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大黒弾でV名古屋を撃破したF東京。次節残留決定の可能性も

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[11.23 J1第32節 名古屋0-1 F東京 豊田]

 崖っぷちの男たちが見せたのは、とことんまで泥臭いサッカーだった。残留争いの濁流に膝まで浸かっている15位FC東京が、前節に1ステージ制最速Vを飾ったばかりの名古屋に1-0の最少得点勝利。ずっしりと重い勝ち点3を手にした。

 鬼気迫る出足で名古屋に襲いかかった。前半7分、8分、9分と立て続けに左CKのチャンスを得てゴールに迫る。待望の先制点が入ったのは同27分。6試合ぶりに先発したMFリカルジーニョの右クロスをMF梶山陽平が受け、DF森重真人が落としたボールをキープしたのは06年W杯戦士、百戦錬磨のFW大黒将志だ。

 「若干、足もとに入ったけど、いいパスが来た。ナラさんが少し前に出たのが見えたので浮かした。この形はいつも練習しているし、イメージ通りに打てた」と自画自賛する右足シュートは、ふわりと弧を描き、GK楢崎正剛の頭上を超えてゴールに吸い込まれた。

 FW平山相太の出場停止を受けて1トップで奮闘した大黒は、「名古屋が既に優勝を決めてくれていてラッキーかなと思っていた。残留争いのこちらに比べて、緩んでいた部分はあったと思う」と正直に告白した。

 1点リードしても攻撃の手を緩めなかった。同40分にはリカルジーニョの左サイドからのパスを大黒がオーバーヘッドシュートし、声を出しっぱなしのアウェイゴール裏を一層活気づけた。

 いいリズムは守りにも波及する。危機一髪のピンチを回避したのは同41分。ゴール前で波状攻撃を受けて、GK権田修一が引き出されてしまった場面だ。

 左サイドから放たれたMF小川佳純のシュートをファーサイドに構えたMF米本拓司がゴールライン寸前で頭を突きだしながらクリア。ファインプレーで勝利を演出した背番号7は「ファーに来たら絶対にクリアしようと思っていた。できて良かった」と胸をなでおろした。

 後半20分過ぎからのパワープレーには、ボランチの徳永悠平が競ってセンターバックがこぼれ球を拾うことで対応した。加えて、森重真人のしつこいマークに相手はイライラ。大熊清監督は「闘莉王には最初、徳永をマンマークさせようと思ったが、(サイドに)張ったり引いたりするのでマンマークは良くないと思い、ゾーンで受け渡すようにした」と采配もどんぴしゃりだ。

 神戸が大宮と引き分けたため、順位は15位と変わらないが、勝ち点差は1から3に広がった。次節神戸が清水に負ければ、引き分け以上でJ1残留が決まる。神戸が引き分けても、勝てば残留が決まる。また、得失点差で10点リードしているため、次節終了時点で勝ち点差3をキープしていれば、最終節は余裕を持って試合ができる。

 とは言え、残り2試合で勝ち点を落とすようなことがあれば、神戸に逆転されてしまう可能性は残されている。大熊監督は「一歩前進? いや、まだ何が起こるか分からない。残り2試合(山形戦、京都戦)、気を引き締めて全力でやらねばという気持ちが大きい」と厳しい口調を崩さない。

 ヒーローの大黒も、殊勲の梶山、米本も、誰ひとりとして笑みを見せることのない“会心の勝利”。厳しい表情から解き放たれるのは、残留を決めてからだ。
(取材・文 矢内由美子)

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