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J2昇格ダメの通達を乗り越え、町田が東京Vに勝利。相馬監督「勝つしかない。正月まで行こう!」

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[9.5 天皇杯2回戦 町田1-0東京V 西が丘]

 FC町田ゼルビアは持ち味の運動量を最大限に発揮して、近未来のライバル・東京ヴェルディに競り勝った。前線からのプレス、球際での闘志で相手を苦しめ、押し込んだ。相手が前半のうちに退場者を出すラッキーな面もあったが、後半28分に途中出場のFW山腰泰博(神奈川大)が決勝点を決めて1-0勝利をつかんだ。

 元鹿島選手で、日本代表としてフランスW杯にも出場した相馬直樹監督は「格上のJクラブに勝てたことを非常にうれしく思います。本当にたくさんのサポーターがここに来てくれて、ものすごく大きな力となりました。ハイプレス? いつも通りの部分はありますが、90分、今日は120分の可能性もあるという話をしたにもかかわらず、ちょっとハイペースだなと思っていた。粘り強くゲームをしてくれたことは収穫かなと思う。勝ち星を握ったことは大きな収穫だと思っています」と胸を張った。

 悲願のJ2昇格に向けてJFLを必死に戦っている中、衝撃的な出来事が起きた。今月1日、悲しい通達が届いた。現在、JFL4位で来季のJ2昇格を射程圏にしているが、申請中だったJリーグ入会予備審査の結果が判明し、「入会のための条件を満たしていない」と通告された。スタジアムは改修中にもかかわらず、設備面で不備が発覚したという。

 つまりこのままでは、例えJFLで優勝してもJ2には昇格できないのだ。翌日、緊急ミーティングを開き、選手たちに通達された。きょう5日にはクラブの公式HPで発表され、サポーターからも悲痛の声が漏れていた。署名活動をする動きも出ている。

 ある主力選手は「自分はこれまで(クビになったり)経験があるから、緊急に呼び出されたときに、もしかして、となんとなく分かった。(経営難とか)そういうのは仕方のない世界だと思っていた。でも、ここで長くやっている選手たちは“この世の終わりだ”みたいな表情になっていた。中にはクラブに噛み付く選手もいた」と仲間が動揺していたことを明かす。

 無理もない。チームはずっとJ昇格を夢見て戦ってきた。今年から選手はプロ契約となったが、それまではアマチュア契約で、アルバイトをしながらプレーするという苦労を味わった選手も大勢いる。途中で夢破れ、引退した仲間もいる。現在はJ2昇格圏のJFL4位。夢の達成までもう少しというところで、受け入れ難い現実を突きつけられた。

 相馬監督はこの緊急事態について、「当然、われわれ、今年このクラブに来た人間にとっての目標はそこでしたから、その目標を取り上げられた状態でした。(選手は)よく切り替えて戦ってくれたと思います。長年このクラブにいた人間にとってはなおさらだったと思いますし、そうでなくても、このために今年来た人間もたくさんいたので」と悔しさそうな表情を浮かべた。

 こんな事態にも、天皇杯にモチベーションを下げることはなかった。試合前、相馬監督は選手に投げかけたという。「J1を倒して正月まで行こう。俺たちには天皇杯しかない」。これに選手も同調した。元東京Vでエースの木島良輔は「ここでゼルビアをアピールしたいと思った」という。

 そのうえ相手は東京V。1977年のチーム発足からライバルと考えてきた相手だった。今季はJ経験者が増え、DF藤田泰成や木島ら元東京V戦士もいた。東京Vと激闘を交わしてきた選手もいる。何より、指揮官の相馬も元東京V選手。木島は「東京Vは知り合いもいるし、勝つことで恩返しできるかなと思った。こういうことになって、選手はやれるところを見せないといけなかった。(スカウトなど)見に来ているチームもあるかもしれないし、選手としては評価を高めるためにも戦わないといけない」と気持ちを明かした。

 「こういうのもなんですが、選手にはサッカーをする場所はある。クラブの人は、俺たち以上に悔しいと思う。僕は会社のみんなが心配です」と木島は、フロントスタッフにまで気を配った。古株の選手は、これまでの苦難の歴史や自分たちの思いを試合でぶつけ、木島らJ昇格のために今年から集まった元J選手たちは、拾ってくれたFC町田ゼルビアに、恩返しの意味を込めて戦った。これが格上の撃破につながった。

 7日には報道陣向けに緊急会見を開き、今回の一件についての説明会が開かれる。クラブ側の基本方針は、これでJ入りをあきらめるのではなく、施設の再整備を進めて、J2昇格を目指す。もちろん“奇跡”も見据えている。今後、自治体のさらなる協力が得られ、施設面の改善が早急になされれば、今季J2昇格OKという“ウルトラC”もあるかもしれない。

 そのためにも、現場はこの天皇杯やJFLでより良い結果を出す意気込みだ。相馬監督は「うちは勝つしかないですから」と力強く言い切った。サポーターはこの日、西が丘のスタンドに『まだ何も終わっちゃいない』という横断幕を掲げた。たしかに、その通り。“奇跡”は起きる。いや、起こすためにある。今こそ選手、フロント、サポーターが一つになって、夢に向かって戦うときだ。

(取材・文 近藤安弘)

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