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Jを目指せ! by 木次成夫

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第113回「全国地域リーグ決勝大会“一次ラウンド”総括」
by 木次成夫

 第32回地域リーグ決勝大会の決勝ラウンド(28日―30日、沖縄県石垣島)出場チームは以下の4チームに、なりました。

A組=ホンダロック
(九州3位、全国社会人選手権3位=全社枠)
B組=V・ファーレン長崎
(九州2位)
C組=レノファ山口
(中国1位)
D組=町田ゼルビア
(関東1位)

 3日間で4組見るのは不可能ゆえ、考えたあげく、“波乱がなさそうな”D組は見にいかないことにしたら……、町田ゼルビアが矢崎バレンテに1-1(PK6-5)の辛勝。矢崎は東海1部2位。今大会出場16チーム中、優先順位“最下位”で出場権を得たチームです。

 ホンダロック、今大会出場辞退をしたNECトーキンを含め、企業サッカー部が健闘した「事実」は、クラブ・チーム作りの難しさを象徴していると思いました。例外はありますが、企業サッカー部は、選手の大幅な入れ替えを、しません。そのため、選手の個人能力ではクラブ・チームに劣ることが“ありえる”ものの、前年度がベースになる分、チーム作りは相対的に容易です。その一方で、ゼルビアを含めて強豪クラブ・チームの多くは、より優れた選手を求めて、毎年、チームを“作り直す”状況です。もちろん、結果的に、シーズン終盤の“地域決勝”段階で、相対的に強いチームができていれば、大幅強化の価値があったということになりますが……。

 また、“地域決勝”に限っていえば、「延長戦なし、PK勝=勝ち点2、PK敗=同1」という規定は、チーム力の差を軽減する“効果”が、あります。例えば、守備重視策でPK戦に持ち込み、1勝1敗になれば、90分間での1勝と同じ“勝ち点3”。「少しでも上を目指し、あわよくば1位になれば最高」というチームに幸運をもたらすことが“ありえる”一方で、「1位以外は意味がない」というチームの“焦り”につながることもあるでしょう。

 ところで、決勝ラウンド進出4チームの中で、最大の驚きは……やはり、レノファです。
 教員チームを母体に「Jを目指す」クラブとしてリスタートしてから、3シーズン目。今回の健闘は、“これくらいのレベルの選手を集めれば、平日夜間練習でも、この段階までは至れる”という点で、後進クラブの良き見本だと思います。見方をかえれば、JFL所属クラブを含めた格上に対して、「これだけ金をかけても、この程度の差しか、ないのか」という判断も“ありえる”かもしれませんが……。

以下は、2日目のグルージャ盛岡戦のレノファのメンバーです。
<スタメン>
GK澤野晃武士
(28歳、前・中京大学)
右SB多久島顕悟
(20歳=今季加入、前アビスパ福岡)
CB主将、吉田健次郎
25歳、前・徳山大学)
CB藤井仁詩
(24歳、前・中京大学FC)
左SB佐久間大樹
(21歳=今季加入、前・日本工学院F・マリノス)
右MF高杉勇次
(26歳、前・中京大学FC)
ボランチ大野達也
(23歳=今季加入、前・徳山大学)
ボランチ戸高研太
(25歳=今季加入、前セントラル中国=現・デッツォーラ島根)
左MF福原康太
(25歳=今季加入、前・セントラル中国)*昨季の”地域決勝“にセントラル中国の中軸の1人として出場しました。
FW柏原 渉
(25歳、前・福山大学)
FW安田忠臣
(21歳=今季加入、前アビスパ)

<サブ>
GK松永祐樹
(20歳、前・防府西高校=山口県)
DF右近善文
(27歳、前・大阪体育大学)
MF石上大輔
(32歳、前・日本体育大学)
MF光田浩二
(19歳、前・山口高校)
FW児玉光史
(23歳、前・東亜大学=山口県)

 大学出身の若手と元Jリーガーをベースに強化している点は、栃木SCを頂点とする、多くの「Jを目指すクラブ」と同様。レノファの「今」から、日本サッカー界の「現状」と、相対的に楽しいサッカー文化の将来像が見えたといっても過言ではないと思いました。

●若手を短期間で
次々に解雇するJクラブ
 前アビスパの2人は共にユースからトップに昇格後2シーズンで戦力外になり、昨季後の「Jリーグ合同トライアウト」に2回とも参加しました。

●地方大学(新興大学)の
サッカー部強化
 Jリーグ創設は93年。子供たちへのサッカー普及と、少子化時代の大学経営策がリンクした面もあるでしょう。ちなみに、佐久間の前所属、日本工学院F・マリノスは「プロサッカー選手を目指す」学生向けのコースがある専門学校が、J1の横浜マリノスと提携して作ったチームです。

 つまり、元Jリーガーにせよ、Jリーガーになれなかった元・学生にせよ“もう少し夢に向かって挑戦したい”選手が多数いるからこそ、「Jを目指す」クラブが各地に散在し、それぞれが成長できます。上は”J2下位、“下は”地域リーグ強豪が狙う選手層が厚くなったゆえに「受け皿」としてのクラブの存在価値が高まる一方で、“もう”ワンランク上の選手層は大して変わっていない証かもしれません。言い方をかえれば、資金力が格段に高まるか、自前の天才選手が生まれない限り、J2下位以下のチームが、J1強豪にはなる可能性は低いと思います。

 今回の一次ラウンドの結果を見て、例えば“山雅とパルセイロが一次ラウンドで敗退したということは、共存は無理という意味。チーム統合をして強化すべきだ”と考える人もいるでしょう。相対的に強いチームを求める気持ちは理解できますが、JFL上位とJ2下位のコストパフォーマンスを考慮すると、統合が良策とは思えません。それどころか、両クラブには、是非、今回の結果を活かして、「来季は“あまり”強化しない宣言」をしてほしいくらいです。

 Jを目指すクラブの基本は、例えば、「要領は(もしかしたら、本質的な出来も)悪いながらも、可愛いわが子」、あるいは「TVで見る美人(美男子)よりも、性格の良さでカバーして“あまりある”身近な存在」に情を感じるか否かではないでしょうか?

 両チームの健闘と、観戦に訪れたファンの存在は、将来の選手に対するPRにもなったと思います。例えば、もし、同等レベルのチームが複数あった場合、選手は「生活しやすそうな町」だとか、「楽しそうなチーム」だとか、考えるでしょうから。

 雨天の北九州から山口経由で帰路に向かう際、思いました。

 例えば、ニューウェーブ北九州が“すべき”は、近郊の苅田町出身の塩田玲子(バドミントン)を勧誘して、総合スポーツクラブへの道を歩むことでは? もし、実現すれば、かなり楽しそうです。

 目先の経済効果以外は、あまり存在価値があるとは思えないスタジアム(競技場)や新幹線停車駅が多い中、「上を目指すクラブ」の存在は多少ながらも、地域活性化に貢献できるのでは? ましてや、名産品のない町では“よけいに”――。
 
 そもそも「Jを目指すクラブ」の存在価値は、J参入だけではなく、やがては夢をあきらめざるをえない選手が「悔いはない」と感じて、一般社会人にソフト・ランディングするプロセスに貢献することでは?

<写真>25日付、山口新聞

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※本コラムは毎週火曜日更新予定です。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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