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[選手権]久御山が“アーセナル宮市”擁する中京大中京を撃破

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[12.31 全国高校選手権1回戦 中京大中京2-4久御山 ニッパ球]

 第89回全国高校サッカー選手権は31日に1回戦の2日目が行われ、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場の第2試合ではプレミアリーグ・アーセナルへの入団が内定しているFW宮市亮(3年)擁する中京大中京(愛知)と、3年ぶり5回目出場の久御山(京都)が対戦した。中京大中京が先制点を奪い、宮市も前評判通りのプレーを見せたが、久御山は持ち前の攻撃サッカーで撃ち合いを制し、4-2で2回戦に駒を進めた。

 スタンドに駆け付けた8000人大観衆の多くは、アーセナル入団が内定している宮市に熱視線を送っていたが、そんな周囲の期待に、宮市がいきなり応えた。前半10分、3トップの左に入ったエースは自慢の快足ドリブルで突破を図ると、中央へ絶妙クロス。これをFW竹野雄輝(3年)がきっちり決めて中京大中京が先制に成功した。

 それでも久御山は動じなかった。スペインの強豪バルセロナのサッカーを目標とするだけあって、持ち味のショートパスとドリブルで中京大中京のゴールを襲った。そして前半16分、左サイドを攻略してFW坂本樹是(3年)が突破を図り、中央のFW鍋野光希(3年)へ。相手GKが触れない絶妙なボールを鍋野がきっちりと沈めて同点に追いついた。

 しかし、対峙した久御山の右SB松下千馬(3年)が「次元が違いました。世界を感じました」と困惑顔で振り返った男、宮市が再び魅せる。前半20分、左からドリブルでPA手前まで侵入しMF藤橋弘貴(1年)のリターンパスに抜け出すと、倒れ込みながらも右足でゴールを決めて2-1の勝ち越しに導いた。その後も中京大中京は宮市を活かしたカウンターで攻めた。

 2-1で迎えた後半、形勢が一気に逆転した。久御山の松本悟監督が次々と施した“宮市対策”が上手くはまった。ハーフタイムに、松下にもっと厳しくマンマークするよう命じたほか、「行けるときは攻撃にも行け」などと綿密に指示を出したという。

 「DFラインが下がってしまった。ボランチとDFが下がってしまって中盤が空いた。相手に翻弄されてしまった」と宮市が振り返ったが、後半の立ち上がりから中京大中京のDFラインは押し込まれた。そのため宮市も少し引き気味になった。それでも宮市は快足を飛ばしてゴール前へ攻め込み、後半6分と同8分にはGKと1対1になる決定機を作ったが、走りすぎたのか、最後に決定力を欠いた。

 そして後半17分、松本監督が「ギャンブルだった」という交代策を繰り出した。宮市マークで疲れが見えていた松下に代え、右SBの経験が少ない背番号9のFW塩田涼介(3年)を投入した。周囲は驚いたが、塩田はチーム随一のスピードを誇るため、これで宮市封じに出た。これがまたまた功を奏した。

 中京大中京はその後、システムを2トップに変更し、宮市を左FWに据えた。久御山は最初、強さが武器のCB山本大地(3年)がマークしていたが、松本監督は山本よりスピードがあるもう一人のCB塚本健介(3年)にマークを変わるよう指示。これで宮市にいい形でボールが入らなくなり、中京大中京は完全に、攻め手を失った。

 そんな守備陣の頑張りに、攻撃陣が後半だけで怒涛の3ゴールで応えた。「全然、焦りはなかったです。1点くらいすぐに返せるだろうという感じだった」と鍋野が明かしたが、後半開始3分、鍋野はドリブルで仕掛けてPA右を侵入。エースのFW安川集治(3年)にスルーパスを通した。安川のシュートはGKに弾かれたが、こぼれ球に再び鍋野が反応し、2-2の同点に導いた。

 「あれで自信を取り戻せた」と松本監督は明かしたが、さらに攻撃陣が勢いづく。そして後半14分、「ハーフタイムに、ボールをもらうときの体の向きを指示されてた。相手DF? そんなにきつくなかった。僕らには焦りはなかった」という安川が、MF足立拓眞(3年)のドリブルからのスルーパスに抜け出し、貴重な逆転ゴールを決める。後半21分にはMF林祥太(1年)がダメ押しの4点目を決めて4-2勝利をつかんだ。

 「先に点は取られたけど、ゲーム内容は悪くなかった。宮市はすごく速かった。体験したことのない速さだった。後半40分あるから、それを0で抑えることを意識した」と山本は、後半は封じ込めに成功し笑顔を見せた。注目選手を何とか抑えての勝利に、チームはさらに自信をつけた様子。エースの安川は「目標は全国制覇です。次もしっかり勝ちたい」と言い切った。取られても取り返す。攻めて攻め倒すバルサ流ならぬ“久御山流”で、まずは2回戦の相手・座間(神奈川)撃破を成し遂げる。

[写真]宮市率いる中京大中京を下し、笑顔を見せる久御山イレブン
(写真協力 『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 近藤安弘)

【特設】高校選手権2010

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