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本人も驚いた『先発・闘莉王』。魂のクロスで勝利を演出

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Text alert@NACK5スタジアム
[7.17 J1第13節 名古屋1-0大宮 NACK5]
今季最多、1万3624人の観衆がスタジアムを埋め尽くしていた。Jリーグ再開に期待の膨らむ中、互いの良さが随所に出た好ゲームを制したのは、ブルザノビッチの退場により、10人で後半の45分間を戦った名古屋だった。

フラフラになりながらも、公式戦8試合ぶりの勝利をもたらす決勝点を演出したのは田中マルクス闘莉王だ。

76分、CKからの流れで前線に残っていた背番号4は、競り合いながら相手ボールをカット。DFに引っ張られながらも体を入れ替えてゴール前へ絶妙なクロスを上げると、ゴール正面で待ち構えていたケネディが頭から飛び込み、劇的な先制点が生まれた。

「ジョシュア(ケネディ)がいつも通り中にいてくれた。決まってよかった」

闘莉王はすべてを出し尽くしたような、脱力しきった表情で振り返った。

まさかの先発出場だった。ワールドカップ期間中の6月25日、ブラジルに住む父・隆二さんが心臓疾患で緊急入院。パラグアイに敗れた翌日の6月30日、闘莉王は急ぎ、ブラジルに飛んだ。

目の前には、すっかり弱り切った父の姿があった。「自分にとっては家族が第一。サッカーをやめるべきか」と悩んだが、その父に「もう一度頑張って来い」と背中を押され、15日に名古屋に戻った。とは言え、メンタルもフィジカルも戻っていない状態。大宮戦出場は難しいと思われた。だが、試合6時間前のランチタイムの後、散歩しながらストイコビッチ監督に言われた。

「わたしが全責任を負う。試合に出てくれ」

気力を振り絞り、闘莉王はピッチに立った。そして戦った。

「先発は予想していなかった。不安でいっぱいだったが、監督が信頼してくれて、それに応えられてよかった。1点取って交代してくれるかなと思ったけど、監督もなかなか頑固だな。フラフラしていたので替えてくれと言ってましたけどね」と苦笑いを浮かべた。

「日本に帰ってきた日から、自分の中でシンプルなことに喜びを感じて前に進んでいくことに決めている。サポーターが最後まで応援してくれて、いろんな人が支えてくれているからこそやらなきゃいけない仕事がある」

上位対決となる次節の清水戦に向けては「先のことは考えられない。1日1日を大切に、人生の喜びを感じながらやっていきたい」と、拠り所である使命感を意識しつつ、自分に言い聞かせるかのように言葉をまとめた。
(取材・文・矢内由美子)

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