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[選手権予選]“PK要員”のMF野本が出場20秒でV弾!帝京長岡が堅守と延長後半ラストプレーの一撃で決勝進出:新潟

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延長後半10分、帝京長岡高はMF野本太一(左端)が決勝点となるヘディングシュート

[11.6 全国高校選手権新潟県予選準決勝 帝京長岡高 1-0(延長)長岡向陵高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 第95回全国高校サッカー選手権新潟県予選準決勝が6日に行われ、帝京長岡高が延長後半終了間際にMF野本太一(2年)の決めた決勝点によって長岡向陵高に1-0で勝利。帝京長岡は11月13日の決勝で3年ぶりの優勝を懸けて新潟明訓高と戦う。

 延長後半10分、帝京長岡は右CKを獲得したタイミングで2年生アタッカー・MF陶山勇磨に代えて「PK要員です。あとはインターハイ決勝のときにアイツがCKから取っているので期待して」(古沢徹監督)という野本をピッチへ送り出した。野本が敵陣ゴール前へ走っていくまでの間、主審と副審はコーナー近くで「あと何秒?」「20秒です」というやり取り。アディショナルタイムはゼロだったため、まさにラストプレーだったCKをMF安田光希(2年)が左足で蹴り込むと、わずか15秒か20秒前に投入されたばかりの背番号8の頭を経由して、ボールはゴールネットを揺らしていた。

 右手を突き上げて走り出した野本にチームメートたちが笑顔で駆け寄る。その口々から発せられたのは祝福の声よりも「何で、オマエが!」という言葉。ニアサイドへ走り込み、1タッチのみでヒーローになったMFは「いつもニアで潰れろと言われて。来ると思っていなかった」。エースFW楜澤健太(3年)は「(交代した陶山)勇磨と野本だったら、勇磨の方がヘディング強いんで、なんで(代えるの)かなと思っていた。でも、このあとPKだからラストプレーなんだろうな、じゃあオレらが決めてやろうと思っていたら、アイツが決めちゃってびっくりです」。直後に試合終了の笛。本人たち含めて“意外”なヒーローが生まれることになったが、劇的な決勝点によって帝京長岡が昨年に続く決勝進出を果たした。

 長岡向陵との長岡ダービー。プリンスリーグ北信越では4月の対戦で4-0、9月の対戦でも5-0で快勝している帝京長岡だったが、この日は苦しい戦いとなった。プリンスリーグでは登録起用が可能な中学生のU-16日本代表候補MF谷内田哲平(長岡JY FC)が不在。またGK深谷圭佑主将(3年)が「選手権の場合は1点取られたら厳しい局面にもなってしまう」と語ったように、本来のテクニカルなスタイルよりもややロングボールが増え、リスクを負ってボールを繋いで攻めることができなかったこともある。そして、何より長岡向陵の健闘が光った。長岡向陵の最所順之監督が「帝京さん相手に失点したくないという状況の中での修正を一生懸命やって、できた。守備の面は(帝京長岡は)10番(楜澤)、14番(陶山)がストロングポイントなので、そこをいかに消すか。動き方をオフの動き方含めて彼らに伝えてそれを上手く体現してくれた」と説明したように、相手の良さを上手く消しながら、FW外山光、MF田中龍成という2年生のタレントやFW山本貴大主将(3年)がキープ力を発揮しながら繰り出す攻撃も効果を発揮。18分にはFW小川大翔(3年)と田中で左サイドを崩して先に決定機を作り出すなど互角に近い戦いを見せていた。

 帝京長岡は24分、右MF木村勇登(3年)のドリブル突破を起点に安田が左足の弾丸ミドル。29分には木村の右クロスから楜澤が決定的なヘディングシュートを放った。楜澤や「きょう足が動いていましたね」(古沢監督)というMF荒井太樹(3年)が絡んだカウンターやサイド攻撃でいい形も作っていた帝京長岡は後半、エース楜澤が簡単に止まらなくなり、ドリブル、空中戦でも危険な存在となって決定機に絡む。また新潟MF小塚和季の弟、MF小塚祐基(3年)投入で前線にポイントができるようになり、サイドからクロスが上がるシーンが増えた。

 だが、後半19分に右CKからの連続シュートが長岡向陵の必死の守りに阻まれるなど先制点を奪うことができない。長岡向陵も16分に田中の折り返しを交代出場のMF山口敦大(2年)が右足で叩いたが、シュートは「前半も後半も結構ウチが攻めていて、失点するとしたらカウンターとセットプレーかなと思っていた」と準備していたGK深谷の正面。今大会の帝京長岡は3得点した試合がなく、接戦続きとなっているものの、古沢監督が「クリーンシートで来ているのが一番かなと思いますね」という守りはこの日も綻びができなかった。

 長岡向陵は注目司令塔のMF谷口成冴(3年)が負傷欠場するアクシデントの中、カウンターで攻め込むシーンもあったが、後半以降は単発に。それでも帝京長岡に押し込まれる時間が増える中でよく守っていた。帝京長岡は0-0で突入した延長戦の前半10分には荒井の落としから陶山が決定機を迎えたものの、長岡向陵CB渡邊祐貴(3年)がブロックし、この後GK松崎出穂(2年)の好守もあって耐え続ける。だが、延長後半終了間際の一撃でゴールを破られて敗退。試合終了の笛が鳴ると選手たちはピッチに崩れ落ちた。

 前評判高かった昨年の帝京長岡は新潟明訓との決勝で好ゲームを演じながらも2-3で敗退。今年はその先輩たちを越えて全国高校総体に出場し、プリンスリーグ北信越で2位に食い込み、そして選手権予選でも決勝進出を果たした。古沢監督は「決勝まで行かないと去年の3年越える権利はないからね。準決勝の入りから終わりまで、彼ららしく、特に3年はよくやっていた」と無失点優勝した総体予選に続いて無失点で我慢強く勝ち上がってきているチームに目を細めていた。そして深谷は「公式戦の粘り強さはこれまでを通して築き上げて来れたと思うんで、ラストのところでしっかり決めてくれたんで良かったです」と語り、「決勝は雰囲気も違う。仲間を信じて、自分を信じてこれまで積み上げてきたことを表現できれば自ずと結果はついてくると思う。決勝でこれまでやってきていないプレーは出ないと思うんで、やってきたことを信じてやるだけです」と力を込めた。昨年、「5年以内に全国制覇」を掲げて2年目の今年、まずは全国切符を掴み取る。

(取材・文 吉田太郎)
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