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Jを目指せ! by 木次成夫

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第96回「SC相模原」
by 木次成夫

 SC(スポーツクラブ)相模原は今年2月創立のクラブで、現在、神奈川県3部リーグで開幕以来5連勝中です。クラブ代表は元・日本代表の望月重良(35歳、横浜FC←ジェフ←仙台←ジェフ←神戸←京都←名古屋←筑波大学←清水商業/写真)。監督は選手兼任で水野和樹(27歳、アルテ高崎←静岡FC←沖縄かりゆしFC←静岡FC←専修大学←清水商業)が務めています。

 県3部としては破格のメンバーを擁し、全国クラブチームサッカー選手権・関東大会(9月20―22日、山梨県韮崎市開催)では、優勝を飾りました。参加チームは関東8都道府県大会を勝ちぬいた、それぞれ1チーム。大会参加資格は、県リーグ以下に所属しているクラブで、自衛隊、自治体職員、学校のチーム以外。大会の存在意義は疑問ですが、SC相模原にとっては、潜在的なスポンサーやファンに実力を知らしめる意味で参加価値があるとは、思います。全国大会は10月31日から11月5日にかけて秋田県で開催される予定です。

<関東大会、SC相模原の結果>

9月20日1回戦
VS.ジラーフ赤堀SC(群馬県代表)4-0

9月21日2回戦
VS.与野八王子クラブ(埼玉県代表)4-0

9月22日決勝
VS.蔵波FC(千葉県代表) 7-1
(試合写真はコチラ)

 蔵波FCは千葉県袖ヶ浦市のチームで、県2部所属。一見して目立ったのは、ユニフォームのkenji-fukuda.comという文字。福田健二(元・グランパスなど。現・イオニコス=ギリシャ2部)は同クラブ出身(蔵波小学校)で、同選手の幼馴染が「冗談でユニフォームを作ってくれと言ったら、本当に作ってくれたんです」とか。

 結果的に大敗しましたが、その要因のひとつは、DFが前半6分に一発退場(レッドカード)になったため。その選手は退場処分直後、ロッカー内で大泣き。決して、“大人の余暇としての草サッカーではない”熱い思いが伝わってきました。

 決勝のSC相模原スタメン、交代選手は以下の通りでした。

GK榎本貴久(23歳、神奈川大学←保土ヶ谷高校)
右SB藤田貴史(23歳、流通経済大学←湘南Y)
CB水野和樹
CB大野隼人(22歳、上武大学←堀越学園)
左SB大山祐彰(22歳、神奈川大学←横浜FMユース)
右MF真仁田裕樹(24歳、ボラーレFC←浜松大学)
ボランチ鈴木健太(23歳、V甲府←横浜FMユース)
ボランチ坂井洋平(22歳、横浜FC←横浜FMユース)
左MF吉岡航平(23歳、拓殖大学←水戸短大付属高校)
FW佐藤 恵(23歳、神奈川大学←日野台高校)
FW森谷佳祐(22歳、湘南←尾関学園)

<交代出場。選手のポジションは公式記録通り>

DF高橋太陽(21歳、日本工学院F・マリノス←成瀬高校)
DF長崎雅志(22歳、駒沢大学←湘南工科大学付属高校)
MF松下宏記(23歳、神奈川大学←清水東高校)
MF芹沢亮太(21歳、神奈川大学←堀越学園)
MF塩田俊彦(22歳、国士舘大学←青森山田高校)

 坂井と森谷は昨季後のJリーグ合同トライアウトに参加していました。特に坂井は日本トップクラスを含めて全世代的に希少な“パスセンスのある”左利きボランチゆえに、少なくとも地域リーグ所属の強豪クラブからオファーがあっても、しかるべきと思っていたのですが、実際、「ありましたが、横浜FC時代に一緒にプレーをした望月さんから声をかけてもらったことが、(SC相模原を選んだ)大きな理由です」(坂井)。

 実際、坂井を中心にした攻撃を見て、“左利きのボランチがいるとボールがスムーズに散るものだ”と、改めて実感。その一方で、今後、相対的に際立った選手のモチベーションを“いかに維持するか”が、クラブ側の重要テーマだと思いました。悲観的な見方をすると、全力を出さなくても秀でている状況は、実力の停滞につながる可能性がありますから。

 チーム全体として、「大卒1年目」世代はじめ若手が多い点は、相模原市の地理的条件と日本サッカーの現状などが影響していると思います。

・Jクラブが増え、下部組織が充実すればするほど、Jリーガーになれないゆえに、“まだ挑戦したい”という選手が増えている。

・Jクラブが複数割拠する首都圏には、サッカーで日本トップレベルの大学も多いものの、JFL所属のクラブ・チームはジェフの育成組織、ジェフリザーブズを除くと横河武蔵野FC(東京都武蔵野市)だけ。関東1部で「Jを目指す」と標榜しているのはFC町田ゼルビア(東京都町田市)だけ。また、たとえ、プレー・レベルが合ったとしても、「Jを目指すクラブ」か否かでは、選手のモチベーションが違う。

・Jリーグへの道は多少遠くても、遠隔地のクラブよりも、近場のクラブの方が生活面で不安がない。例えば、1カ月数万円の“プレー手当て”がでる地方クラブがあったとしても、家賃を考慮すれば、手当て0円ながらも実家から通えるクラブと似たようなもの。

・かつての日本社会なら、“これを機会に可能性の低い夢よりも、長期的に安定した仕事を選んだ方が良い”という目上の指導に納得できたかもしれません。しかし、今や世界トップクラスの会社が経営破たんするなど、いまだかつてないほど先行きが不透明。

 SC相模原の「Jへの道」は、通常のプロセスでは、以下の通りです。
08年=県3部優勝
09年=県2部優勝
10年=県1部優勝
11年=関東2部優勝
12年=関東1部優勝
13年=JFL
14年=J2――。

 長い道のりですが、いわゆる“飛び級”が認められれば、多少、短縮できます。例えば県3部から県1部へ。認めるか否は管轄の協会、つまり、神奈川県協会の判断しだい。「だからこそ、(リーグや大会の)結果が大事なんです」(望月氏)。

 今大会決勝は平日にも関わらず数十人のSC相模原ファンが観戦に訪れました。なぜ、“近場のJクラブ”ではない(つまり、相対的にレベルが低い)クラブに魅力を感じるのか。また、複数のJクラブ・ホームタウンのように相対的強豪クラブを他地域から誘致する策もあるにも関わらず、なぜ、「ゼロからのスタート」を選択したのか――。

 トップダウンではなくボトムアップに魅力を感じるのかもしれません。全国規模のフランチャイズ傘下に入る(あるいは、大規模商業施設を作って、全国的チェーンを誘致する)か、地元商店街全体で頑張っていくかという図式に似ているかもしれません。例えば、SC相模原の練習ウェアの背には、様々なスポンサー名が並んでいます。地域企業が連帯して、大企業の子会社としてのクラブが多い「既存のJ」に挑戦するという意気込みが伝わってきます。

 相模原市は人口約70万人。既存のクラブを母体に今季からJを目指し始めた「ブレッサ相模原」という県1部所属クラブもあります。数年以内には、隣の東京都町田市を本拠にしている「町田ゼルビア」を含め、選手やスポンサーの獲得競争が激化するかもしれません。

▼Jを目指すクラブの動向
天皇杯2回戦結果(20、21日)

▼天皇杯3回戦(10月12日)注目カード

FC岐阜対ツエーゲン金沢(北信越1部3位)
*ツエーゲンは昨季に続く3回戦進出。実績を考慮して、特例措置で「全国地域リーグ決勝大会」出場権を与えても良いのでは? と、思います。

湘南対松本山雅(北信越1部4位)
*山雅のエースFW柿本典明は昨季まで湘南所属。

横浜FC対沖縄かりゆしFC(九州優勝)

<写真>SC相模原・代表、望月重良



JFL結果&順位表

▼「Jを目指すクラブ」情報は↓
「リスト&記事リンク」

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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