beacon

[選手権]忍耐強いサッカーで皆実ベスト4(四日市中央工vs広島皆実)

このエントリーをはてなブックマークに追加
[1.5第87回全国高校サッカー選手権大会準々決勝 四日市中央工(三重) 0-2 広島皆実(広島)駒沢]

3年連続ベスト8の広島皆実(広島)が、三重県勢として2年連続準決勝進出を目指す四日市中央工業(三重)と対戦。相手の良さを消し、かつ効果的にゴールを挙げた広島皆実が2-0で快勝、ついにベスト8という過去最高成績を上回ってベスト4へと進んだ。10日の準決勝で鹿島学園(茨城)と対戦する。

試合終了のホイッスルが鳴って、先にピッチに倒れ込んだのは広島皆実の選手たちだった。チームとして悲願だったベスト4。その喜びを爆発させたのだ。試合後のロッカールームでも歓声が静まる事はなかった。

この試合1得点1アシストのMF浜田晃(3年)は言う。「1年生時からメンバーに入れてもらって2年間、悔しい思いをしてきた。今日のためにこの1年間苦しんできたから嬉しい。相当な思いでこの試合に臨んでいたので」。

すっかり有名になったと思われる広島皆実の守備力が、この試合でもぞんぶんに発揮された。ポジショニングで相手より優位に立ち、前線から二重三重の網を張る。特に前半は四日市中央工の目指す試合運びを完全に分断、無力化した。

「いつもの彼らのパフォーマンスが全く発揮できなかった。両チームとも同じプレッシングスタイルなのに、こっちはプレスをかけられず、最終ラインも引きすぎた。最強のチャレンジャーを意識してきたはずなのに、前へとチャレンジする気持ちが最後の試合で抜けた」。四日市中央工・樋口士郎監督(49)はそう振り返るが、広島皆実の術中にはまった感は否めない。

広島皆実の守備は淡々としている。対戦相手とすればいつの間にか時間がたって、気付けば試合終了という感じか。特別ではないが、80分間一貫して統制された守備を続けられるのが強みだ。また、例えば両SBが攻めあがったときなど、絶対ではないにしろ「深くまでえぐる」という意識を第一選択肢にしているように見える。敵陣サイド深くまで切れ込めば、たとえ奪われてもカウンターは受けにくいし、相手には脅威になる。3回戦から同様、CK、相手GKの数が多いことがその意識の証拠。そういった安全なプレー選択の積み重ねが、高校離れしたチームの安定感を生んでいる。

しかし守備だけでは勝てない。遂にベスト8の壁を突破できたのは攻撃面の成長と言える。この試合も前半21分に左サイド深く切れ込んだ左SB﨑原拓也(3年)の折り返しにMF浜田が合わせ先制。後半立ち上がりの3分にはMF浜田の右CKにDF村田俊介(3年)がヘッドで決めた。守備が強い一方でDFも積極的に攻撃参加する。

浜田曰く「去年までの経験と攻撃に重点を置いたチーム作り。油断せずに相手を尊敬して、そして自分たちらしさを出す」。広島皆実の藤井潔監督(35)も「夏を過ぎて全日本ユースのあたりまでは前がかりになっていた。チームバランスをコントロールできるようになった」と語る。評価の高い守備と80分間途切れない集中力、そして加味された攻撃力。いくつもの転機を経て、チーム状態は今が最高潮かもしれない。

ただし、この試合では四日市中央工につけ入れられる時間帯もあった。それは2得点後の後半10分過ぎ。「2点取ってからも守りに入りたくなかったが、そこまで経験のあるチームでもないので守った。それはそれで正解だったが、意識統一ができずバタついた。後々で落ち着いたので思ったよりよくできたとは思うが…」(藤井監督)。
前線に人数を割いてきた四日市中央工はゴール前でワンツーなどダイレクトプレーを多用し、前半ほとんどなかったペナルティエリア内への進入を果たした点で意地を見せた。

「攻撃はチャンスを決めていくことが課題。それが改善されればもっと上にいけると思う」。浜田の言葉は守備の反省よりも攻撃に対して発せられた。屈折3年をかけてのベスト8越え。これまでの守備力だけでなく攻撃への意識も高く、広島皆実のサッカーは熟成されていく。

(取材・文/伊藤亮)

TOP