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11年前の悔しさ晴らし、北嶋が男泣き。「腹の底に響くような優勝だった」

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[12.3 J1第34節 浦和1-3柏 埼玉]

 ロスタイムに突入した頃から、目がうるうるしてきた。ピッチ上で戦う仲間たちが少しずつ霞んでいく。試合終了の笛がなった瞬間、FW北嶋秀朗の目からは大粒の涙があふれた。優勝の瞬間をピッチで味わえなかったが、うれしさがこみ上げてきた。北嶋が、男泣きを見せた。

「試合が終わる1分くらい前から涙が出てきちゃった、恥ずかしながら(照笑)。優勝が決まった瞬間? 噛み締めるような感じでしたね。優勝したら、どういうふうになるか分からなかったけど、ウワーッとなるよりは、優勝できたことを噛み締めることのほうが強かったです。なんかこう、腹の底に響くような優勝だった」

 涙には、11年分の思いが凝縮されていた。2000年シーズンの第2ステージ。柏は首位だった鹿島と勝ち点1差の2位で、最終節に直接対決を迎えたが、延長120分間の末の0-0ドローで優勝を逃した。当時22歳だった北嶋は自己最多の18得点をマークし、チームを引っ張っていた。目の前で優勝を逃した悔しさや無念さは、今も忘れてはいない。

 リベンジを誓っていたが、そこから北嶋の苦難のサッカー人生がスタートした。その年の成績をピークに、年々チームで出番を減らし、2003年には清水に移籍した。しかし、そこでも膝の怪我が影響し、満足のいくプレーができない日々が続いた。そんな中でも柏への思いは常にあった。2004年12月、柏と福岡の入れ替え戦第2戦。北嶋は日立台まで応援に駆け付けたほどだ。

 そんな中、05年オフにJ2に降格した古巣の柏からオファーを受けた。清水からも契約延長のオファーを受けて悩んだが、古巣の再建のために復帰を選んだ。09年に再びJ2降格の憂き目にあったが、不屈の精神でチームを引っ張り続けた。膝も満身創痍だが、そんな数々の思いや努力がようやく、実った。

 勝てば自力で優勝が決まる大一番は、ベンチスタートで出番もなかった。「優勝の瞬間はピッチにいたかった? 半分以上はありますね、正直……」と吐露しつつも、「今年1年間チームに貢献できたことや、きょう難しい試合を優勝できたこと、優勝の瞬間に試合に出ていなかったこと、そういうのをひっくるめて、今後の自分のサッカー人生に大きなものになると思う」と言い切った。

 間違いなくシーズンを通して優勝を支えた男だ。開幕当初は控えだったが、腐らずにアピールを続けてレギュラーを奪取。リーグ戦23試合に出場し9得点の成績を残した。得点数は自身2番目の数字だ。もちろん、数字だけでなく、精神面でもチームを引っ張った。まさに大黒柱だった。

 だが、北嶋の“夢”はこれで終わりではない。優勝の興奮が冷めないうちに、早くも次の目標を掲げた。柏を常勝軍団にし、世界一のクラブにすることだ。「優勝して改めて、魂に響くものを感じた。この景色はやみつきになるんだなと思った。常勝チームは、この景色をまた見たいと思うから、どんどん強くなれるのかなと思う。この感覚というか、体の中ら出てきたものは、今までなかったもの。これを何回も味わいたいという思いになった。また優勝したいなという気持ちになった」という。

 そして「去年J2からJ1に上がったとき、クラブW杯で優勝したいというのがレイソルの目標であり、自分の目標になった。去年の、柏市の市役所で行った講演でも話したんですけど、それが夢です。今年は、その夢を叶えるチャンスが目の前にある。臆することなく、その夢をみんなとつかみにいきたい」と宣言した。クラブW杯は12月8日に開幕する。北嶋にとってリーグ制覇はまだまだ“夢の途中”だ。『エース』はこれからも先頭に立ち、レイソルに栄冠をもたらすつもりだ。

(取材・文 近藤安弘)

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