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[選手権]久我山スタイル、ベスト8で散る(前橋育英vs国学院久我山)

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[1.5第87回全国高校サッカー選手権大会準々決勝 前橋育英(群馬) 1-0 国学院久我山(東京B)駒沢]

見ていて痛快な攻撃サッカーで今大会台風の目になってきた国学院久我山(東京B)の挑戦が終わった。前橋育英(群馬)のテクニカルかつ力強いサッカーの前に持ち味がだせず0-1の敗戦。80分間通して押し込まれ、1失点で終わらせることが精一杯だった。

過去の対戦チームに「洗練されている」と言わしめるほど、久我山のサッカーはテクニックが光った。しかし、準々決勝ともなれば対戦相手のレベルも上がる。そこでいかにこれまでのプレーを継続できるかがカギだった。

「サッカーは相手あってのもの。強ければこれまでのように点は取れない。ゴール前でスペースを与えてくれればうちの良さが発揮できるけど、そうはさせてくれない。点が取れない展開は戦前から予想できていた。(前橋育英は)練習試合含め今シーズンうちが対戦したチームのなかで最も強かった」と久我山の李済華監督(53)。いわゆる「部活」と聞いて連想される鍛錬を排除してベスト8まで進出してきた。

ともに洗練された技術を備えるチームであることは試合開始から見て取れた。しかし序盤から押し込んだのは前橋育英(群馬)。久我山はこれまで自由にさせてもらっていた後方でのボール回しもプレッシャーにさらされ落ち着けない。加えてこれまでは流れたりカットできていたミドルレンジのパスも前橋育英の場合は精度高く通され、守備に奔走する時間が増えた。

前橋育英の選手は上手いだけでなく、体を寄せられても倒れない“骨太な”プレーが目立った。倒れずに進み続けるから相手への寄せも速くなるしボールも奪われない。「夏場であれば3点ぐらい取られていてもおかしくない展開。がんばっていた」(李監督)。一方、攻撃面は自慢のパスワークや効果的なドリブルがほとんど見られず。「中盤のパスワークがウリだが、じゅうぶんなスペースが与えられない中でいかにボールコントロールと判断の質を保つかだった。ギリギリの状況でどのくらいの力を出せるか」(李監督)。久我山にとっても挑戦だった。

前半は再三にわたる攻撃をしのいだ。「前半はよく守った。守備をがんばったことで無失点という“必然の”運が生まれた。だから後半もまだ何が起こるかわからないと伝えた。ただゲキが入りすぎたか、後半もう少しパスワークが見られてもよかったが…」(李監督)。後半8分にはチームのけん引役MF田邉草民(3年)をトップに上げ攻撃に専念させる一方、サイドの守備を強化した。しかし、その7分後についに失点。
「レベルが違った。相手の強いプレスに戸惑った部分もある。前半は想定どおり…、いやそれ以上だった部分もある。後半はもう少し落ち着いていけるかと思っていた。そういう意味で前橋育英は鍛えられていると思う」(李監督)。

「鍛える」という言葉とは縁遠いのが久我山サッカー、ということを李監督は強調してきた。サッカーだけに費やせる時間は少ない。進学や試験といった学生の本分を優先させることが多いからだ。

では、鍛えられているチームに久我山のサッカーは全く通じないのか。答えは「否」だ。

李監督は最後にこう言った。「今後はサッカーに必要なフィジカルを得ていかなければいけない。ゲームを通して走りきる体力、フィジカル。要はもっと上手くなれば勝てたわけだから。海外サッカーで見られるようなフィジカル、サッカーを目指していく」「いつも言っているのは勝ちは喜びを、負けは教訓をもたらしてくれる。泣かないためには優勝しなくてはいけない。タフにならなければいけない。これから上にいくのに何が必要か、この試合から何か学んでほしい」。

初のベスト8進出で感じた手ごたえと課題。今後も久我山スタイルを変えるつもりはない。今日の敗戦を機に、独自路線のサッカーをどう進化させてくれるか。次に全国へ出てくるときは、今大会以上に鮮烈な印象を残してくれると考えても期待しすぎとはならないはずだ。

(取材・文/伊藤亮)

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