beacon

仲間も認めるMVP、"ノルマ"だったV達成に闘莉王「この仲間とやれてよかった」

このエントリーをはてなブックマークに追加

[11.20 J1第31節 湘南0-1名古屋 平塚]

 ピッチにはいなくても、心はひとつだった。右太腿裏肉離れのためメンバーから外れた名古屋グランパスのDF田中マルクス闘莉王はスーツ姿で試合を見守った。刻一刻と迫る優勝の瞬間。試合終了の笛が鳴り響くと、ピッチに飛び出し、一目散にGK楢崎正剛のもとへ駆け寄り、抱き合った。

 「ピッチには立てなかったけど、外の方がドキドキした。最初から優勝できると信じていた。このチームでやれてよかった。監督は本当に素晴らしい人。どうしても監督を男にしたかった」

 今季、断固たる決意とともに浦和から名古屋に移籍した。04年から6シーズンを過ごし、06年のリーグ優勝、07年のACL制覇を果たした愛着あるクラブを離れ、新天地での挑戦に踏み切ったのは、すべて優勝のためだった。

 浦和では、タイトル獲得よりも世代交代など長期的なチームづくりを重視するフィンケ監督と対立。事実上の戦力外通告を受け、契約満了とともに浦和を去った。「一緒に優勝を目指そう」というストイコビッチ監督の言葉に動かされ、入団会見でも「監督を男にしたい」と言った。

 「結果を中心にして、自分の人生を生きてきた。何が何でも優勝したかった」。有言実行のリーグ制覇は、自分に課した“ノルマ”でもあった。

 ピッチで戦うことはできなくても、闘莉王は確かにチームの力になっていた。この日もハーフタイムにはロッカールームでチームメイトにアドバイス。後半18分から途中出場し、その3分後に決勝点をアシストしたFW杉本恵太には投入直前、「外に張るだけじゃなくて、外に行ったり中に行ったりしてペースをつかめ」と声をかけた。杉本は「その言葉のおかげで、しっかり整理して試合に入れた。それが、試合に出てすぐにアシストできた要因だと思う」と感謝した。

 その存在感は別格だった。楢崎は「闘莉王はいろんな面においてプラスの力ばかりだった。いい守備をしてくれたし、攻撃でも力になっていた。すごい貢献してくれたし、いろんな面で彼がいなかったら(優勝は)危なかったと思う」とまで言う。チームメイトのだれもが認める“MVP”だった。

 「優勝するためには闘莉王みたいな選手が必要だった。今日、それが正しかったことが証明されたと思う」。ストイコビッチ監督も手放しで称え、感謝の言葉を口にした。「プレー面の結果だけでなく、ロッカールームでチームメイトを勇気付ける言葉、鼓舞する姿。闘莉王はリーダーとしての資質を持っていた」。ピッチ内外を問わず、その貢献度は計り知れないものがあった。

 「みんなが付いてきてくれたから、この結果になった。この仲間とやれたことに感謝したい」。闘莉王にとっては、歓喜というより安堵に近い優勝だったのかもしれない。タイトルという形で責任を果たした“優勝請負人”。「次からは出るつもりでいる」。その視線は早くも、残るリーグ戦、そして天皇杯に向いていた。

[写真]この日は負傷のためベンチ入りしなかった名古屋DF闘莉王(写真中央)

(取材・文 西山紘平)

TOP