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No Referee,No Football

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イングランド人主審と日本人選手、互いに対応できなかった千葉ダービー
[J2第19節 柏vs千葉]

 審判委員会では審判交流プログラムの一環として佐藤隆治主審、東城穣主審を3週間の期間でイングランドへ派遣する一方、イングランドからスチュアート・アトウェル主審とアントニー・テイラー主審を招聘した。そのテイラー主審が日本で初めて担当した柏レイソルジェフユナイテッド千葉の千葉ダービーは退場者1人、警告10枚が出る結果となった。

 前半2分に柏のGK菅野孝憲選手を一発退場とした判定は正しかった。ロングボールに反応したネット選手が近藤直也選手とうまく体を入れ替え、前に出た。菅野選手はゴールを空けて前に飛び出したが、一歩早くネット選手が先にボールに追い付き、シュート。ボールは菅野選手の頭上を越え、ネット選手がゴール前につめようと菅野選手の横を走り抜けようとしたところで、ジャンプしていた菅野選手が右手を出してネット選手の顔に当たった。主審からすれば、意図的に手でネット選手の進行を止めようとしたように見える。千葉にペナルティーキックを与え、菅野選手にレッドカードを提示した判断は妥当だったと思う。

 しかし、レッドカードの出し方に余裕が感じられなかった。カードを示すと、すぐに菅野選手に背中を向けた。抗議する柏の選手たちとしっかり正対して対応することができなかった。西村雄一主審、家本政明主審といった日本のトップレフェリーと比べると経験のなさを感じる。

 試合中のアクションが大きく、選手に分かりやすく示そうとしているのはよかった。ファウルのときは、選手を呼んできちんと説明もしていた。しかし、うまく自分の意図を選手に伝えることができていなかった。言葉の問題だけでなく、ボディランゲージを含めても、選手としっかりコミュニケーションが取れているようには見えなかった。

 試合の終わらせ方もよくなかった。センターライン付近の右サイドで小林祐三選手がフリーでボールを持ち、前方にはスペースもあった。柏のラストチャンスになりそうな場面で、試合終了の笛が鳴った。後半のアディショナルタイムは4分で、確かに時計は4分を少し過ぎていた。しかし、アディショナルタイムに負傷者が出て、プレーが止まっていた時間もあった。あそこで試合を終わらせる必要はない。どの程度、時間を追加するかは主審の裁量だ。ということは、どこで終わらせるかも主審の裁量ということである。この終わり方で、柏サポーターの堪忍袋の尾を切ってしまった。

 10枚の警告も正しいものばかりだった。後半29分、柏の田中順也選手が直接フリーキックを決めた場面で、ゴール前のオフサイドポジションでプレーに関与した近藤選手の動きを見逃さず、オフサイドの反則を取ったのも正しかった。しかし、いくら正しい判定がほとんどでも、選手と良好なコミュニケーションが取れていなければ、選手には受け入れられないこともある。イエローカードで次のファウル、カードを抑止することもできていなかった。

 テイラー主審は自分のスタイルで、自分らしさを出していたと思う。カードの枚数が多かったのも「自分のスタイルを出そう」「自分らしくやろう」という意識の表れだった。しかし、それがJリーグの試合とマッチしていなかった。経験あるレフェリーなら、試合の環境や選手のプレースタイルに合わせ、試合の中で自分のスタイルを修正していくこともできるのだが、まだ経験の浅いテイラー主審にはそれができなかった。自分自身が不安だから、カードも増えてしまったのではないか。

 一方で、選手も主審の基準に対応できていなかった。日本人選手は国際大会に出場すると、ホールディングなど手のファウルや遅延行為を取られることが多い。この試合でもテイラー主審はそのあたりを見逃さず、厳密に取っていた。

 これはJリーグの課題であり、日本人審判の問題でもある。例えば、この試合ではファウルスローも3回あったが、日本の選手も審判もファウルスローに対する意識が甘い。日本代表もW杯直前のイングランド戦やW杯本大会でファウルスローを取られることがあったが、日本でファウルスローに関する基準が緩いのも、その原因だろう。

 競技規則では、スローインは「頭の後方から頭上を通してボールを投げる」と明記されている。日本人選手はしばしばお辞儀をするように、頭を下げてスローインすることがあるが、これだとボールは後頭部を通っただけで、頭上を通っていないと判断される。

 91年にイングランドのシェフィールドで開催されたユニバーシアード競技大会に参加した日本のチームが、現地での練習試合などで何度もファウルスローを取られ、問題になったことがあった。このままではまずいということで、その後、審判、選手に徹底し、随分よくなったのだが、完全には改善されていなかった。ファウルスローの基準に関しては今後、Jリーグの中で審判がしっかりと示していき、プレーしている選手はもちろん、スタジアムやテレビで見ている子供たちにも示していく必要があると思っている。

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