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水野が9ヵ月ぶり出場「サポーターに認められたい。まだ、あいさつの『あ』の字にも……」

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[4.29 J1第8節 柏2-1甲府 柏]

 大歓声と輝く太陽光線を受けて、元気よくピッチに飛び出した。柏レイソルの元日本代表MF水野晃樹が、甲府戦で約9カ月ぶりにJのピッチに帰ってきた。23日の大宮戦(NACK)でベンチ入りはしていたが出番なし。この日ついに、0-1の後半開始から登場した。日本復帰戦となった昨年7月25日の古巣・千葉戦(柏)以来となる公式戦出場を果たした。

「自分が出たからには結果を残したかった。流れを変えたかった中で、今日はキタジさんと(田中)順也が点を取ってくれた。自分個人というよりは、チームが勝てたことが大きい。この雰囲気の中でできたことに喜びを感じる。(東日本が震災で)厳しい状況の中で、サッカーをできる幸せをかみしめてやった」

 やんちゃな男に、ようやく明るい表情が戻ってきた。試合後、報道陣に囲まれると、ときおり笑みを交えながら試合を振り返った。10分、20分と時間が過ぎても質問に応え続ける。広報担当者が気遣って取材を打ち切ろうとしたが、「いいじゃん、話させてよー」と断り、喜びを言葉にし続けた。

 昨年6月、スコットランドの名門セルティックから柏に加入した。出番を失い、自信を失っていた中で、再起を懸けてのJリーグ復帰だった。柏をJ1復帰に導き、再び日本代表へ-。そんな思いを描いていたが、また悪夢が襲った(柏加入時の水野インタビュー)。

 日本復帰初戦の古巣・千葉戦で右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負った。再び、つらく悲しいリハビリの日々。「このチームの試合を(スタンドやテレビで)見ているのが、一番、つらかった。柏の水野晃樹という名前だけの選手だと思われるのが嫌だった」と明かす。

 賢明にリハビリし、そして、この日を迎えた。後半の開始から流れを変える役目として、FW北嶋秀朗とともにピッチに立った。2列目の左に入り、攻撃の起点になることはもちろん、中盤の守備強化のために奔走した。シュートは0本に終わり、終盤は危ないパスミスもあったが、何とか逆転勝利に貢献した。怪我でベンチ外となったFW大津祐樹のためにも、勝利したい気持ちが強かったという。

「俺とクラッシュしてのことで……。その分、しっかりやりたいという気持ちがあった。あいつが出られなくて、負けたら申し訳ないと思っていた」と水野。この試合の2日前の練習で偶然にも2人は交錯し、大津が怪我をしてしまったという。水野は当初、ベンチに入れるかどうか微妙だったようだが、代役となる形でメンバー入りをつかんだ。それだけに、白星をつかみたかった。

「同じ世代や下の世代が行って活躍しているのは、刺激になる。僕ももう一度、日本代表を考えたい。でも、その前に、ここで結果を出すことが大事。それが代表にもつながるので、日々、しっかりと練習をやって結果を出したい」

 報道陣から、同世代の欧州移籍のことや日本代表復帰について聞かれると、水野はこう答えた。今は先のことよりも、柏でしっかりとしたプレーをし、22、23歳の頃の自分を超えることが目標だ。まずは世界や日本代表スタッフよりも、柏サポーターに認められたいというのが本心だ。

「ここのサポーターに認められたいという気持ちがある。きょうの出来では、まだまだ。あいさつの『あ』の字にもいっていない。もっともっとやらないといけない。きょうはシュートもなかった。インパクトを残すためにはシュートを打つことが大事。ドリブル? ドリブルはもう少し、試合をこなさないと感覚は戻ってこないかな。仕掛ける部分は、今のチームに少ない部分。自分を出して、結果につなげないといけない」

 かつてオシム監督からもその才能を高く評価されたアタッカー。まだ25歳で、老け込むには早すぎる。もう一度、あの鋭いドリブル突破とミドルシュート、そしてFK……。もっともっと成長できるはず。水野自身もそんな自分を信じている。“才能”のまま未完で終わるつもりはない。これからさらに“新しい水野晃樹”を見せるつもりだ。

(取材・文 近藤安弘)

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