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[選手権予選]「10回やって1回しか勝てない」相手にジャイアントキリング!横浜市立東が4-3で夏の全国王者撃破!!

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[10.30 第90回全国高校選手権神奈川県大会準々決勝 横浜市立東4-3桐蔭学園 麻溝]

 無名の市立高校、横浜市立東が全国王者破る「ジャイアントキリング」。第90回全国高校サッカー選手権神奈川県大会は30日に準々決勝を行い、今夏の全国高校総体で優勝した桐蔭学園が選手権初戦となる一戦で横浜市立東と対戦。東の2年生FW小野拓馬に3ゴールを決められるなど3点ビハインドを負った桐蔭学園はFW角宮健介(3年)の2ゴールで1点差にまで詰め寄ったものの、3-4で敗れた。東は1995年度以来16年ぶりの準決勝進出。11月6日の準決勝では三浦学苑と激突する。

「東は名前も知られていない学校。『桐蔭は10回やったら1回しか勝てない相手』と言っていました。でもその1回が今回来るようにとやってきた。『胸張って行けよ!』と言って送り出しました」と就任2年目の東・岡本崇吾監督。指揮官が主将を務めていた95年度と同じく桐蔭学園を撃破しての堂々の4強入りだ。泣きじゃくる王者たちの隣で歓喜を爆発させたイレブンは「信じられない」「本当にうれしい」と喜びのコメントを連発。自分たちがつかんだ白星の大きさに興奮はなかなかさめなかった。

 ひたむきに戦い抜いた集団が起こした「ジャイアントキリング」だった。立ち上がりからボールを支配した桐蔭学園はショートパスを次々とつないで縦、左右へと揺さぶりをかけると、局面では角宮や全国総体得点王のMF小形聡司(3年)が足技とスピードを駆使してディフェンスラインを切り裂いてくる。前半2分には角宮の突破からMF進藤圭介(3年)が決定的な左足シュートを放ち、8分には小形の強烈な右足シュートがゴールを襲った。だが、東は押し込まれてもCB須山亮主将(3年)とCB石井佑樹(2年)中心に中央をなかなか譲らず、PAへ入り込ませない。ただ守るだけでなく、MF中川詠介(3年)を起点にボールをしっかりとつないで敵陣まで持ち込んだ東は19分、FW大野鉄太(3年)が敵陣右中間でFKを獲得。キッカーを務めたSB柴崎陽介(3年)が「(キッカーは)薦められて。すぐに自分の世界に入っていた。巻いて落ちるボールを蹴ろうと思った」と左足を振りぬくと、ボールはGKの手の先を抜けてゴール右上隅に吸い込まれた。

 桐蔭学園は失点直後に小形が同点の右足シュートを叩き込む。ただあっという間に失った同点ゴールで「甘くない」と再認識した東は、相手にボールを支配されても声と集中力を切らさない。CBの2人とダブルボランチが献身的に相手を挟み込んで桐蔭学園の攻撃を食い止めると、「自分はぶっ倒れるまで走り回ること」という2年生FWが大仕事をしてのける。前半35分、東は右サイドのMF浅野亮太(2年)がGKと最終ラインとの間に落とす絶妙なループパス。これに反応した小野が胸トラップから冷静に右足シュートをゴール左隅へ流し込んで勝ち越した。

 さらに東は37分、須山の縦パスでディフェンスラインの背後へ飛び出した小野が左足ダイレクトでゴールへと流し込む。王者・桐蔭学園から奪った会心の連続ゴール。まさかの2点ビハインドで前半を折り返した桐蔭学園は後半開始から全国総体決勝の先発メンバーの中でこの日唯一先発を外れていたMF山田和輝(3年)を投入する。チーム屈指の技巧派が入ったことで桐蔭学園のポゼッションはさらに高まった。ただPAまで押し込んでボールを動かすものの、相手の粘り強い守りの前になかなか決定打を打ち込むことができない。24分に放った進藤の右足FKもゴールマウスに阻まれてしまう。

 逆にカウンターからそれぞれが長い距離を走ってビッグチャンスに結び付けていた東は24分、MF村上幹茂(3年)の展開から左サイドを駆け上がった柴崎が絶妙のクロスボール。これに飛び込んだ小野が頭でゴール右隅へと押し込んでハットトリックを達成した。公式戦で初めて3得点を決めたいう小野の“衝撃”のハット。これはハーフタイムに岡本監督から「守りきって勝とうと思うな」と送り出され、走り続けた東イレブンが放った渾身の一撃だった。

 ただ、あきらめない全国王者はここから意地を見せる。29分、左サイドをオーバーラップしたSB冨澤右京(2年)のクロスにDFを振り切って飛び込んだ角宮が頭で合わせて2点差。その後両SBが再三敵陣の深い位置まで入りこんで波状攻撃を繰り出す。PAでの攻防戦で相手に跳ね返されながらも辛抱強く攻め続けると、2分が表示されたロスタイムの42分にはSB内嶺大輝主将(3年)のラストパスから角宮がゴールを破り、ついに1点差とした。勝利への執念を見せた桐蔭学園だったがこの直後、プレーの再開とともに無情のホイッスル。秋田の夏に歓喜の雄たけびを挙げた王者の選手権は、11月を迎える前に早くも幕を閉じた。

 桐蔭学園の山本富士雄監督は「気をつけないといけないセットプレーなどでやられてしまって。ウチの力がなかった」と言葉少な。一方、昨年の2回戦で桐蔭学園に延長戦の末敗れていた東の須山主将は「1つ上の先輩たちの悔しさも知っているし、これまでOBたちが桐蔭に負け続けていた。『絶対に勝とう』『日本一の相手を倒して上がって行こう』と言っていた。『やってやろう』という気持ちがみんな入っていた」。気迫とひたむきさで上回ってつかんだ勝利に感慨深げだった。

 自分たちにとっても負ければ引退。スタンドからは試合開始から終了まで全国王者に飲み込まれずに声をからし続けた控え選手たちの姿もあった。須山主将は「あの声が大きい。いつも雰囲気をつくってくれている。桐蔭の選手からも『頑張れ』と言われたし、これまで勝ってきたチームから千羽鶴を託されている。応援してくれている人たちのためにも頑張ります」と誓う。「全国王者を倒したチーム」として注目の集まるこれから。桐蔭学園のためにも負ける訳にはいかない。まだまだ満足するつもりのない東が、プレッシャーを乗り越えて初の全国舞台を目指す。

[写真]選手権予選最大のジャイアントキリング! 全国総体優勝の桐蔭学園を破り、喜びを爆発する東イレブン

(取材・文 吉田太郎)

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