beacon

ユース選手への暴力「常態化」。「お前の顔は気持ち悪い」など数々の暴言も…鳥栖・金明輝前監督のパワハラ報告書

このエントリーをはてなブックマークに追加

サガン鳥栖金明輝前監督

 Jリーグは30日、サガン鳥栖金明輝前監督のパワーハラスメント行為に関する報告書の要約を報道陣に公表した。サガン鳥栖U-18を率いていた時期から、ユース選手に対する暴力行為が「常態化」していたことも発覚した。

 Jリーグは金前監督のパワーハラスメント行為の発覚後、弁護士4人で構成する調査チームを構成。クラブ関係者90人に対し、延べ100回の対面またはWEB形式によるヒアリングを実施してきた。その中で、トップチーム選手、ユース選手、スタッフに対する有形力の行使や暴言があったことが判明した。

 報告書によると、トップチームでは8つの事案で有形力の行使があったと認定。「お前のパスはこうなんや」と言いながら選手にボールをぶつけたり、選手の前髪が長いことに立腹して前髪を握って平手打ちをしたり、トレーナーのケアを受けていた選手の頭を叩いて「ケアしてる場合ちゃうやろ」「お前が冷やす権利あんのか」と発するなどしていた。

 またユースチームでは「トップチームにおけるよりも頻繁に暴力・暴言に及んでいた」と認定。関係者から「ユースの試合が終わった後、ミスが多かった時、詰め寄られて胸ぐらをつかまれた。怖かった」「(ユースの頃からずっと暴言や暴行があったため)たまに殴られたりしても、当たり前のことだと思っていた」「ユースの頃は、月1回程度は暴力を受けていた」「拳骨で叩かれた。たんこぶができたこともあった」「平手で叩かれることもあった」といった証言が得られており、「有形力の行使や暴言が常態化していたものと認められる」とされている。

 加えて数々の暴言の詳細も明らかになった。トップチームでは主にユース出身や若手選手に対して「死ね」「殺すぞ」「消えろ」のほか、「お前の顔は気持ち悪い」「ハゲ」など容姿を中傷するものもあった。ユースチームでも「貴様、サッカー辞めろ」「死ね」「俺の前から消えろ」などトップチーム同様の発言があったという。

 なお、金前監督は自身の行為の線引きについて「殴る蹴るはダメ。暴力はダメ。その一択でしたね」と述べつつ、有形力の行為は否定した模様。「ユースチームの監督時代に一度、選手の胸ぐらをつかんだ程度の記憶であり、トップチームの選手に対して手を出すようなことをした覚えはない、ただし、ハーフタイムの終わり間際に、選手の尻や背中を叩いて、もう1回行けよと送りだすことは度々やった記憶がある」という旨の供述をしたという。

 また発言についても大半を否定したようだ。報告書では「一部については、冗談で発言したり、選手のプレー姿勢に問題がある場合に指導目的で発言した覚えがあると認めつつ、『消えろ』『お前の顔は気持ち悪い』『俺の前に二度と姿を見せるな』といった発言をした覚えはない旨述べている」と伝えられている。

 さらにスタッフに対する暴言・暴行も認定された。「見てるだけできしょい」「お前の無能のせいでみんなに迷惑がかかっている」と発されたスタッフは翌出勤日に出勤できず、別の日には「こいつに言いすぎると鬱って言われるからあまり言えない」「何もしていないやつに限って鬱とか言う。何もしていないのにできないとか言ってくる」などとメンタルの不調を揶揄したこともあったという。

 一方で、金前監督は「スタッフに対し、厳しい叱責に及んだことがあったこと、スタッフの胸ぐらをつかんだり、身体を押すことはあったことは認める一方で、スタッフを殴ったりした覚えはない旨述べている」と報告書。加えて「理由なくスタッフのことを頻繁に叱責したことはない、チームのためにできることは最大限やってほしいという姿勢で指導していたし、スタッフの能力にあわせてサポートもしていた、対象者に伝わっていたかどうかは分からないが、フォローは入れていた」などと述べているという。

 金前監督はパワハラ行為の発覚後、第三者委員会によるヒアリングが行われる際にチーム関係者に電話をし、自身に不利な発言をしないよう依頼。またヒアリング後には関係者に対し、自身の問題行為について話したとして非難するといった隠蔽行為を行っていたことも認定された。

 調査を行った弁護士によると、ヒアリングに応じた関係者は「多くが重い口を開いた」といい、進んで告発が行われたわけではなかったという。映像や録音など客観的な証拠が存在するものは少なかったが、複数の供述の一致や内容の具体性・明確性・迫真性、背景事情などを慎重に検討した上で事実が認定された。

 そのためチーム関係者からは「監督の話は、いつかは出るだろうなと思っていた。ちょっと遅いなと思うくらい」「理不尽がすごく多くて、ミーティングでつるし上げられている選手がいた」「何が正解かと、苦しかった。いいプレーをしても言われた。言われ過ぎて、良くわからなかった」などと厳しい声が上がった一方、「クラブが監督を裸の王様にしてしまった」「熱いところはいいところ。思いやりもある」「金監督は、監督としては、自分が指導を受けてきた中でも指折りに入るくらい優秀である。日本の中で先頭を走るべき監督だと思う。Jリーグの中で一番良い監督ではないか。ただ、今回の問題をこのままで終わらせることは、金監督にとってもよくないだろう」など庇う声も多く上がったという。

 それでも報告書では事実を認識。「金氏は、選手やチームスタッフに対し、暴力行為を含むパワーハラスメント行為を繰り返していたことが認められる。その結果、多数のチーム関係者が深刻な精神的ダメージを受けていることからすれば、クラブのリソースやサポートが必ずしも十分とはいえない環境下で、金氏が多大な責任を背負い、強いストレスのもとでチームの指揮監督を担っていたこと、金氏の厳しい指導のお陰で成長したと感じている選手がいることなどを踏まえたとしても、こうした言動は到底許容されるものではない」と結論づけている。

 調査チームは「事実を語り、本件を機に膿を出しつくすことこそが、長い目で見ればサガン鳥栖というクラブ、クラブを支える選手やスタッフ、ひいてはファン・サポーターのためになるという思いで、当調査チームに対し、勇気をもって事実を語ってくれた全てのチーム関係者に対し、心からの敬意と感謝を表したい」とした上で「当調査チームは、今後、クラブ上層部が本件に関し、犯人探しや発言者の詮索、報復などに走ることなく、金氏の言動を是正できなかったチーム体制や本件に係る不適切・不十分な事後対応を深く反省し、これに正面から向き合い、選手やチームスタッフに寄り添って、ファン・サポーターに堂々と説明できる真に健全なガバナンス体制を再構築することを強く希望する」と報告書を締めくくっている。

 Jリーグは29日付で、金前監督に対して8試合の資格停止処分とけん責の処分を決定。あわせて鳥栖には、管理監督上の過失があったとして、罰金300万円とけん責の処分を下している。

★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2021シーズンJリーグ特集ページ
●“初月無料”DAZNならJ1、J2、J3全試合をライブ配信!!

TOP