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[選手権]「背負ったものが大きかった」“被災地代表”尚志が福島県勢初の4強入り

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[1.5 全国高校選手権準々決勝 桐生一1-3尚志 埼玉]

 第90回全国高校サッカー選手権は5日、準々決勝を行い、埼玉スタジアムでは初出場の桐生一(群馬)と初の8強入りを果たした尚志(福島)が対戦した。尚志はFW後藤拓也(3年)の2得点などで3-1で勝利。福島県勢として初の4強入りを決めた。7日の準決勝では四日市中央工(三重)と対戦する。

 昨年3月11日の東日本大震災と直後の福島原発事故により甚大な被害を受けた福島県を代表して臨んだ全国選手権。自分たちがなでしこジャパンに勇気づけられたように、自分たちも福島県の人々を元気づけたいとの思いから「福島のなでしこジャパンになろう」を合言葉に戦ってきた。尚志の、そして福島県の歴史を塗り替えるベスト4。仲村浩二監督は「初めて(のベスト4)というのは最近知ったけど、特別な年に記録に残るところまで行けたことはうれしい」と目を潤ませた。

「大会が始まる前からブレイクするんじゃないかなと思っていた」。指揮官が活躍を予感していた後藤がこの日も躍動した。前半17分、ゴール前の混戦から先制点。「ちょうど転がってきてくれて、うまく決められた」。3日の3回戦は2-3の後半33分に後藤が同点弾を決め、PK戦の末、桐光学園に競り勝った。2戦連発となるゴールでリードを奪うと、前半31分にはDF峰島直弥(3年)の左クロスをMF金田一樹(3年)が鮮やかな左足ダイレクトボレーで追加点。2-0とリードを広げ、後半に折り返した。

 守備でもコンパクトなゾーンディンフェスでスペースを与えず、桐生一のエースFW鈴木武蔵(3年=アルビレックス新潟入団内定)をミドルシュート1本に封じ込める。後半22分にCKから一瞬の隙を突かれ、桐生一DF川田勝也(2年)に1点を返されたが、選手は動じなかった。失点直後に自然と選手の輪が生まれ、「まだ時間はあるし、勝っているから落ち着こう」と声をかけ合い、失点につながったマークミスを確認。「これまでは2-0から2-3にされることが多かったが、今日はそこからも緊張感を楽しむことができた」(仲村監督)というメンタルの強さが今の尚志にはある。

 試合を決定づけたのも後藤だ。後半33分、高い位置でボールを奪うと、自らドリブルで持ち込み、DFを振り切って左足でゴール右に流し込む。「相手と競り合って、ユニフォームを引っ張られたけど、そこからもう一つ持って行けた」という力強い突破から値千金のダメ押しゴール。粘る桐生一を振り切り、3-1の快勝で準決勝へ駒を進めた。

 あの日から300日。2、3年生はだれ一人サッカー部を辞めることなく、「このチームで全国制覇したい」との思いを胸に戦ってきた。そして、たどり着いた国立の舞台。「目標に一歩一歩近づいている。その気持ちを忘れず、次の試合もチャレンジャー精神でがんばりたい。国立はあこがれの場所。思い切り楽しませたい」と仲村監督は力を込めた。

「福島県代表として、背負ったものが大きかった。外で遊んでいる小さな子供もいなくなって、僕らがサッカーでがんばることで福島県に元気を与えられればと、ずっと思っていた。こっちにいるので福島のことは分からないけど、帰ったら『感動をありがとう』と言ってもらえるようなチームだったらうれしい」

 不安や葛藤、プレッシャーと戦ってきた苦難の1年。純粋にサッカーを楽しみ、国立のピッチを思い切り駆け回ってほしい。きっとその姿が、被災地の人々の心へも届くはずだ。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 西山紘平)

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