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ユース取材陣注目の“選手権ブレイク候補”vol.2_DF三国スティビアエブス(青森山田高)_Bだった夏から1年、プレミア覇者の欠かせないピースに

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青森山田高の左SB三国スティビアエブス(右)

「去年の夏休みは“COPA SEIRITZ”に出ていましたよね?」と尋ねると、高円宮杯プレミリーグEASTを制したばかりの長身左SBは、一瞬考えてから「ああ、出てましたね」とその時を思い出しつつ少し笑った。Bチームの強化を目的として、成立学園高が主催する格好で11年前から夏休みに時之栖で開催されている“COPA SEIRITZ”。プレミアEAST王者の青森山田高で不動の左SBを任された三国スティビアエブスは1年前、Bチームの一員として土砂降りの中でピッチを走り続けていた。

 11年に高円宮杯プレミアリーグが創設されて以来、一度も降格することなく高校生のトップディビジョンに主戦場を置き続けている青森山田。165人の部員を抱えるチームで、Aチームのメンバーに名前を連ねることは決して簡単なことではない。15年の夏。2年生だった三国も兵庫で行われた全国総体のメンバーに入ることはできず、“COPA SEIRITZ”を戦うために時之栖を訪れていた。前述したようにBチームが集まる大会とは言え、過去の優勝チームを紐解けば静岡学園高、流通経済大柏高、山梨学院高、東山高と錚々たるチーム名が並ぶ。最終日の順位決定リーグ。相手はこの大会で3度の優勝を誇る前橋育英高。現在はAチームの9番を背負う高沢颯がスタメンで登場し、やはり今年は不動のボランチを務めてきた長澤昂輝がベンチに控える上州のタイガー軍団と対峙した三国は、まだ『あの頃は自由にやっていましたね』と自ら振り返る左SHに配されていた。

 試合前から降り続いていた雨は、キックオフ直後からさらに勢いを増していく。まさに“ゲリラ豪雨”という表現がふさわしいような土砂降りの中、みるみる内にピッチはプールのような状態に。『普通に蹴って走ってセカンドボールを拾って、という形だったので本当に難しかった』と試合後にチームを率いる千葉貴仁コーチも言及するようなコンディション下でも、三国のパワフルさとしなやかさはとりわけ目を引いた。チーム自体は惜しくも優勝を逃したものの、その名前の持つインパクトと共に、60分間という短い時間の中で彼の存在は強く印象に残った。

 2016年。三国はプレミアEASTの開幕スタメンに起用される。ポジションは左SB。「特にクロスの精度を高める練習やポジショニングの練習を繰り返しました」という彼は、以降も黒田剛監督の信頼を獲得し、完全に定位置を確保していく。「今年は去年から4バックが全員代わったので、監督からは『残留が目標だな』と言われていました」とは三国だが、そんな指揮官の言葉とは裏腹に、チームは国内最高峰のリーグ戦で首位争いを繰り広げると、広島開催となった全国高校総体でもベスト4まで勝ち上がり、高校選手権の県予選も盤石の戦いぶりで20年連続の全国出場を決める。もはやチームに欠かせないピースとなった左SBは、1年前とは全く違う立場で次から次へと公式戦のやってくるシーズンを、充実感と共に過ごしていく。

 12月11日。勝った方が優勝というシチュエーションで、アウェーに乗り込んだFC東京U-18とのリーグ最終戦。警告の累積で前節は出場停止を強いられた三国も、キックオフの瞬間をピッチで迎える。実はこの日の4バックの内、三国、橋本恭輔、小山新と実に3人が昨年の“COPA SEIRITZ”を経験しているメンバーだった。自らの立ち位置を劇的に変えた3人の雄姿。Aチームのコーチを務めながら、時之栖を毎夏訪れている正木昌宣コーチも「ああいう大会を経験することで、チームの底上げが図れているということも、間違いなく全体の強化に繋がってきていますよね」と口にする。前半はやや対面の選手に押し込まれる場面もあった三国は、後半に入るときっちり修正して、自分のサイドからの突破は許さない。終了間際にやはり昨年の“COPA SEIRITZ”を戦っていた佐々木快が奪ったPKを、高橋壱晟が沈めて先制した青森山田は、そのまま無失点でタイムアップの笛を聞く。とうとう辿り着いたプレミアEAST制覇。その主役となった三国をはじめとする数人の最上級生が、1年前の“ゲリラ豪雨”を知るメンバーだったことは書き記しておきたい。

 サンフレッチェ広島ユースとのチャンピオンシップも勝利で飾り、いよいよまた高校選手権の時期がやってくる。黒田監督はFC東京U-18戦の試合後、「選手権もこれくらいうまくいってくれたらいいんだけどね」と笑ったが、それは偽らざる本心だろう。三国も「ここで浮かれて選手権も入ってしまうと、どこかで足を滑らせて負けてしまうと思うので、そこはもう1回気を引き締めてやっていきたいと思います」と兜の緒を締める。過去3度に渡ってベスト4以上を経験しながら、いまだに成し遂げられていない冬の全国制覇。その悲願達成には、1年前に“COPA SEIRITZ”を経験し、そこから努力に努力を重ねることでAチームのレギュラーを勝ち獲った三国たちの躍動が、絶対に必要不可欠であることは言うまでもない。

(取材・文 土屋雅史)
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