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Jを目指せ! by 木次成夫

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第97回「tonan前橋(旧称図南SC群馬)」
by 木次成夫

 1982年設立で、現在、群馬県1部所属。クラブ名は図南SC(トナン・サッカークラブ)。
 今季からトップチームの名称を図南SC群馬からtonan前橋に改称しました。トップチームの成績という点では、後発のザスパ草津とアルテ高崎(旧名・FCホシコシ他)に抜かれてから数年、「前橋からJリーグを目指す」ことを“より”鮮明にするためでしょうか。

01年
tonan=関東リーグ10チーム中7位
アルテ=群馬1部優勝

02年
tonan=関東リーグ9位
アルテ=関東リーグ2位
ザスパ=群馬県1部優勝
※tonanはザスパとの入れ替え戦に敗れて、県リーグ降格

03年
アルテ(関東1部優勝)
ザスパ(関東2部優勝)
*ザスパとアルテは全国地域リーグ決勝大会を経て、JFL昇格。

04年
ザスパ=JFL3位→J2参入決定

 去る9月28日、tonanは群馬教員SCに9-2で圧勝し、降格以来連続の群馬県1部リーグ6連覇を達成しました。来る全国社会人選手権出場も決めています。それも、関東2部のヴェルフェたかはら那須に2-0、同1部のホンダルミノッソ狭山を2-1で破って、です。

 ひとことで言えば“謎の強豪”。「オシム・サッカーに触発された」という菅原宏監督のもと、実践しているのは、人もボールも“スムーズかつ流動的に”動くサッカー。「子供の見本になるサッカーをしなければいけない」(同監督)という理念ゆえ、いわゆるプロフェッショナル・ファウルは皆無。見方をかえれば、だからこそ、勝負弱い面もあるのかもしれません。とはいえ、対戦相手との実力差を考慮しても、完成度の高さへの、謎は深まるばかり――。

 昨年は天皇杯群馬県予選決勝でアルテ高崎に3-1の圧勝。今年は決勝でアルテに1-1(PK5-6)で敗退したものの「優勢に進めていたんですけどね」(菅原監督)とか。

 今回、図南SCを訪れた理由は、クラブの本拠、図南サッカーパーク(写真はPhotoニュース)を見たいという理由も、ありました。トップチーム監督兼クラブ代表で、建設業を営む菅原氏いわく「土建屋ですから、責任を持って地盤を整備しました」という人工芝で、ナイター照明付き。建設現場の仮設事務所風のクラブ・ハウスも併設。例えばマリノス・タウンに比べると、貧相ですが、手作りの温もりを感じます。いわば、日本トップレベルの“狭いながらも楽しい我が家”。

 JR前橋駅の隣、前橋大島駅から徒歩で約10―15分。アクセスの良さは、下部組織の子供たち(その親)にとって、大きな魅力でしょう。トップチームをはじめ、クラブ下部組織などに加え、前橋商業高校なども練習で使っています。

 Jリーグを目指すプロセスは様々ですが、菅原氏の手法は多くのクラブが学ぶ価値があると思います。クラブによって運営費には差がありますが、グラウンド用地代を除けば、地域リーグ強豪の1年間(あるいは2年間)の運営費相当額で、人工芝ピッチは造成できます。つまり、トップチームの短期的強化を多少、犠牲にした、長期的視野でのクラブ整備策もアリということ。

 図南SCはユース以下、女子を含めた下部組織以外に、フットサル場も運営しています。トップチームメンバーの中には、下部組織やフットサル・スクールのコーチ、スタッフもいます。つまり、クラブ運営を充実し、多角化することで、選手の雇用も生み出しているわけです。

「うち(tonan)に来るなら、前橋に骨を埋めるくらいの気持ちで来いと選手には言っています。もし、それだけの気持ちがあるなら、僕は、そんなに条件は良くないかもしれないけど、結婚して、子供を作って、生活していけるような仕事を用意します」(菅原氏)

 群馬教員SC戦のスタメンは以下の通り。クラブの歴史を感じさせる布陣でした(選手写真特集はコチラ)。

GK中村 楽(29歳、前・佐川急便中京支社SC、前橋商業出身)
右SB二瓶 隼(21歳、常磐高校出身)
CB柳澤宏太(26歳=今季加入、前アローズ北陸=07年までJFL。YKK APと統合して今季からカターレ富山←ザスパ←東海大学←前橋商業←図南SCジュニアY)
CB東田 学(29歳、前・ルネス学園金沢、前橋商業出身)
左SB手塚健之(23歳=今季加入、前・国際武道大学)
右MFファン・ギュファン(22歳=今季加入、大韓民国出身)
ボランチ 氏家英行(29歳、前ザスパ、99年Wユース日本代表)
ボランチ マルキーニョ(32歳、前・水戸)
左MF高須洋平(27歳=今季加入、前アルテ←ザスパ←水戸←鹿島Y)
FW森 謙治(30歳、前・青梅FC)
FW関根秀輝(29歳、前・三菱水島FC)

 元Jリーガーで主力の2人、GK鏑木 豪(31歳、前・アルテ、元・横浜Mなど)とDF森田真吾(29歳、前・甲府)は怪我などの理由で、欠場しました。

「僕は自分が、できることを少しずつやってきました。今後も同様です。最終的には前橋を“サッカーの町”にするのが夢なんですよ」(菅原氏)

 菅原氏が県サッカー協会の仕事をしていることもあってか、群馬県は子供の大会を積極的に開催しています。前橋は首都圏から比較的アクセスが良い上に、図南の下部組織も対戦相手になるわけですから、夢の実現は難しいことではないと思います。

 ちなみに、図南サッカーパークのクラブ・ハウスには猫が数匹、住み着いています。「みんなで育てています」(菅原氏)。

 健やかに眠る猫たち――。地域活性化とは何なのかを、考えさせる光景でした。

 麻生首相は景気対策をアピールしていますが、その基本は、補助金バラ撒きではなく、“家計(小遣い)をやりくりしてでも、金を費やしたくなる何かがある”ことではないでしょうか。例えば、まずは、猫が可愛いから、買いたくなる餌――。言い方をかえれば、多額の金を使って新幹線や高速道路を整備して大都市とのアクセスを良くするだけでは、“通り過ぎる”人が多いだけでは?

 ところで、tonanの全社1回戦対戦相手は九州リーグ王者の沖縄かりゆしFCです。もし、勝てば、2回戦で松本山雅と対戦する可能性があります。山雅の吉澤監督(35歳)は前橋商業出身。「山雅と対戦したいんですよ」(菅原氏)。

 tonanは、いわば“台風の目”。穿った見方をすると、勝負弱いのは“クラブ全体の雰囲気が良すぎるから?”と思ってしまうほど、潜在能力は高いチームです。攻撃的に“つなぐ”スタイルゆえ、守備面で脆い面もありますが、勢いに乗れば、全社経由で地域リーグ決勝大会出場もありえます。

▼Jを目指すクラブの動向

●東北1部(9月28日)
グルージャ盛岡 2-0 仙台中田SC
*グルージャは11勝2分けで首位。最終節(10月12日)は、対NECトーキン(10勝1わけ)。地域リーグ決勝大会出場枠は1チームゆえ、熾烈な戦いになること必至!

●東北2部南ブロック(9月28日)
バンディッツいわき 1-7 福島ユナイテッド
クレハ 0-6 コバルトーレ女川
※福島Uは12連勝で優勝決定


JFL結果&順位表

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※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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