカー”の限界も感じました。CB石澤典明(22歳、今季、V神戸からレンタルで加入)、左SB根岸誠貴(28歳=主将、佐川急便京都時代からの生え抜き)らMi-O守備陣の粘りの前では、V・ファーレンは“大雑把”。国見高校をベースに発展したクラブゆえ、地域密着という点では素晴らしいと思う反面、プレースタイルを考え直す時期が来たのかもしれません。

「まだ、(地域リーグ決勝大会出場への)可能性がなくなったわけではないので、気持ちを切り替えてリーグ戦に臨みたい」(V・ファーレン岩本文昭監督)

 現在、九州リーグは首位=ホンダロック(勝ち点49)、2位=NW北九州(同48)、3位=Vファーレン(同47)。そして、残された試合は以下の通りです。

10月27日、ホンダロック対新日鉄大分(4位)、NW北九州対熊本教員蹴友団(10位)
10月28日、ホンダロック対Vファーレン、NW北九州対海邦銀行(9位)

 新日鉄がホンダロックに勝てば、V・ファーレン2位以内の可能性が生じます。また、NWにとっては悲願の2位以内が懸かっています。その上、2日ともNWホームでの集中開催。順当に見れば、勝てる相手ですが、プレッシャーも相当なものでしょう。昨季、地域リーグ決勝大会決勝ラウンドに進出したV・ファーレンにとっては、絶望的に近い状況ですが、監督のコメント同様、まだ終わったわけではありません。

 では、Mi-Oの今後はどうかというと、関西リーグ終了後に加入した冨田と、CBチェ・チョンミンは「リーグ戦数の3分1以上在籍した選手が出場可」という規定のため、地域リーグ決勝大会には参加できません。ただ、幸いなことに、10月20日から関西リーグカップが始まります。短期間でチームを進化させている戸塚監督の手腕の見せ所です。全社では経費削減のため、新幹線よりも安いフェリーで大分入り。普段の練習は夜。厳しい環境ですが、根岸、若林らベテランが、いわゆる対面に競り勝った点に感動しました。通用すること、通用しない点を経験してきたゆえのバランス感覚の賜物でしょう。

 ちなみに、Mi-Oは相変わらず叫ぶスタイルのファン(いわゆるサポーター)0人。草津市役所をはじじめ、滋賀県の皆さん、“もったいない”です。

その他のクラブの主な結果
1回戦
V・ファーレン長崎 5-1 T.F.S.C.(東芝府中)
松本山雅 3-0 トヨタ自動車北海道
中京大学FC  2-6 ツエーゲン金沢
マルヤス工業 1-2 町田ゼルビア
カマタマーレ讃岐(四国2位) 1-0 佐川コンピューターシステム
高田FC 0-4 NW北九州
バンディオンセ神戸(関西優勝) 3-4 沖縄かりゆしFC(九州6位)
古河電工千葉 2-3 セントラル中国(中国2位確定)
南国高知FC(四国3位) 0-6 アイン食品
図南SC群馬(群馬県優勝) 1-4 NECトーキン(東北2位確定)

2回戦
V・ファーレン長崎 1-1(PK4-2)松本山雅
ツエーゲン金沢 2-3 Y.S.C.C

※天皇杯3回戦進出のツエーゲン、痛恨の敗退。今大会、最大の番狂わせです。ゴジラ松井秀喜人気の石川県。「Jを目指す」チームへの地元支援は相対的にイマイチですが、是非、惜しかった今季を来季につなげてほしいです。

カマタマーレ讃岐 0-1 NW北九州
※「Jを目指すクラブ」どうしの対戦ですが、順当な結果。ツエーゲン同様、カマタマーレにも今大会の結果を、来季につなげてほしいです。

ASラランジャ京都(関西4位) 2-1 セントラル中国
※地域リーグ決勝大会出場権はありますが、セントラルはムラがありすぎる気もします。

3回戦(ベスト8)
V・ファーレン長崎 2-0 Y.S.C.C
沖縄かりゆしFC 1-0 ASラランジャ京都
矢崎バレンテ  0-0(PK5-4) アイン食品

<写真説明>得点をあげた安部雄二郎(26番)に駆け寄る若林令緒。そのほか試合写真は最新PhotoNews

・今まで紹介したJを目指すクラブの動向
JFL後期10節(10月13日、14日)
佐川急便 1-0 ロッソ熊本
佐川印刷 2-0 アルテ高崎
Honda FC 3-0 横河武蔵野FC
FC琉球 1-2 ガイナーレ鳥取
TDK SC 1-1栃木SC
FC岐阜 3-3 YKK AP

首位=佐川急便(勝ち点67)、2位=ロッソ熊本(同54)、3位=YKK AP(同48)、4位=アローズ北陸(同46)、5位=ジェフリザーブズ(同45)、6位=Honda FC(同44)、7位=FC岐阜(同44、得失点差)、8位=流通経済大学(同41)、9位=横河武蔵野FC(同38)、10位=栃木SC(同36)、11位=佐川印刷(同36、得失点差)、12位=三菱水島FC(同34)、13位=ガイナーレ鳥取(同33)、18位=アルテ高崎(同6、最下位)

※岐阜と栃木が痛恨の引き分け。J昇格圏(4位)との勝ち点差は岐阜=2、栃木=10、鳥取=13。“Jを目指していない”佐川急便が独走の状況下、ロッソ以外のチームがギリギリ4位になってJ2に昇格するのは、いかがなものかと思います。

東北リーグ2部南ブロック 13節
相馬SC 0-4 ペラーダ福島
七ヶ浜SC 1-9 ビアンコーネ福島
首位=ビアンコーネ(勝ち点37)、2位=ペラーダ(同34)。残り1試合。ビアンコーネの1位は、ほぼ確定。

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。今回更新が遅れたことをお詫びいたします(編集部より)

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