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Jを目指せ! by 木次成夫

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第106回「天皇杯4回戦 神戸対松本山雅」
by 木次成夫

 11月1~3日は、天皇杯4回戦とJFL後期13節の日程がカブりました。結果的に4回戦に進出したJFLチームは栃木SCだけで、対ガイナーレ鳥取戦を10月30日(木)に開催。お互い「プロ選手集団」ゆえ、平日開催でも問題なかったのですが、もし、「仕事もしているアマチュア揃い」のチームだったら、勤務先から休暇をとれる選手だけで試合に臨まざるを得ないわけです。また、平日夜間は週末よりも、観客数が減る可能性があります。実際、栃木対ガイナーレ戦の観衆は、「J参入」争いという点でビッグマッチにも関わらず、“わずか”2704人(公式発表)でした。

 全国地域リーグ決勝大会“決勝ラウンド”を石垣島で開催することを含めて、JFA(日本サッカー協会)は、JFL以下のクラブ事情を理解しているのか、疑問に感じます。

 同大会に向けて、NECトーキン(全社2位)が出場辞退し、山雅(全社4位)の繰り上げ出場が話題になっています。トーキンは宮城県のチームです。不況下の経営状況に加えて、「鳥取(一次ラウンド)→石垣島」遠征費が突然の辞退に影響したとしても、不思議ではありません。

11月2日・天皇杯4回戦
神戸 8-0 松本山雅

 神戸は現在J1=9位、対する山雅は北信越リーグ1部(事実上の日本4部リーグ)8チーム中4位。万全な状態で試合をしても、相当の差があってしかるべきなのに、山雅は……、

・天皇杯3回戦の湘南戦で左アタッカーとして大活躍した大西康平(26歳=今季加入、前YKK AP)が全国社会人選手権中のケガで欠場。
・2-0で迎えた前半40分、これまた湘南戦で大活躍した右アタッカー、今井昌太(24歳=2年目、前・びわこ成蹊スポーツ大学)が、相手と競り合いの際「乱暴」(公式記録)でレッドカード。

 大快挙の立役者である「両翼」不在の上に、10人になってしまったのですから、大差の完敗は致し方ないと思います。今井への判定は不可解でしたが……。

 公式記録によると、シュート数は神戸32本(前半13本、後半19本)、山雅2本(前半1本=竹内優、後半1本=阿部琢久哉)。CKは神戸6回、山雅1回。

 GK原裕晃(30歳=今季加入、前・栃木SC)が“ほぼ”恒例のスーパーセーブを連発しなければ、あと数点は取られていました。守備陣を厚くする策をとらずに、普段通りのサッカーで挑んだ点も、大差になった要因だと思います。例えば、反則覚悟の”しがみつき“マンツーマンマークなどで粘る策をとっていれば、数字的には「善戦」できたかもしれません。ただ、得点は“奇跡待ち”のような超守備的サッカーでは、本当の差は見えません。
 今回、山雅は対等の勝負を挑んだからこそ、差が見えたわけです。

 例えば、“スポーツショップ勤務の”CB坂本史生(24歳=今季加入、前・東京学芸大)が“読み”で相手をカットできることも、ありました。“ショッピングセンターで働いている”左SB阿部琢久哉(23歳=今季加入、前TDK←駒澤大)が、攻撃参加してシュートを打つシーンも、ありました。

 超守備的サッカーを選択していたら、見られなかったであろう、“可能性を感じる”光景でした。

 また、神戸のサッカー、つまりパス・ワークで相手守備陣のバランスを崩し、ラインの“裏”、あるいは選手間スペース(いわゆる“門”)を狙うスタイルは、同じ4-4-2フォーメーションで“つなぐ”サッカーを志向している山雅にとって、「目指すべき見本例」だったと思います。

 守備面でも同様です。例えば、山雅選手が攻撃チャンスの際、パス・コースを探すなど“次の”プレー選択に躊躇しているうちに、神戸選手たちが的確に“寄せて”カットするシーンが散見しました(Photoニュース掲載、竹内のプレーはその典型例)。状況判断など基本プレーの“ちょっとした”個人差が、連続プレーの末に“大きな”差に――。際立った個人の華麗なプレーでは味わえない、「サッカーの醍醐味」を感じました。

 もし、カウンター攻撃の形がひとつでも山雅にあれば……。とはいえ、普段やっていないことを、全社以降、中10日間の“付け焼刃”で、できるなら、やっていたはずです。

 今季開幕当初、山雅は守備重視の相手に苦戦しました。昨季のリーグ王者ですから、格下が守備的な布陣で臨んでくるのは、常套策。つまり、山雅に求められたのは、カウンター狙いではなく、自力で相手守備陣を打ち破るサッカーでした。そして、それができないゆえに、山雅はリーグ4位、全社4位に終わったのです。

 この試合の観衆は3268人(公式発表)。うち山雅ファンは、朝5時半にバスで松本を発ったクラブ主催“日帰り”ツアー参加者を含めて、一見、少なくとも300人以上。試合後、多くのファンが選手を拍手で(中には笑顔で)迎えたのが印象的でした。もちろん、悔しさを滲ませている人もいましたが、リーグ優勝の可能性が無くなった試合で飛び交った罵倒は、皆無。ファンから選手と監督に向けた“今季の答”ということでしょう。

 選手や監督が、度々口にするフレーズに「結果がすべて」という表現があります。勝敗結果という意味でしょうが、サッカーほど“内容も楽しめる”スポーツは稀だと思っているゆえに、なぜ「結果がすべて」なのか、理解できません。

 あえて“すべて”という表現を使うなら、興行としてのサッカーは“試合を見て楽しむ観客の数がすべて”なのでは? 

 言い方を変えれば、たとえJリーグに参入できるチーム力には至らなくても、地域リーグやJFLで相対的に多くのファンが試合観戦に訪れ、スポンサーも“その”状況を評価して、結果的に経営安泰のクラブが「ある」ならば、それは“ベストに近いベター”だと思います。

 そういう観点で、今後、注目しているのがJFLです。後期13節終了時点の順位は――、
1位=Honda(勝ち点66)
2位=栃木SC=J準加盟(同55、+20)
3位=ファジアーノ岡山=J準加盟(同55、+19)
4位=カターレ富山=J準加盟(同54)
5位=ガイナーレ鳥取=J準加盟(同51)

 残り4試合。誰もが「XXの盛り上がりはスゴイ」と感じるくらいの観客を集めて、J参入を果たしてほしいものです。また、“観衆XXXX人(うち招待券XXX人)”と発表してくれれば、Jリーグ側も誤解しないでしょうし、「Jを目指すクラブ」関係者やファンの参考になるのですが……。

<写真説明>試合後にも笑顔を見せる山雅サポーター
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