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アメリカ・サッカー留学の可能性 IMGアカデミーの最先端トレーニングに迫る Vol.3

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1週間、IMGアカデミーのキャンプに参加した沖縄SVジュニアの當山颯琉

世界で戦うためにジュニア時代の海外経験は必要か?

 短期連載の最終回はサッカー選手にとってジュニア時代の海外経験は必要か、自身の体験を元に元日本代表FWの高原直泰氏に語ってもらった。言葉や文化の壁、身体やサッカーのスタイルの違いなど、超えるべきものは何なのか、あるいはそもそも海を渡る必要があるのか否か。世界で戦うことを目指す選手たちは必読だ。

―高原さんの場合は小さい頃から代表などに選ばれて海外経験が多かったと思いますが、当時、同年代で日本を出てサッカーをする機会というのは多かったのでしょうか?
「ほとんどないと言っていいと思います。自分の場合はラッキーな面もあって、日韓ワールドカップに向けて育成年代の強化が盛んに行われていました。U-15のときからですが、海外遠征を組んでもらう機会が多くなっていたのが大きい。最初に渡ったのはアメリカで、そこを皮切りに2、3年は何か国に行ったか数えられないくらいたくさんの遠征に参加していました」

―サッカーではない機会も含めて、それまで日本の外に出た経験はあったのですか?
「いえ、まったく。海外に行ったことがそもそもなかったので、パスポートも初めて作りましたし、英語も理解できず、でしたね」

―アメリカに降り立ったときの印象は?
「“海外に来たな”という漠然とした感じでしたよ(笑)。ドキドキしていたのは確かです。試合に出るために行ったので、ポジティブな意味で興奮していました」

―初めての海外遠征で感じた一番の違いは?
「フィジカルの違いが一番大きかったですね。U-15のメンバーでしたけど、U-19のカテゴリーで戦ったので特に違いを感じたのもあります。プレー中の当たりがものすごく強くて、試合で唇を切ったのを覚えています。そのときはものすごく腫れて……。ただ、違いはフィジカルだけで、プレーそのものについては“やれる”と思えたので自信にもなりました」

IMGアカデミーのトップチームに混ざって一緒に汗を流す高原氏。個性的な選手の特徴を素早くつかんでゲームを作っていた

―幼少の頃から海外のチームでプレーするというビジョンはありましたか?
「最初はなかったと思います。トヨタカップを観に国立へ行ったりはしましたけど、Jリーグができたばかりの頃は日本国内に関心が集まっていましたし。プロのサッカー選手になるという明確な意志はありましたけど、それが海外のチームでプレーすることにはリンクしませんでした。海外の試合に行き始めて、それから徐々に視野に入ってきた、という流れですかね。18歳の頃には海外に出たいという、より強い意識が出てきました」

―ジュニア時代に高原さんが残した大きなインパクトはやはり1999年のFIFAワールドユース選手権です。トータルで3得点を挙げました。日本人は積極性がなく得点力も低いと言われがちですが、チームとしても決勝まで進みました。
「チームのメンバーはU-17から一緒にやってきた選手がほとんどで、あの大会は自分たちがどれだけ成長したのかを知る物差しになりました。ただ、“どれだけやれるか”ではなく、世界のトップレベルの中で“勝ち”に行っていた。グループリーグ初戦のカメルーンには出鼻をくじかれましたけどね(笑)。ただ、同時に“戦える”ことも分かった。ロングボールを入れられてパワープレーで点を取られたという、いわゆる典型的なやられ方だったのと、自分たちでゲームを組み立てられたので自信にもなりました。やっぱり若い年代から海外に出て、経験を重ねて、だからこそ自分たちの状況を自覚して判断することができたと思います」

―仮に、そのときのサッカーのスキルがまったく同じだとして、それまで海外経験がなかったら違ったと思いますか?
「まったく違ったでしょうね。海外に出るというのは、ただプレーすればいいというわけではないので。気候や環境に慣れないといけないし、そこで出される食事を取らないといけない。時にはおいしくないご飯が出るでしょうし、自分たちで味付けを変えて工夫したり。小さいことかもしれませんけど、一つひとつがメンタルもタフにしてくれます。日本はとても恵まれています。海外に出ればすべてが整っている環境は与えられないのが当然で、それを苦にしていたら勝てない。技術があれば戦える、うまい選手が集まれば勝てる、というわけじゃないですからね。とはいえ、一概にすべての選手が海外に出るべき、とは言わないですけどね。出たいと思う人は出ればいいし、出る気持ちがない人はそれでもいい。たとえば遠藤(保仁)なんかは純国産と言っていいほど主戦場は国内で、それでも世界でやれました。個人の気質も大きいと思います。自分が世界に出たいと思っても、チャンスがある人は限られるでしょうから。でも、もしやれる状況があって、出たいという気持ちがあれば、間違いなくやるべきです」

―海外に出たからといって思ったように成長できない選手もいますしね。
「そうです。ただ、長い期間ではなかったとしても、少しでも海外に出たことによって“違い”を認識するだけでも大きいです。自分の海外経験を思い返すと、アルゼンチンに行ったけれど、経済的な打撃とかいろいろな要素が絡み合って満足いくまで現地にいられなかった。でも“お客様”としてではなく、チームに入ってポジション争いをして過ごした半年間は大きかった。そこから日本に戻って、得点王になったんですけど、何かしらつながるものがあったと思います」

―なるほど。
「経験を生かすも殺すも自分次第です。うまくいかなかったことをただ嘆くだけなのか、それを次につなげるのか。ボカ(・ジュニアーズ)で一緒にプレーしていたギジェ(ルモ・バロス・スケロット)が今、チーム(ボカ)の監督をやっているんですけど、IMGアカデミーのアルゼンチン出身のコーチが知り合いだったみたいで、その話で盛り上がったり、こういうネットワークも僕にとっては大きな財産です。ただ、これも自分次第。僕にとっては大切なものですが、必要ない人にとってはいらないかもしれない」

IMGアカデミーのコーチ、ドリュー(左)とマルセロ(右)。アルゼンチン出身のマルセロとは共通の友人の話で盛り上がった

―遠征で短期間滞在するのと、そこに住むのではやっぱり違いは大きいですか?
「そうですね。代表で海外を回ったときは周りが日本人の選手だし、食事も用意されるので、自分で買い物に行く必要はない。一方で、チームに入って現地で生活するとなると、すべて自分でやらないといけない。言葉も通じない中、生活するだけでも大変ですが、サッカー選手としてチームでポジションを勝ち取らないといけない。経験として大きいですし、成長できます。ただ、たとえ短い期間だとしても行かないよりは行った方が断然視野が広がると思いますよ。しかも、経験できるのであれば、挑戦するのはより若いときに越したことはありません」

―アルゼンチンとドイツ、2つの国のチームに所属しましたが、滞在する場所によっても違いはありますか?
「そこに住む人の気質やサッカーの内容もまったく違います。ただ、“違いを知る”という経験そのものはどちらでも共通して大事なことでした」

―言語の壁はどうやって越えたのですか?
「アルゼンチンでは片言のスペイン語を身につけて、なんとかやりました。ドイツに渡ったときは、また言語が違うので、最初はスペイン語を話せるチームメイトを見つけて手伝ってもらったり、語学学校のサポートを受けたりしました。最初の契約や入り組んだ事務的な作業もあったので、通訳が付くこともありましたけどね」

―でも、フィールドに出るとそういうわけにもいかない。
「はい。最初は大変でしたよ。何か問題があれば、本当はその場で解決するのがベストですけど、単語が分からないのであとで辞書を引いてやっと理解する、とかね。ストレスは大きかったと思います。生活も、通訳がいない状況はたくさんありました。自らアクションを起こして、もがいて……自分で運転していましたし、買い物に出かけては会話に苦労しながらやりとりしたり。“頑張ってる”という意識がいつの間にか“当然”と思えるようになっていて、そのときに成長したと実感できました。IMGアカデミーに来る子も、英語に慣れていなければ最初は特に言葉の壁が大きいと思いますけど、それがきっと“当然”となっているはずで、そのときは日本にいるだけよりも、いろいろな可能性を広げているでしょうね。ただ、繰り返しますが、チームやコーチ、環境など相性もあると思います」


IMGアカデミーの寮。長期留学生は2人で部屋をシェアする。サッカーに限らず別の競技の生徒と一緒になることも。共通言語も英語になるので英語力を伸ばすにもよい環境だ

―無条件に海外に行け、というわけではない?
「最後は自分が主体的に決められるかどうか。“行かされる”のじゃなくて“行きたい”と思えるか。それが間違いなく大きいです。人に言われて失敗したら、“ほら、自分はやりたくなかったから”と逃げ道を作ることになる。自分がやる、と思えば、たとえ失敗しても納得するでしょうし、何より頑張れると思います。これだけトレーニング設備や専門家がそろっているIMGアカデミーの環境でも、それを生かせるかが大事ですから。できれば3週間くらい、実際に体験するのがいいんじゃないですか? そして、自分ができるか判断する。もし、やりたいと思えるのなら、ここは成長するために最高の環境が整っていると思いますよ」

IMGアカデミーのコーチたちとゲームをしたあとに撮影した集合写真。さまざまな国籍やバックグラウンドを持った人とつながることができるサッカーの力を感じさせてくれる


※IMGアカデミーでは1週間単位で年中どのタイミングでも参加できる短期キャンプ、アメリカの高校卒業と大学進学を目指す長期留学などを提供しています。また資料の送付や無料のカウンセリングも受け付けています。興味のある方は以下のIMGアカデミー日本窓口にお問い合わせください。
メール:imgajapan@img.com
電話:03-6758-7891
日本語公式サイト: https://www.imgacademy.jp/

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