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痛めた右手でガッツポーズ、俊輔が会心のFK弾

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[3.28 W杯アジア最終予選 日本1-0バーレーン 埼玉]

 MF中村俊輔(セルティック)の左足が、5万7276人で埋まった埼玉スタジアムに歓喜をもたらした。後半2分、ゴール前ほぼ正面の位置で獲得したFKのチャンス。MF遠藤保仁とボールを少し動かし、ポイントをずらすと、思い切りよく左足でボールを蹴り上げた。壁に入っていた相手選手の頭に当たって軌道の変わったボールはゆるやかな放物線を描き、GKが目いっぱい伸ばした手の上を越えてゴールマウスに吸い込まれた。

 値千金の先制点。「壁に当たったから。でも、あの弾道は狙っていた」。右拳を握りしめ、力強くガッツポーズ。その右手には痛々しいテーピングが巻かれていた。前半途中に相手選手に右手を踏まれ、激痛が走った。「グーはできるから、折れてはいないと思うけど、ひびが入っているかな」。薬指と小指をテーピングで固め、そのままフル出場。手の痛みも忘れるほど試合に集中していた。

 「疲れたね。プレッシャーかな」。試合後は思わず安堵のため息を漏らした。勝てば最終予選進出に大きく前進するが、逆に敗れればその他の試合結果次第で3位転落もあり得る大一番だった。「スタジアムが静かじゃなかった?応援というより見入ってる人が多いというか。ホームなのかなって。緊張感のある感じと捉えたけど」。スタジアムの雰囲気にも過敏になるほど神経が張り詰めていた。どれだけこの一戦に懸けていたかが分かる言葉だった。

 最終予選ホーム初勝利で勝ち点も11に伸ばし、この日試合のなかったオーストラリアを抜いてA組首位に立った。4大会連続のW杯出場が、いよいよ手の届くところまで来た。それでも「本大会が近づいたっていう意識はある?」と聞かれると、「まったくない」と即答した。

 「もっと上に行くためにというか、個人的にもそうだけど、もっと詰めていかないといけない部分はある。見ないでパスを回せるぐらいの形とか。まだまだだよ」。安堵感はあっても、満足感はない。「ジーコのときみたいにドイツとやったりもしてないしね。(W杯出場を)早く決めて、(強豪国と)マッチメイクしてもらえるようにならないと」。宿敵との決着戦も、ひとつの通過点に過ぎない。俊輔の視線はもっと高みを見据えていた。

<写真>ガッツポーズする中村俊
(取材・文 西山紘平)

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