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[連載]被災地からのキックオフ~コバルトーレ女川の奮闘記~(vol.7)

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今連載はフリーライター佐藤拓也氏の“サッカー復興”へ少しでも力になりたいという使命感からスタート。「多くの人の命、生活が津波によって奪われた中、それでも町のために戦おうとする彼らの姿、その軌跡を、僕は1人のサッカーライターとして追わずにはいられなかった……」

 月曜日の夜7時前、石巻市にあるコバルトーレトレーニングパークの駐車場にぞろぞろと車がやってきた。そして、車から降りて来たのはジャージを着た男たちであった。そう、彼らはコバルトーレ女川の選手たち。水産会社での仕事が終わって疲れているにも関わらず、笑顔を見せながらグラウンドに入っていった。

 現在、コバルトーレ女川のトップチームの活動は再開しており、週に2度ほど練習を行っている。

「(活動再開は)早いといえば、早いですね。震災当初はこれからどうなるのかと不安でしたけど、こうして今では活動再開することができている。過ぎてしまえば早いんですよ」。トップチームの阿部裕二監督は落ち着いた口調でそう語った。

 活動を再開させたのは9月のことだった。「わずか1週間半ぐらいで決まった」と檜垣篤典ディレクターは振り返る。

「クラブは来年のリーグ戦に参加すると表明していますが、動くのは現場。来年はじめるにしても、何も活動の実態がないということでは、セレクションで人を集めることもできないし、戻ってくる選手に『戻ってこいよ』とも言えない。向こうも不安になってしまいますよね。来年のリーグ戦の開幕が4月で、3月からトレーニングマッチが増える。それまでにしっかり体を作っておかないといけない。そうすると、9月ぐらいから活動しないといけないのではないかという話になって、8月中旬くらいから駆け足で活動再開にこぎつけました」

 9月は週に1回、10月から週に2回ほど練習を行っている。12月からは週4日に増やそうとしたものの、急に気温が下がったことにより、体調を崩してしまった選手が多いため、今はまだ週に2回を維持している。

 練習がはじまると、グラウンドはそこが被災地であるということを忘れさせるほど活気に満ちた雰囲気となった。選手たちの顔は常に笑顔が浮かんでおり、サッカーができる喜びを感じていることはグラウンドの外にまでビンビン伝わってきた。そして、そこには震災後、チームを離れていた滝沢陽介や今年1年間東北社会人1部リーグのカンビアーレ秋田でプレーをしていた成田一茂の姿もあった。

 ウォーミングアップの走り込みが終わると、選手全員でパスゲームを行い、最後はミニゲームで練習は締めくくられた。「これまで単純にサッカーができない状態だったので、今はまだトレーニングするというより、サッカーをするという感じですね。何かをやろうとかはないです。とりあえず、年内は体を動かして、サッカーをやって、来年の年明けから本格的にトレーニングをします。来年からは週に6回練習を行います」と阿部裕二監督は展望を明かしてくれた。

 震災から半年で活動再開にこぎつけることができた。しかし、そこには様々な障害があったのではないだろうか。そう問うと、「別にないですよ」と阿部監督は言う。

「選手たちはサッカーがしたくて、ここに残ったわけですし、働いている会社にもそれを理解してもらえている。グラウンドの問題も解決しています。土のグラウンドを週に2回借りれますし、週に1回女川町の陸上競技場のトラックの部分を使って走り込みをすることもできる。あとはここのトレーニングパークを使って、練習を行えるんです」と阿部監督が語るように、地域や支援者の理解があり、活動をすることができているようだ。

 コバルトーレトレーニングパークの周りには仮設住宅が建ち並んでいる。夜にナイター照明をつけて、騒がしく練習を行うことにクレームが来てもおかしくない。阿部監督をはじめスタッフ陣もそこには気を遣ったという。だが、反応は予想と反するものであった。「『にぎやかでいい』『もっとやってほしい』という声があったんですよ。今は寒くなったので、来なくなりましたが、以前は見学に来る人たちもいました」(阿部監督)。

 震災から9か月が経った。被災地のガレキはだいぶ撤去され、かつての混沌とした状態ではなくなっている。マイナスからゼロになった。そんな感じだ。だが、まだまだ復興に向かえていない現状がある。果たしてこれからどうなるのか。被災地の多くの方が不安を抱えている。

 そうした状況の中、震災以前にあったものを1つ1つ取り戻していくことが、被災地の方々をおおいに勇気づけるに違いない。だからこそ、コバルトーレの活動に多くの人が理解を示し、1日でも早く震災前と同じ活動をしてもらいたいと願っているのだと思われる。震災直後、「本当に活動していいのか」と近江弘一GMも阿部監督も檜垣ディレクターも悩んだという。だが、今求められているのは、震災前と同じように選手たちが元気にピッチを走り回る姿を見せることなのである。

 その期待に応えるかのように、コバルトーレは大きな一歩を踏み出そうとしている。きたる12月18日、震災後初となる試合を女川町総合運動公園陸上競技場で行うことが決定した。対戦相手は宮城県1部リーグに所属する社会人チームSASUKE FC。実はその試合は震災翌日の3月12日に行われる予定だったのだ。9か月の時を超えて、やっと実現に至ろうとしているのである。第一歩を踏み出すための最高のシチュエーションが揃った。

 ただ、決して時計の針を戻すわけではない。震災の痛みも、そこから踏み出す強さも背負いこんで、コバルトーレ女川は再出発のときを迎える。

[写真]練習後に記念撮影。12月18日の試合に向けて、選手たちは気合いを入れていた

(取材・文 佐藤拓也)

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