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J1復帰弾の大分FW林、「今日のゴールで3年前のゴールを忘れてくれると思う」

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[11.23 J1昇格プレーオフ決勝 大分1-0千葉 国立]

 ゴール直後も、試合終了の瞬間も、まっさきにゴール裏のサポーターのもとへ走って行った。今年8月に大分トリニータへ加入したFW林丈統がチームを4年ぶりのJ1復帰に導いた。

 0-0の後半28分、FW木島悠に代わってピッチに入った。勝つしかJ1昇格への道を切り開けない大分は1点を目指して徐々に攻勢を強めていく。「あまり引くのではなく、前線に残って点を取ってくれ」。田坂和昭監督の指示は明確だった。迎えた後半41分、FW森島康仁の浮き球のスルーパスに反応。オフサイドラインぎりぎりから抜け出し、GKと1対1になった。

「(パスが)出てくるなという感覚はあった。最初はオフサイドかなと思ったけど、(主審の)笛が聞こえなかったので。シュートのときも無心だった。なんであそこでループなんてできたのかなって」

 ワントラップでボールをコントロールすると、右足でボールを浮かし、ゴールを空けて飛び出してきたGK岡本昌弘の頭上を越す鮮やかなループシュート。「練習でああいうことはよくやっているので、自然と体に染みついていたのかな」。ゆっくりとゴールマウスに吸い込まれていくボールの軌道を見届け、一目散にゴール裏へ駆け抜けていった。

「何も考えずに走っていた」。大分のJ1復帰を告げるホイッスルが鳴り響き、他の選手たちがピッチ上で抱き合い、歓喜に沸く中でも、林は一人、ゴール裏のサポーターのもとへ走っていた。「いろんな思いがあった。感謝の気持ちでいっぱいだった」という林のゴールは、大分サポーターにとっては特別な意味があった。

 09年10月24日のJ1第30節、西京極で行われた京都対大分。引き分け以下なら大分のJ2降格が決まる試合で、1-1の同点ゴールを決めたのが、当時、京都でプレーしていた林だった。結果的に大分をJ2に突き落とすことになったゴール。今年8月、大分に加入した当初は、大分のサポーターから「林さんは大分のファンにはイメージが悪いからね」と言われたこともあった。

「笑いながら言われたけど、それがつらかった」。そう回想する林は「この半年間、大分を(J1に)上げることしか考えてなかった」と力を込める。しかし、相次ぐ故障でなかなかチームの力になれなかった。リーグ戦ではわずか5試合に途中出場しただけ。プレー時間は64分にしか満たない。「ケガをしてチームに迷惑をかけて。そのときは『俺は何をしに来たんだろう』と思っていた。最後に仕事ができてよかった」。最後の最後に、最も大事なところで最高の結果を残した。

「今日のゴールで3年前のゴールを忘れてくれると思う」。大分のファン・サポーターへの最高のプレゼント。『大分をJ2に降格させた選手』から『大分をJ1に昇格させた選手』へ。「僕らは挑戦者なので。とにかく1年で落ちないように。J1でしっかり戦える力を付けたい」。4年ぶりに挑むJ1で、今度は大分をJ1に定着させるゴールを決め続ける。

(取材・文 西山紘平)

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