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[選手権]勝敗を分けたPK戦の「意識」(岐阜工vs野洲)

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[12.31第87回全国高校サッカー選手権大会1回戦 岐阜工(岐阜) 0-1 野洲(滋賀) 等々力]

22度目の出場となる岐阜工(岐阜)と3年前全国制覇したインパクトの再現を狙う野洲(滋賀)の対戦。近隣県の高校同士、お互いを知り尽くしての攻防であったが、試合終了直前、FW坂本一輝(3年)のゴールで野洲がギリギリのゲームを制した。

前半は完全に岐阜工のペース。守ってカウンター。トップのFW田中義樹(3年)にパスを通し、そこからサイドへ展開するか、中央から勝負するか。選択肢は少ないが、きっちりとパスが通る。特に右サイドMF堀江敏史(2年)からのセンタリングで何度も決定機を作った。

一方野洲は「動きながらのつなぎ」でスピードある攻撃を試みる。3-2-4-1という奇抜なフォーメーションもすべて、つなぎの速さからサイドを崩し、最後に坂本へ託すスタイルを追求すればこそ。しかし、緊張からか前半はパスミスが目立った。

後半に流れは一変する。「立ち上がりは悪かったけど、後半いつも通りやろうと。守備から入って走ろうと話し合った。後半のプレーが変わったように見えたのなら、それは緊張がほぐれた証拠」とは野洲FW坂本一輝(3年)。それまで止められていたドリブルが通るようになり、裏へと抜け出す動きが増え、高速複雑なパスもつながりだす。

前半と打って変わり守勢に廻った岐阜工。スピードとバリエーションに富んだ野洲の攻撃にさらされながらも、どこか落ち着いて対処しているように見えた。それもそのはず、この2校はこれまで3回練習試合をして、野洲の1敗2分という戦績だったという。相手を知り尽くしているからこそ免疫がある。岐阜工の落ち着いたプレー、やることがはっきりしていてそれを貫く図太いプレーはあと数分で、ある意味完遂されるはずだった。

岐阜工の清本勝政監督(41)は後悔する。「後半は体を張っての奇跡的なDFがあった。そこでPK戦になってくれたら、とどこかで思ってしまった。そこがまだ私の甘さなのかもしれない」。野洲の山本佳司監督(45)も振り返る。「相手の寄せとコンパクトな部分は尊敬していた。ただあのペースでやっていたら後半もたないというのも見えていた。練習試合を通しての相性の部分もあるし、PK戦にはしたくなかった。だからシステムを3バック1ボランチにして2トップに変更した瞬間、ゴールが決まった」。

体力がなくなり、ファール覚悟の守備になってもどこか落ち着きのある岐阜工。一方後半ほとんどの時間攻めてもゴールが割れずイライラした様子を見せる野洲。このままPK戦にもつれ込んだら、どちらが精神的に有利かは想像がつく。しかし、試合はまだ終わっていなかった。

「自分たちはボールを奪った際のパスコースが限定されているが、野洲はドリブルもあるし、バリエーションが多い。もっと焦らせてペースを乱したかったが、同じ事を貫いてきたのはさすがだと思った」(岐阜工・清本勝政監督)。「仲間からいいパスが来ると信じて走っていた。それまでシュートを何本も外して焦っていたし、正直PK戦も頭をよぎっていた。でもゴール前の落ち着きはこの1年で自分が成長したと思う部分。落ち着いて決められた」(野洲・坂本一輝)。後半39分、一本のタテパスが坂本に入る。それまでにも同じシーンがあり、そのたびに外したりGKの好セーブにあっていた。にもかかわらず最後までいつも通りを意識した。それが決勝ゴールにつながった。

先の展開に目を奪われず、ただ目先のことに集中する事がいかに難しく、いかにたいせつなことか。

それを如実に体現した試合だった。

(取材・文/伊藤亮)

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