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「守備のビジョンなくして世界で勝つことはできない」流経大柏DF関川、尚志DF馬目が元日本代表DF岩政から学んだ世界で通用するCBになるための“きっかけ”

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流通経済大柏高のDF関川郁万尚志高のDF馬目裕也を指導する元日本代表DF岩政大樹(東京ユナイテッドFC)

 悪天候の中、彼らの挑戦が始まった――。『JFA Youth & Development Programme(JYD)』事業の一環として、センターバックを対象にしたプレミアムクリニック『NIKE ACADEMY TIEMPO MASTERCLASS』を実施。流通経済大柏高のDF関川郁万と、尚志高のDF馬目裕也がこれに参加し、特別コーチを務めた元日本代表DF岩政大樹(東京ユナイテッドFC)から世界で戦えるセンターバックになるための“きっかけ”をつかんだ。

 JYDとは、継続的な日本サッカーの発展ために、さらなる普及や次世代選手の育成を促進することを目的とした日本サッカー協会(JFA)が実施するプロジェクト。今年2月には、『NIKE ACADEMY』のトレーニングメソッドをベースにしたフィニッシャーのための特別プログラム『LETHAL FINISHER MASTERCLASS』が実施され、京都橘高のMF梅津凌岳鵬翔高のFW宇津元伸弥が参加。FW柿谷曜一朗(C大阪)やFW大久保嘉人(FC東京)といった現役選手のほか、久保竜彦氏や風間八宏監督(名古屋)といった特別コーチから、より専門的で実体験に基づいた指導を受け、世界で通用するフィニッシャーへ成長するための“ヒント”を得ていた。

 第二弾となる今回の『NIKE ACADEMY TIEMPO MASTERCLASS』では、2007年から3年連続Jリーグベストイレブンに選出されるなど、10年間に渡って鹿島アントラーズの黄金期を支え、日本代表としても活躍した岩政氏監修のもと、日本の育成年代では教わる機会が少ないセンターバックに特化したトレーニングを4回行う。このプレミアムクリニックに高円宮杯U-18サッカーリーグ2017 プリンスリーグ関東所属の流通経済大柏から関川、プリンスリーグ東北の尚志から馬目が参加した。

 1回目となった今回は、遅かれ早かれディフェンダーが直面するという、ゴールを守る上で優位な状況を作り出すための手段、“守備のビジョン”について岩政コーチが指導。対人や局面での守備の強化はもちろんだが、「守備者として極めていくのであれば、ビジョンなくして世界で勝つことはできない」と岩政氏が語るように、一つの経験をどんどん掘り下げて自分の中で守備のビジョン、方法論を作り上げていく必要があるという。その視点を持つことを2人には求められた。

 まずは相手の背後から前に出てインターセプト、体勢を崩さず相手の股下から足を出してボールを突くなどをウォーミングアップで行い、そこから2対2のトレーニングへと発展。ファーストディフェンダーとセカンドディフェンダーでの対応の違いについて岩政氏が指導した。岩政氏曰く、「日本では『ボールにもっと行けよ』、『ボールを取りに行く意識が少ない』と言われるが、ボールを取りに行ける状況ではないのに行ってもしょうがない。じゃあ、いつ行けるのかをもっと具体的に把握しなければならない。そのファーストディフェンダーとセカンドディフェンダーとの最低限のルール作り」がまずは大事なのだという。

 つまり、ファーストディフェンダーがボールを持った相手に強くプレッシャーをかけるためには、セカンドディフェンダーが「ボールに行っていい」「縦に行かせるな」などの声掛けやカバーが必要。それによりファーストディフェンダーの対応だけでなく、チームとしての守備の仕方も変わってくる。この部分で岩政氏から指導を受けた関川は、「ちょっと遅れて声を掛けていた。やられそうになってから声を掛けるのではなく、やられる前、対応しているときから声掛けをしなくてはならない」と感じたようだ。

 トレーニングはさらに人数を増やしてより実践的に。6対6で背後にフリーマンを置いたトレーニングでは、チームとして連動した守りに加え、背後を取られないための守備、ビルドアップの立ち位置も求められた。さらにフリーマンをサイドに置き、クロスからの対応も行った。トレーニング中に「どう声を掛けていいか」悩んでいたという馬目は、「体の当て方について(岩政氏から)指摘された。自分でも思っていたところを言われ、そこは改善しなければいけないと思った」と改めて課題が浮き彫りになった。

 トレーニングを終えて2人の質問に答えた岩政氏は、それぞれの印象について、「郁万(関川)はバネがあるし、ヘディングが好きなんだろうと思う。あとはマーキング。特に空中戦のマーキングは好きなんだろうなと感じた。特徴はあると思う」と語り、馬目については「動じないものがある。自分のペースを乱されないというか、攻守において自分のリズムを持っている選手」と評価した。

 今後に向けて岩政氏は、まだまだできていなかった“守備のビジョン”を作るために考え続けろと説く。「ビジョンは一人一人が生み出すしかない。色んな人の守備のやり方を見ながら自分で作り上げていくもの。いずれにしても、まずはその視点を持たないと話にならない。守備にビジョンが必要という視点がなければ、その視点でサッカーを見ない。守備の選手はほとんどボールを扱わない。ずっと守備のビジョンに則ってポジションを取っている。(ビジョンを作るためには)自分で一つの経験をどんどん掘り下げ、考えていくしかない。特効薬はないし、正解もない」と熱くディフェンダー論を語った。

「1人で守って1人で点を取って勝つ」という目標を掲げる関川は、今夏のインターハイでハットトリックを達成するなど、攻守両面でチームに貢献。昨年は準優勝に終わったが、今年は悲願の優勝を果たし、歓喜の涙を流した。大きな自信を得て、「世界で通用する選手になる」ために参加した初回のトレーニングでは、岩政氏に指摘されながらも積極的に声を出し、持ち前の空中戦で強さを発揮していた。「貴重な体験になった」と振り返りつつ、「自分の弱点、課題の足もとでの対人や細かいステップとかを教わりたい。あと3回で完璧に近づけたらいい」と今後へ意気込んだ。

 U-17日本代表の関川と、どれだけ差があるかを意識してトレーニングに入ったという馬目は、岩政氏が言う“ビジョン”について、「尚志の監督(仲村浩二監督)にも『先のことを考えろ』と言われている。そこは自分なりに少しはできていたかなと思う」と手応えを感じている様子。だが、ここで満足はしていない。チームでは定位置を獲得できておらず、インターハイでは3回戦・長崎総合科学大附高戦で、U-18日本代表FW安藤瑞季を相手に「1対1の局面で勝っていた」が、軽い脳震盪により前半のうちに交代。チームは0-1で敗れ、馬目としても悔いの残る大会となった。「先輩とか関係なく、自分がリーダーシップをとれるように、みんなを上げていく存在になれたらと思う」と、強い気持ちを持って残りのトレーニングに取り組むつもりだ。

 もちろん、簡単にレベルアップできるほど甘いものではない。岩政氏も「ビジョンを作るのは、5~10年かかってやっと作られるもの。僕は今でも少しずつ書き加えている」と語っている。それでも、今回のトレーニングで彼らは世界に近づくための“きっかけ”を得られたはず。これを残りの3回のトレーニングで、より具体的にしていき、それぞれが目指す将来への“ビジョン”をよりはっきりしたものにしていく。

(取材・文 清水祐一)

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