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Jを目指せ! by 木次成夫

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第99回「天皇杯3回戦 松本山雅&沖縄かりゆし」
by 木次成夫

 J2とJFL以下では天皇杯に対する思い入れが違うのでしょうが、天皇杯3回戦(10月12日)は、サッカーの醍醐味という点で稀に見る“はしご”を満喫できました。

横浜FC 2-1 沖縄かりゆしFC

“かりゆし”は今季、5年ぶり3度目の九州リーグ優勝を達成しました。2位はV・ファーレン長崎(06年V、07年3位)で、3位はホンダロック(06年JFL最下位、07年九州2位)。Jリーグを目指して、「短期強化→チーム存続の危機→再生」の連続でしたが、見事、復活したわけです。

 振り返ると……

01年=テクニカルディレクターでラモス瑠偉を招聘=沖縄県リーグ優勝
02年=九州リーグ優勝→ラモス解任。選手大量退団→前かりゆし選手が中心になって、FC琉球設立
03年=加藤久(現・京都監督)を監督に招聘→リーグ優勝
04年=リーグ2位→加藤監督と選手大量退団
05年=リーグ8位
06年=リーグ5位
07年=リーグ6位

横浜FC戦のメンバーは以下の通り。

<スタメン>
GK高橋信幸(24歳、前1FCザールブリュッケン=ドイツ)
右SB堀 健一(23歳、前・沼津香稜クラブ)
CB堀内省吾(25歳、前ホンダロック)
CB飯島 慎(24歳、前・順天堂大学)
左SB 杉本勇樹(22歳=今季加入、前・鹿屋体育大学)
右MF遠山 深(24歳=今季加入、前FC岐阜=JFL=当時)
ボランチ小寺一生(25歳=今季加入、前・佐川印刷=JFL←近畿大学←京都Y)
ボランチ渡辺晋平(27歳=今季加入、前・三菱重工水島FC=JFL)
左MF樋口富夫(23歳=今季加入、前・国士舘大学)
FW浅野大地(25歳=今季加入、前アルテ高崎=JFL←近畿大学←G大阪Y)
FW斉藤将基(28歳=今季加入、前・東京V)

<交代出場>
MF阿部巧也(27歳、前アルテ)
FW浅見和正(25歳、前ホンダロック)
FW高畑浩二(24歳、前FC琉球=JFL)

<得点経過>
37分 0-1(かりゆし)斎藤
41分 1-1(横浜)池元友樹
89分 2-1(横浜)八角剛史

 結果的に敗れたとはいえ、“かりゆし”は組織的に安定したプレーで健闘しました。選手の前所属を見れば、ある程度、期待できたことですが……。中でも注目していたのは、アルテ高崎のエース的存在だった浅野。持ち味の“タイミング良い飛び出し”とスピードを生かし、先制点をアシストするなど、活躍しました。

 九州リーグはレベルの差が相対的に大きいため、守備重視の相手を打ち破るサッカーと、互角の相手とのガチンコ勝負、つまり「2パターン」の戦い方をすることが優勝には不可欠です。レベルは違いますが、日本代表に似ています。横浜FC戦は2トップで臨み、リーグでチーム最多得点を記録した浅見を後半途中から投入して、3トップ気味に変更しました。結果的に惜敗しましたが、格上とも戦える“汎用性の高い”チームであることは証明できたと思います。

 浅野いわく、好調の要因は「チーム全体のコミュニケーションが良いからだと思います。サッカーをやっていて、楽しいです」。加入2年目の主将、阿部も前アルテゆえ、問うと「僕が(浅野を)誘いました」。サッカーに限らず、自分が“良くない”と思う環境に知人を誘う人は皆無でしょうから、JFLのアルテには“ない”魅力があるということでしょう。2人の生き生きとした表情を見て、アルテ低迷の理由がなんとなくわかる気がしました。

▼関連リンク:Photoニュース
沖縄かりゆし1,2,3,4

湘南ベルマーレ 1-1(PK4-5) 松本山雅

 観衆2580人(主催者発表)。一見して、3分の1以上が山雅ファン。翌13日が祝日とはいえ、「こんなに集まるとは予想もしなかった」(山雅関係者)とか――。

<得点経過>
23分 1-0(湘南=原 竜太)

26分 1-1(山雅=柿本倫明、30歳、今季加入、前・湘南)

 北信越リーグ4位、いわば「日本4部リーグ」の中堅がJ2=3位(試合当日現在)にPKの末にとはいえ、勝ったのですから、歴史的快挙です。それも、守備重視の“引いてカウンター狙い”ではなく、真っ向から勝負を挑んで――。

 山雅は序盤から、“全開”でした。全社(全国社会人選手権、1回戦=18日)に向けて、怪我や蓄積疲労が心配になるほど。中でも目立ったのは、右MF今井昌太(24歳、2年目=前・びわこ成蹊スポーツ大学)と左MF大西康平(25歳=今季加入、前YKK AP)の果敢なアタック。実際、試合終盤はチーム全体的にスタミナ切れ気味だったものの、GK原裕晃(30歳=今季加入、前・栃木SC)がPK戦を含めて、恒例の(?)のスーパーセーブを連発するなど、粘り勝ち。仕事とサッカーの両立をしているアマチュア(が多い)チームとが思えないほどのパフォーマンスでした。

 一見、地味ながらも左SBの阿部琢久哉(23歳=今季加入、前TDK=JFL←駒澤大学←流通経済大学柏高校)と右SB坂本史生(24歳=今季加入、前・東京学芸大学)も印象的でした。クレバーなアップ&ダウンと、内へ“しぼる”プレー(前に出てチェックしたり、ゴール前の守備を厚くしたり)は、格上相手ゆえに、リーグ戦以上に際立って見えました。

 彼らのプレーを見て、JFL以下のクラブにとって、元Jリーガー獲得だけが強化策ではないという“当たり前の”ことを痛感しました。例えば、大学4年時にJクラブから“誘われる”選手よりも、“誘われない”選手の方が際立って劣っているとは限りません。後者も大卒後に成長する可能性があるわけです。つまり、選手の成長を促す(ベテランの衰えを遅らせる)環境整備も大事ではないでしょうか。

 例えば、阿部は大学4年時、巻祐樹(名古屋)、原一樹(清水)、廣井友信(清水)、そして山雅のチームメイトである三栗寛士、竹内優らと共にインカレ(全日本大学選手権)優勝を達成しました。それも、173cmながら、CBとして――。

 ちなみに、CBの矢幡智裕(28歳、前tonan前橋=レンタル←山雅、元・鹿島など)と三本菅崇(30歳、前アルテ、元・浦和など)、そして交代出場した小澤修一(29歳、前・静岡FC)は、山雅が北信越2部、いわば「日本5部」時代からのメンバーです。

 山雅には選手たちが“上を目指して頑張る”モチベーションにつながる何かがあるということでしょう。少なくとも練習環境は相対的に恵まれているとはいえませんから、いわばソフト面で――。感じ方は人様々ですし、些細なことかもしれませんが、例えば、“鳴り物”応援(特に小太鼓のスピーディかつ試合状況に左右されない安定したリズム)は日本随一といっても過言でないほど心地良いです。

 ところで、山雅と“かりゆし”は全社2回戦で対戦する可能性があります。“かりゆし”の阿部いわく「優勝を狙っていきます」。両者の対決が実現すれば……ただの偶然ですが、それぞれのアベタクヤにも、注目です。

<写真>山雅ファン

▼Jリーグを目指すクラブの動向

●東北1部
(最終節)
グルージャ盛岡 2-1 NECトーキン
*優勝=グルージャ(12勝2分け=勝ち点38)、2位=NECトーキン(同37)

●天皇杯3回戦
仙台 2-0 ニューウェーブ北九州
甲府 1-0 ファジアーノ岡山
岐阜 1-0 ツエーゲン金沢
熊本 1-1(PK3-5) 栃木SC


JFL結果&順位表

▼「Jを目指すクラブ」情報は↓
「リスト&記事リンク」

※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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