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[高校選手権]広島観音は“県勢連覇”の夢途絶える。指揮官「総合力では日本一」

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[1.5 高校選手権準々決勝 広島観音1-2矢板中央 駒場]

 必死の思いも届かなかった。3分あった後半のロスタイム。最後の最後で、広島観音(広島)はCKを得た。GKの原田直樹(3年)もゴール前に攻め上がり、まさにチーム一丸で同点を狙った。こぼれ球がそんな守護神の元へ転がり、左足で再びゴール前に蹴り込んだが、ゴールへはつながらない。その直後に無情にも試合終了のホイッスルが鳴り響いた。1-2・・・。昨年の広島皆実に続く“県勢連覇”の夢が終わった。

 「選手権で日本一になりたいとずっとやってきたので、悔しいです。前半はいつも通り、様子を見ながらプレーして、そこからと考えていた。後半、サイドのクロスからと考えていて、狙い通りに1点取れたんですが、もう1点が取れなかった」

 主将の柳田優介(3年)が振り返った通り、思い描いていたプラン通りに試合が運んでいた。広島観音は主将を中心に選手でスタメンの選手、戦術、試合運び、選手交代などミーティングで決めるが、前夜は約3時間、柳田を中心に話し合った。結果、前半は速攻と遅攻を使い分けて様子をみながらゴールを狙う。後半、一気にギアを入れ、サイドをうまく使ってJ2ファジアーノ岡山への入団が内定しているエースFW竹内翼(3年)、FW山本邦彦(2年)に合わせようと練っていた。

 これがズバリ、当たった。後半6分、3回戦の尚志(福島)戦でもアシストを決めた左SBの小林祐輝(3年)が、得意のドリブルで左サイドを突破。PA左まで持ち込み、クロスを入れる。これにFW山本が頭で合わせ、先制点を奪った。山本は2戦連発。チームはここから勢いにのるはずだった。

 しかし、相手の矢板中央(栃木)もロングボールで187cmの長身FW中田充樹(2年)に合わせていった。それに対応するため、ずるずるとラインを下げ、セカンドボールを拾われた。予想以上に相手が体を張り、ルーズボールを拾われたという。「1点取って、攻めるのか、守るのかはっきりしていなかった。DFラインが5m、上がっていれば違ったと思う。岡崎だったら、ラインも速く上がったかもしれない・・・」と畑喜美夫監督は振り返る。

 本来は左SBのレギュラーで、J2ファジアーノ岡山に内定している背番号10、岡崎和也(3年)が、2回戦の山形中央戦で右足を打撲。3回戦に続いてこの日もベンチに入りしながら欠場した。指揮官は、小林を高く評価しながらも、小林よりもより攻撃的な岡崎を投入できれば、DFラインが下がることなく試合を運べたと分析した。

 そんな中、後半16分にこぼれ球を拾われて同点とされると、同30分には個人技で突破されて逆転された。最後まで集中を切らさずに攻めこんだが、夢の国立へ、あと一歩、届かなかった。

 初の4強、そして79、80回大会以来となる県勢連覇(長崎、国見が連覇)はできなかった。だが、畑監督は「総合力では日本一。勝負の世界ではここで負けたが、日本で一番すばらしチームです」と選手たちに最大級の賛辞を送った。

 畑監督は「人間力」「シンキング・サッカー」を掲げ、前述したように、選手同士でスタメンや試合運び、戦術などを議論させて決めさせる。もちろん、アドバイスや方向性は示すが、勝つために“押しつける”のではなく、この年代で足りないと言われる“考える力”を養う指導方法を貫く。土日の試合以外では全体練習も週平均2-3日。ほかは自主練習か、ミーティングなどで頭を鍛えているという。

 高校生年代で、自らで考え出してプレーすることは決して簡単なことではない。議論が白熱し、言い合いになることもある。柳田は「監督はヒントだけ与えてくれて、あとは自分たちで考えてやる。絶対に答えは言わない。苦しいときもあったけど、解決するまで、みんなで話し合ってやってきました。これはこの先、サッカーでも、社会人としても役立つと思う」と胸を張る。まさに“大人のサッカー”を目指し、ここまで勝ち上がった。

 「3年生が悔しい思いをしたので、来年は自分たちが頑張りたい。もっと力強いプレーヤーに成長して、日本一になれるように頑張りたい」と2年生のFW山本はリベンジを誓う。8強で敗れたが、広島観音は“好チーム”だった。今回、達成できなかった日本一は、下級生に託される。今後も「シンキング・サッカー」を継続させ、再び頂点を目指すつもりだ。

(取材・文 近藤安弘)

特設:高校サッカー選手権2009

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