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[選手権予選]鹿島学園が2年連続6度目の優勝!震災被害を乗り越えた“精神力”で逆境を跳ね返す:茨城

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[11.13 第90回全国高校選手権茨城県大会決勝 ウィザス2-2(PK3-5)鹿島学園 カシマ]
 第90回全国高校サッカー選手権茨城県大会の決勝が13日にカシマスタジアムで行われ、鹿島学園がPK戦の末にウィザスを下して2年連続6度目の優勝を果たした。初優勝を目指すウィザスが後半2分に先制したが、すぐさま鹿島学園が逆転に成功。だが、後半ロスタイムにウィザスが追いつき、延長、そしてPK戦にもつれた。緊迫した展開の中、鹿島学園が精神面の強さで上回り、再び全国切符をつかんだ。
 手に汗握るPK戦。静まり返っていたピッチに、一気に歓喜と悲鳴がこだました。後攻のウィザスは1人目のFW西野拓麻(3年)が失敗したが、鹿島学園は4人連続で成功。4-3で迎えた5人目のキッカー、MF西谷優希(3年)のシュートがゴール右に決まった瞬間、鹿島学園の2年連続の優勝が決まった。選手たちは喜びを爆発させ、バックスタンドの応援団に手を振って応えた。
「PK戦は、追いついたウィザスのほうが勢いがあると思った。落ちついて冷静になったほうが勝負を決められると思ったので、選手にはとにかく落ち着けと話した。苦しい時こそ、心を落ち着かせて冷静になろうと話しました。“心の勝負”で頑張ろうと。どっちが勝ってもおかしくなかったが、精神的に少したくましかったうちに勝利がきました」と鈴木雅人監督は嫌な流れを振り切って勝利をつかんだ選手たちを讃えた。
 “不運の連続”に負けることなく、勝利をつかんだ。前半の立ち上がり、鹿島学園がペースを握った。ボランチの西谷優のパスや攻撃参加、双子の弟で背番号の「10」のMF西谷和希(3年)のスピードと個人技を活かしてチャンスを作った。「監督から前半の15分は(前から行って)ゴールを取りに行けと言われていた」と主将のFW中村瞬(3年)。全員が指揮官の意図を理解し、チーム一丸で猛攻を仕掛けた。
 しかし、前半16分の西谷和のシュートがポストに弾かれるなど、惜しいところまでは行くが、ゴールが奪えない時間が続いた。そんな中、前半の20分ごろ、西谷和がシュートの際に右足首を痛めた。エースが思うように走れなくなったことで攻撃の迫力が半減し、ウィザスにペースをつかまれた。前半は0-0のままで折り返したが、鹿島学園は前半、ウィザスの3本に対して倍以上の7本のシュートを放っただけに、悔しい展開だった。
 西谷和は痛み止めの錠剤を飲んで後半のピッチに立った。そんな流れで迎えた後半開始2分、ウィザスのMF霜出聖也(2年)にPA正面からシュートを決められ、先制点を与えてしまった。エースの負傷に、ペースを掴んでいた中での失点……。気落ちしてもおかしくないが、それでも鹿島学園は動じなかった。
 失点から8分後の後半10分、同点に追いついた。FW安藝敬宏(2年)の左クロスに、西谷和がPA内に走り込んで胸トラップからマイボールにし、後方の兄、西谷優にラストパス。西谷優は弟の執念のパスをしっかりとゴールネットに突き刺し、1-1の同点に導いた。西谷優は「枠に蹴ろうと思った。カズはしっかりと見てくれていた。やっぱり息が合いますね」と弟とのコンビネーションで奪ったゴールだと強調した。
「足が痛いとか、言い訳はできなかった。チームのために走らないといけないと思った。痛みより先に体が動きました」とアシストに成功した西谷和。これには鈴木監督も「苦しい中でも頑張れと言って送り出した。そういうところで踏ん張れる強さがどれだけあるか、試した。何かやってくれる可能性があるだろうと思った」と期待に応えてくれた“持っているエース”を評価した。
 これでリズムをつかみ、同点から4分後の後半14分には、ゴール前の混戦から主将の中村が押し込んで逆転に成功した。その後はウィザスがパワープレーでゴールを狙いに来たが、鹿島学園は何とか跳ね返した。苦しみながらも耐え、2-1のままロスタイムを迎えたが、また不運が待っていた。3分のロスタイムも2分が経過し、勝利が見えてきたころ、こぼれ球をつながれてPA内にパスを通され、MF山根視来(3年)に決められて2-2に追いつかれてしまった。
 普通ならここで一気に気落ちし、延長戦での失点、もしくはPK戦での敗退につながってもおかしくない展開だ。しかし、鹿島学園の選手たちは精神的に崩れることなく、勝利をもぎ取った。そこには東日本大震災を乗り越えたチームのたくましさがあった。
「1年間、苦労しながら頑張ってきたことが今回の結果につながったかなと思います。このチームを支えてくれる人がたくさんいます。学校をはじめ、それ以外の人もサポートしてくれた。そのおかげで今日がある。選手には日々『もっと苦しい人がいるんだぞ。もっと苦しい人のことを考えて、サッカーができる喜びを感じよう』と話してやってきた。とにかく一生懸命やり続けてきてよかった」
 鈴木監督がこう明かしたが、鹿島学園は東日本大震災の影響で学校のサッカーグラウンドの至る所が陥没し、半分しか使えない状況となった。県内では最も被害が大きかった学校の一つだという。3月11日の震災以降、一部のライフラインが止まり、選手たちは自宅待機となった。その間、水道が止まった生活や計画停電を経験した選手もいる。部活動も約1ヵ月間休みとなった。チーム作りは遅れ、「春先は練習試合をしても、どこにも勝てなかった。練習もできないから、体もなかな戻らなかった」(鈴木監督)。
 結果、6月の全国高校総体予選は決勝で水戸商に1-2で敗戦。悔しい思いをした。これをバネに、夏場にはみっちりと走り込んだ。グラウンドはいまだに半分しか使えず、実戦練習を行うときは鹿嶋市内の公営グラウンドなどを転々としている。こんな環境を乗り越え、技術や体力面だけでなく、精神面も鍛えられたと選手たちは口を揃える。これがこの日の大一番で発揮された。
 主将の中村は「地震によって、グラウンドが地割れして、練習も1ヵ月間、活動停止になりました。だから、サッカーができる喜びを感じなら1年間やってきました。監督からは、苦しい時にどう頑張れるか、と1年通して言われてきた。夏場、グラウンドが半分しか使えないので走りを中心に、ダッシュを中心にやりました。苦しくなってから、いかに頑張れるか。そこからどう頑張れるかだぞ、と言われながら練習をしてきました」と苦しい練習に耐え抜いたことで、チームが成長したことを明かした。
 怪我を抱えながらも後半31分まで出場した西谷和は「被災地だったので生活は大変な所があったけど、そういうことを経験したから成長できたと思う。全国大会に出て周りを元気づけたいと思います。被災地の茨城の代表として全国の舞台で活躍すれば、みんなに元気を与えられると思う。自分たちが全国で頑張って、そういう気持ちを伝えたい」と想いを吐露した。
 2年連続となる全国舞台での目標は、悲願の日本一だ。これまでの同校の最高位は2008年の4強だが、鈴木監督は「頂点を目指して頑張りたい」と言い切った。主将の中村も「全国大会なので優勝は難しいかもしれないけど、やるからにはそこを目指してやりたい」と宣言した。西谷和は「自分がチームを救えるような、苦しい時に頑張れる選手になりたい。選手権では、逆に自分がみんなを助けたい」と力強く語った。震災被害を乗り越え、たくましく成長した鹿島学園。その姿を全国の舞台でも披露する。
[写真]苦しい試合を勝ち抜き、笑顔の鹿島学園イレブン。全国でも不屈の精神力を発揮し、県民のためにも悲願の日本一を目指す
(取材・文 近藤安弘)

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