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FW起用に“一発回答”、「サッカーに生きている」東京V高木大輔の生き様

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頼れる東京Vの18番、FW起用に一発回答

[5.7 J2第12節 東京V1-1横浜FC 味スタ]

 サッカーに生きている。ポジションや場面は選ばず、どんなときも全力でピッチの上の瞬間を生きている。東京ヴェルディのFW高木大輔は7日に行われた横浜FC戦で今季初めてFWとして起用されると、開始8分に今季初ゴールを記録した。

 試合後、東京Vのロティーナ監督は高木について、「ヨーロッパの選手に近い印象。サッカーに生きていると思います。試合でも練習でも、強い強度でプレーでき、とても賢い。今日の1点目もこぼれ球に詰めたとても賢いプレー。ボールをキープしていたし、ディフェンス面でもチームに貢献してくれた」と労った。

 これまではおもにFWとしてプレーしてきたが、今季は開幕からWBとして、7戦連続の先発出場。そして出場11戦目で迎えたこの日の横浜FC戦。FWアラン・ピニェイロが筋肉系の故障を抱えており、FWドウグラス・ヴィエイラが前節の脳震とうの影響で不在のなか、高木は今季初めてCFWとして起用された。

 先発を告げられたのは前日練習の直前。「ドウグラスの位置に入るけど問題ないか?」と問われ、「OK」と即答した。とはいえ、「頭を整理するのがいっぱいいっぱいだったし、気負いすぎても空回りするなと思ったし、ふらっと入るとやられるなと思った」と話すように様々な考えが巡るほどに動揺した。自分のなかで整理をつけ、試合前夜と当日には過去の自身の得点シーンやチームが好調だったときの映像などをみて、モチベーションを上げていったという。

 そして迎えた横浜FC戦。前半8分にその瞬間はやってきた。高木がMF中里崇宏に倒されてFKを獲得。「立ち上がりだったし、アンカズに思い切り蹴ってほしい」という思い通りに、MF安在和樹が強烈なボールを蹴りいれる。ゴール前でワンバウンドしたボールを、相手GKが前に落とし、詰めていた高木が右足で押し込んだ。

「ボールの軌道を見たときに、ピッチも水を撒いていたし滑るなと思って。詰めたら本当に決めるだけのボールが転がってきたので、決めることができて良かったです」。東京Vはその後に失点し、1-1の引き分け。勝利こそならなかったものの、今季最多9452人の観客が入ったスタジアムで首位チーム相手に好ゲームをみせ、勝ち点1を上乗せた。

「冷静に考えて、今年はずっとWBで試合に出ていたなか、今日はCFWでチャンスをもらいました。自分が一番やってきて、やりたいポジション。早いかもしれないけれど、今日は言ってみれば(CFWとしての)ラストチャンス。良くなかったら、CFWとしてはもう使われないと思っていた。点という結果を残せたのは、監督に対していいアピールになったかなと思います」

 今季からロティーナ監督が就任した東京V。プレシーズンにMF安西幸輝と安在らが相次いで負傷離脱したことで、本職がFWの高木に『WB』のポジションは回ってきた。来日前から東京Vの試合映像を確認していたロティーナ監督は「大輔はFWとして計算していました」と言うが、竹本GMやスタッフ陣から、高木にSBの経験があることを聞かされ、臨時での“コンバート”を決めた。いきなりの起用ではなく、事前に本人には「みんな(スタッフ)からSBもやっていたと聞いたから、試させて欲しい」と言葉があったという。

 そこからのプレシーズン。指揮官の想像を大きく超えるほど、高木はWBで存在感を見せ始め、先発へ定着。開幕戦・徳島戦(0-1)から第6節・岡山戦(1-0)までの6試合にWBとしてフル出場し、キャリア最高といえるスタートを切った。WBとして評価を高めていくなかでは、対戦相手の監督たちから声をかけられることも多かった。

 面識がなかった湘南のチョウ・キジェ監督からは「なんでWBをしているんだ?」と試合後に問われると「WBをやるようになってからは、より走れるようになっているからな」と言われたほか、唯一出番のなかった山形戦では、木山隆之監督から「頑張っているのに、(出場がないのは)もったいないね」と声をかけられた。

 相手チームの監督からWBとして評価を受けるのは嬉しい気持ちもある一方で、複雑な思いも募っていった。「このままWBとしてサッカー人生を歩んでいくのか、FWとして生きていくのか……自分のなかでの葛藤はありました」と言うとおりだ。「試合に出られていたので不満はなかったんですけど、それでもやっぱりどこかで(前を)やりたいなというのはあったので」。

 複雑な思いを打ち消すように、とにかく走った。目の前のことに必死になっていれば、余計な考えは浮かばなかった。ただただいつも通りに練習でも試合でも、がむしゃらにこなした。そして出場を重ねるなか、様々な要因が重なり、やってきたのが横浜FC戦。FW起用に応えるとしっかりと結果を出したのだ。

「こうやってFWでチャンスをもらえたときに結果を残せたことは、自分のなかで“ここ”なんだなと、証明できたというか、スッキリした部分もあります。これから先、WBをやることがあっても、僕がやることはまず100%でやることだと思います」

 ロティーナ監督は「常に他のポジションでプレーした選手というのは学ぶことができる」とWBを経た高木を評価しつつ、「たくさんのポジションでプレーすることが出来る選手と捉えている」と今後の起用には含みを持たせる。本人は「来週からの練習でまたどこのポジションをやるのか楽しみ」と白い歯をこぼした。

 かつて年代別代表でもSBやボランチで起用され、もちろん東京VでもSBを務めていた時期もある。一般的に複数のポジションを任される選手は器用なタイプが多いが、高木の場合は“託したい”“ピッチにいて欲しい”と思わせる熱さが、そうさせているのだろう。きっとそれこそがロティーナ監督の言う「サッカーに生きている」姿。サイドでも前線でも、高木大輔は全身全霊で今そこにあるサッカーに生きている。

(取材・文 片岡涼)

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