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[大学選手権]土のグラウンドの中央には野球のマウンド…高知大は初の決勝ならず

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[12.26 全日本大学選手権準決勝 高知大1-2中京大 平塚]

 初の決勝進出を目指した高知大の夢は準決勝でついえた。前回王者・明治大を下した準々決勝後、歓喜の涙を流した野地照樹監督の目には今度は悔し涙が浮かんだ。「もったいなかったの一言に尽きます」。うつむいたまま、そう言葉を絞り出した。

 コイントスに勝って風上に立った前半。27分に先制点を奪うまでは狙い通りの試合運びだった。しかし、そのあとが続かない。前半のシュート数は8対2。一方的に押し込みながら追加点を取れなかった。

 「先制したあともチャンスはあったが、なかなか決め切れなかった。試合が終わって振り返れば、前半にもう1点取っておかないといけなかった。残念な結果になってしまった」

 風下に回った後半立ち上がりの3分、警戒していたはずのセットプレーで同点に追い付かれると、その後は中京大の猛攻にさらされた。後半23分に勝ち越しゴールを許すと、終盤はDF實藤友紀(4年)を前線に上げてパワープレーを仕掛けたが、反撃も及ばなかった。

 昨夏の総理大臣杯で初の決勝進出。福岡大に敗れ、準優勝に終わったが、四国勢初となる決勝の舞台を経験した實藤、MF芝野創太(4年)、FW布施祐典(4年)、MF香川大樹(4年)らが1年間でさらに成長し、今大会でも14年ぶり3度目となる過去最高のベスト4まで上り詰めた。

 「今年のチームは4年生が中心。彼らの最後の大会で是非、決勝に行きたかった。去年は総理大臣杯で決勝まで残って、一度はインカレでも決勝に出たい、ファイナリストになりたいということを目標にしてきた。今回、その絶好のチャンスを逃して、残念な気持ちです」と無念さをにじませた。

 国立の高知大は、私立の大学と違い、全国から有望な選手を集められるわけではない。大学としてスポーツ推薦の制度はなく、教育学部内のスポーツ科学コースに推薦コースはあるものの、定員は7人。しかもサッカーの実績以外で小論文と面接の試験があり、合格基準は非常に厳しい。全国各地から多数の受験生が試験を受けるが、推薦コースで来年度の入学が決まっている7人のうち、サッカー部に入る学生は3人だけだという。

 練習環境も決して良くない。土のグラウンドが1面あるだけで、しかも野球部との併用。フィールドの中央付近にはマウンドがあり、練習中に選手がつまずくこともしょっちゅうある。四国リーグは4チームの総当たりで、ライバルと呼ばれるほど同等な力を持ったチームはない。それでも「弱いチームとやるときにベストを尽くせば、自分たちの攻撃の形ができる。弱い相手にできなければ、強い相手にできるわけがない」と、必死に選手のモチベーションを高め、着実に強化してきた。

 就任33年目を迎えた野地監督は「最悪の環境だが、この10年ぐらい、そういう方向で指導してきて、全国で勝負できるんだというところまで来た」と力を込める。決して恵まれた環境ではないが、その中でも最大限の努力を続け、たどり着いた準決勝の舞台。四国勢初となる決勝進出は果たせなかったが、高知大の挑戦がここで終わるわけではない。4年生の涙を見た後輩たちが、その夢を受け継ぎ、また来年、さらに強くなった高知大のサッカーを見せてくれるはずだ。

[写真]準決勝敗退にうつむく高知大の選手たち

(取材・文 西山紘平)

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