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No Referee,No Football

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通訳の退席とベンチコントロール
[J1第30節 山形vsC大阪]

 1-1の後半21分、モンテディオ山形長谷川悠選手が勝ち越しとなるゴールを決めた。この得点をめぐり、セレッソ大阪の選手やレヴィー・クルピ監督が村上伸次主審、岡野宇広副審に対しハンドがあったと激しく抗議。白沢敬典通訳が退席処分となった。

 山形の小林亮選手が自陣ハーフの右サイドから前線にロングフィードを送ると、長谷川選手が胸でトラップしようと軽くジャンプしながら上体をそらし、ボールを受け止めにいった。ところが、ボールは胸ではなく、左腕の上腕部に当たって跳ねた。対応していた茂庭照幸選手はこぼれ球をクリアし切れず、長谷川選手が素早くボールを拾い、左足でゴールに流し込んだ。

 左胸付近でトラップしようとしたのだろう。しかし、ジャンプのバランスを取るために上げた左腕にボールは当たり、結果的に長谷川選手は意図を持って左腕でボールをコントロールすることになる。真後ろからプレーを見ていた村上主審には見えにくいが、真横からオフサイドラインを監視していた岡野副審は長谷川選手のプレーも視野に入っていた。しっかりと見極める必要があった。

 副審からのシグナルもなかったことで、村上主審は得点を認めた。果たしてC大阪の選手は猛抗議。ベンチからクルピ監督も飛び出してきた。村上主審、そして岡部拓人第4の審判員がクルピ監督に対応したが、この混乱の中、暴言を吐いた白沢通訳が退席を命じられた。

 白沢通訳がどのような暴言を吐いたのか聞いていないし、それほど激昂しているようにも見えなかった。態度は静かであっても、厳しい言葉を発したのだろう。まさかとは思うが、クルピ監督の言葉をそのまま訳してしまったのか。

 通訳は試合中、外国人監督の言葉を日本語に訳し、選手に指示を伝えるが、暴言をそのまま訳せば、監督が退席になる。映像からは、分かりにくい。暴言は監督の言葉ではなく、通訳自身の言葉だと岡部第4の審判員が判断。村上主審に伝え、白沢通訳が退席となった。

 今季は監督やコーチの退席がこれまでに比べ、とても増えている。08年シーズンは6件、09年シーズンは4件だったのが、今季はすでにシーズン終了を待たずに15件ある。

 昨年7月の競技規則改正で、テクニカルエリアからの戦術的指示については「その都度ただ1人の役員のみがテクニカルエリアから戦術的指示を伝えることができる」となり、改正前の競技規則にあった「指示を与えたのち、所定の位置に戻らなければならない」という1文がなくなった。テクニカルエリア内にいる監督やチーム関係者と第4の審判員の無用な対立を避けるための対応である。

 その一方、今年の改正で第4の審判員の任務の範囲が広がった。最終判断は主審であることに変わりはないが、第4の審判員は試合の結果を左右するような重大な判定についても主審に対して助言することができるようになった。当然、フィールド周辺で起きるさまざまな出来事に対しても、これまで以上に気を配る必要が出てくる。

 かつて第4の審判員は、交代や負傷者発生がない限り、席に座って試合を見守っていた。しかし、今は試合中、座っていない。常に立って、ピッチ内外で起きていることを監視している。主審や副審の見えないところで乱暴な行為が起きた場合などは主審に伝えなければならないし、テクニカルエリアに2人以上のチームスタッフが出ていないか、ベンチにビブスを着ていない交代要員はいないかなどにも目を配らなければならない。

 ベンチにいる監督、チーム役員、交代要員には、常に責任ある態度で行動することが求められている。フィールドでの試合の温度は高くても、一歩引いて、落ち着いた行動をお願いしたい。ベンチがヒートアップすれば、ピッチ上の選手にも影響する。

 退席が増えているのは、ある意味、しっかりベンチに対応するようにという通達を第4の審判員がきちんと実践しているという見方もできる。しかし、目を配り過ぎているのか、あまりにも“積極的な”チーム役員への対応は、対立をなくすことを意図した昨年の競技規則改正とは逆方向に進んでしまう。

 熱くなっている監督やコーチを落ち着かせ、なだめることも第4の審判員の重要な役割だ。J2で第4の審判員を務めるのは2級審判員。J1でも若い審判が多く、杓子定規な対応も見える。第4の審判員の対応が上手くないために、かえってベンチを熱くしてしまったこともある。若い審判には難しいことだが、“上手い”対応ができるようにならなければならない。さもないと、主審を助けるはずの第4の審判員が逆に足を引っ張っることになる。

 サッカーはフィールドで選手がプレーするもの。ファンもそれを見に来ている。選手が能力を最大限に発揮し、素晴らしいサッカーが展開できるよう、審判はもとより、チーム関係者も一緒になって良い試合環境を整備していかなければならない。それはフィールド上も、フィールド周辺も一緒だ。フィールドの外でのゴタゴタは、極力見たくないものである。

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