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Jを目指せ! by 木次成夫

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第86回「JFL後期3節 アルテ高崎対MIO」
by 木次成夫

後期2節終了時点で、アルテは勝ち点10(2勝4分13敗)で最下位でした。とはいえ、勝ち点7(1勝4分け29敗)に終わった昨季と比べると、大健闘です。12節終了時点では3分9敗でしたから、13節から監督に就任した幸谷秀巳氏が4-3-3の攻撃的布陣に変更した成果でしょう。後期1節の横河武蔵野戦で1-7と大敗を喫したものの、累積警告で退場者が出るまでは、“ほぼ”互角。1-5で敗れた後期2節のファジアーノ岡山戦にしても、「途中までは良かった」とMIO関係者も語るほど。つまり、“攻撃的ゆえに”では、言い訳にならないほど“脆い”ということですが……。

かつてアルテには、元Jリーガーを含めて積極的補強をしていた時期もありました。が、今やアマチュア・チームです。選手の仕事を斡旋したり、「手当て」を支給したりしている地域リーグ所属クラブも複数ある中、アルテ選手は昼間練習に支障のない仕事を自分で探すなど、厳しい環境下でプレーしています。「得点とアシストには報奨金が出るようになった」(選手)そうですが、出場給は、ありません。

例えば、主将のMF里見仁義(25歳=今季加入、前・草津)も例外ではなく、「バイトをしています」とか。前橋育英高校時代は全国選手権ベスト4進出に貢献し、Hondaを経てザスパ草津で2年間プレー。昨季末に戦力外になり、最終的に故郷で「アマチュア」としてサッカーを続ける道を選んだわけです。

例えば、今季加入したFW久保田圭一(24歳)も地元育ち。高崎商業卒業後、流通経済大学に進学し、大卒1年目の昨季はJクラブの練習に参加するなど「サッカー浪人をしていました」(本人)とか。

“プロの世界は厳しい”ともいえますが、里見にせよ、久保田にせよ、「再チャレンジ」に適したチームが故郷にあることは幸いだったのではないでしょうか。

アルテが勝負弱い上に、ファンが少ない要因のひとつは、「Jを目指す」など、チームとして明確な目標を掲げていないからでしょう。ただ、地域リーグよりも「Jに近い」JFLに属していることは、選手が個人として「上を目指す」モチベーションになっていると思います。

例えば、柏レイソル・ユース出身の田中靖大(19歳・写真)。高卒後、北信越リーグ1部のフェルヴォローザ石川・白山に加入しながら、同クラブの経営難で、昨季途中にアルテに移籍。恵まれた体格(180cm、75kg)を生かした献身的ポストプレーは、3トップの攻撃サッカーには欠かせません。1人暮らしの高卒2年目がバイトをしつつ、スポーツマンとしてのコンディションを維持していることだけでも、驚きです。

7月13日、MIO戦のアルテ・スタメンは以下。
(写真は最新NEWSに掲載)

GK斯波 薫(25歳=今季加入、前Y.S.C.C)
右SB杉山琢也(25歳、前FC岐阜)
CB西村陽毅(21歳=今季加入、大宮からレンタル)
CB今井雅貴(23歳、前・創造学園大学)
左SB床井伸太郎(25歳=今季加入、前・NECトーキン)
MFファブリシオ(23歳=今季加入、前・草津U-23)
MF阿久津 剛(24歳=今季加入、前・佐川コンピューター・システム)
MF工藤光俊(27歳、前FCコラソン)
右FW久保田圭一
トップ田中靖大(19歳、前・フェルヴォローザ石川・白山FC)
左FW白山貴俊(23歳、前・東洋大学)

里見は前節(後期2節)のファジアーノ岡山戦で負傷したため欠場。サイドアタッカーの杉山をSBにコンバートした点も、監督交代後のスタイルです。

対するMIOは後期2節終了時点で、勝ち点25の11位。3勝1分という大健闘のスタートをきったものの、14節以降1分5敗。ゲームメーカーの若林令緒は、15節のカターレ富山戦で全治2ヵ月の負傷。ほとんどの選手がアマチュア一般社会人で、平日夜間練習ゆえに、蓄積疲労も苦戦の要因かもしれません。

MIOのスタメンは以下。

GK山本 剛(24歳、前・中京大学)
右CB石澤典明(23歳、神戸からレンタル)
CB三戸雄志(20歳=今季加入、京都からレンタル)
左CB枡田雄太郎(23歳、前・大阪商業大学)
右MF李 成浩(23歳=今季途中加入、前FC岐阜)
ボランチ金 東秀(25歳、前・大阪商業大学)
ボランチ 冨田晋矢(28歳、前・ボルシアフライアルゼンフォーフェン=ドイツ)
左MF壽 健志(25歳、前・近畿大学)
トップ下アラン(19歳=今季加入、前・日本航空第二高校)
トップ下大江勇詞(22歳、前・神戸)
トップ安部雄二郎(26歳、前・佐川印刷)

試合は、良く言えば「拮抗した」展開になりました。アルテの3トップに対応すべく、MIOは3-6-1で臨んだのですが、攻撃面で“ほぼ”機能せず。前線のスペースを狙った“大雑把”なパスが散見するなど、良いときのMIOと比べると、“別のチーム”のようでした。
アルテは里見“不在”ゆえに、パスワークという点で停滞した面もありましたが、若林“不在”のMIOの方が“これほど、うまくいかないこともあるのか”という点で、意外でした。

結果は3-1でアルテが勝利。今季3勝目。ホーム2勝目ながら、高崎市浜川競技場では、昨季の開幕、対ガイナーレ鳥取戦以来の勝利です。気温34.1度(公式発表)という暑さの影響でしょうか、MIOの失点は集中力欠如が大きな要因でした。最終的に、アルテ攻撃陣の良さが出たともいえますが……。

62分 1-0
工藤(アルテ)
63分 1-1
アラン(MIO)
66分 2-1
白山(アルテ)
86分 3-1
秋葉勇志(アルテ=交代出場、今季加入=前・浦安ジュニアSC)

観衆182人(公式発表)。うち、太鼓に合わせて声援を送る数人を含めて、少なくとも40~50人はMIOファン。昨年末、埼玉県熊谷市で開催された全国地域リーグ決勝大会「決勝ラウンド」では、MIOファンは皆無でしたから、隔世の感があります。その一方で、地元アルテ・ファンの少なさは……、せっかく、里見ら「地元の宝」を中心に再生すべく、動き出したのに“もったいない”としか言いようがありません。「市民クラブ」への移行を含めて、地域密着度を深める策は多々あると思うのですが――。“地元の名士”福田首相にも、是非、見てほしいものです。

ところで、試合後、MIOの平岡直起監督は、“ふっきれた”かのように、言いました。
「やっぱり、ポゼッションですよね。つなぐサッカーの方が観客も面白いでしょうし──」

振り返ると、昨年12月2日、MIOが昇格を決めた日、平岡監督はFC岐阜の一員としてJFL最終節のアルテに臨み、2点目のゴールを決めるなど、2-0の勝利に貢献しました。岐阜はJリーグ昇格圏内の3位でリーグを終え、結果的に、この試合が同監督にとって、現役最後の試合になりました。

改めて、サッカーは“結果がすべて”ではなく「上を目指すプロセス」が面白いと思いました。振り帰ると、昨年の今頃、MIOは関西リーグを2位で終えていました。優勝したバンディオンセ神戸(現・加古川)と比べると、チーム力の差は歴然。当時と比べると、アルテに敗れて、12位に落ちたといえ、「大健闘」中です。

昨季、MIOは昇格という「結果」だけではなく、相対的に小粒な選手揃いでも魅惑的な“つなぐ”サッカーができるということを体現しました。引退1年目=監督1年目の平岡監督が、戸塚哲也“前・監督”のサッカーを引継ぎ、試行錯誤している点は、MIOならではの財産であり、将来に向けて“夢のある”プロセスではないでしょうか。


▼Jを目指すクラブの動向

● 東北リーグ1部
(13日)
FC秋田カンビアーレ(今季昇格)0-6 グルージャ盛岡(昨季優勝)
*首位=グルージャ(7勝2分け)

● 北信越リーグ1部
(11節、13 日)
長野パルセイロ 5-0 ヴァリエンテ富山  
ジャパンSC 3-1 サウルコス福井 
ツエーゲン金沢 7-0グランセナ新潟
松本山雅 6-0 フェルヴォロ-ザ石川・白山FC
 
首位=パルセイロ(勝ち点29)
2位=ジャパンSC(同28)
3位=ツエーゲン(同27、)
4位=山雅(同18)
5位=グランセナ(同11)
6位=ヴァリエンテ(同7)
7位=サウルコス(同6)
8位=フェルヴォ(同0)

● 北信越リーグ2部
(11節、13日)
アンテロープ塩尻 3-1 日精樹脂工業 
*首位=上田ジェンシャン(勝ち点28)、2位=アンテ(同23)

● 関西リーグ1部
(13節、13日)
バンディオンセ加古川 1-1 FC京都BAMB
*バンディは12勝1分け(優勝決定済み)

● 四国リーグ
(11節、13日)
カマタマーレ讃岐 1-0 愛媛しまなみFC
*首位=カマタマーレ(10勝1分け)

● 九州リーグ
(13節、13日)
V・ファーレン長崎 6-0 三菱重工長崎 
ホンダロック 2-0 OSUMI NIFS 
新日鐵大分 1-2 沖縄かりゆしFC
ヴォルカ鹿児島 2-3 ヴァンクール熊本 
海邦銀行SC 2-2(PK6-7)九州INAX

順位
首位=V・ファーレン長崎(勝ち点36)得失点差+50
2位=ホンダロック(同36)同+43
3位=沖縄かりゆし(同32)
4位=新日鐵(同25)+18
5位=ヴォルカ鹿児島(同25)+6
6位=海邦銀行(同15)-23
7位=ヴァンクール(同15)-30
8位=INAX(同8)
9位=三菱重工(同3)
10位=OSUMI(同0)


▼JFLの結果&順位は↓
JFL前期:結果&順位表

▼「Jを目指すクラブ」情報は↓
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※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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