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ロシアW杯出場報告 ハリルホジッチ監督会見要旨

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花束を贈呈されたバヒド・ハリルホジッチ監督

 W杯アジア最終予選・オーストラリア戦を制し、6大会連続6回目のW杯出場を決めた日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督は1日、さいたま市内で行われた記者会見に出席した。

以下、ハリルホジッチ監督会見要旨

バヒド・ハリルホジッチ監督
「こんばんは。昨日の試合後の会見のことを申し訳なく思っている。みなさんの前で長い時間話すことができなかった。みなさんも聞きたいことがたくさんあったと思う。これまで誰も知らなかったこともそのときに発言したが、素晴らしいゲームの後、お祝いに水を差すことはしたくなかった。非常に難しい状況下、ほぼパニックに陥っていた中で戦ったゲーム。協会の関係者、選手にもそれを感じさせてしまった。

 このゲームに向けた準備は全くもって簡単なものではなかった。この合宿に向けた準備でどれほどの困難があったのかはみなさんもご存知だと思う。たとえば、日本は最終予選でオーストラリアに勝ったことがなかった。初戦を落としてW杯に出場した国はなかった。アウェーでUAEに勝ったことがなかった。そのようなたくさんの要素が私には影響しなかったが、もしかしたら選手たちには影響したかもしれない。私とともに働いている人たちも少し焦っているような部分はあった。また、私を攻撃しているメディアがあるということも耳に入っている。

 しかし、私のプライベートなことを皆さんはご存知ないと思う。それはあくまでも個人的なことなので、誰にも話していなかった。私は仕事に集中しようとした。選手たちのメンタル的な部分に影響を与えたくなかった。代表でデビューする2、3人の若い選手もいたのでそうしたが、私のやり方で、私と一緒に働く人全員が同意したわけではなかった。そのような状況下、この歴史的なゲームを戦った。

 初めてオーストラリアに勝っただけではなく、W杯出場を決定するゲームだったということも歴史的だ。試合後、私はベストゲームだと思った。戦術的にも、フィジカル的にも、クオリティも非常に高いレベルのゲームだった。観客を含め、みんなが歓喜する姿を見ることができた。会長もこの勝利にホッとしただろう。会長とも話をしたが、試合前は心配事がたくさんあったと思う。しかし、私の個人的な問題もあったので試合後はすぐにロッカーに引き上げたかったが、この喜びを選手、スタッフ、サポーターと分かち合わなければならないと思ってとどまった。私にとって特別な時間になった。

 そういう状況だったので、試合後は記者会見に出席しないということも一度は言った。なぜなら私は発言するときに社交辞令ではなく、感じていることを言う。それはその状況ではよくないと思ったが、会見場に入ったときに拍手で迎えられた。非常に感動した。皆さんにとってあまり快くない状況だと思ったので、申し訳なく思い、昨日は説明をした。しかし、昨日の会見がフランスを含め、世界中で報道されていた。この状況の説明を少ししたいと感じている。

 私の昨日の発言は、私を批判していた方々、私にプレッシャーをかけていた方々に向けたものだった。選手たちにも『何が起こっているんですか?』と聞かれた。私を批判していた方々、私に敬意を払っていなかった方々、私の仕事を評価してこなかった方々、私を批判するためにいる方々。そういう方々がいることもノーマルだろう。私はサッカーの世界で生きているし、大きなプレッシャーの中で仕事をしている。しかし、チームが首位のときに批判をされていた。勝ち点も1位、得失点差も最もいい数字を残している状況で、オーストラリア戦の結果次第では私が去らないといけないと言っていた方々を私は“攻撃”として受け取った。

 チームは勝った。私はその試合の前に会長と話をしていた。会長は『サポートをする気持ちは全く変わっていない』と仰っていた。私は監督としてそれに結果でこたえた。監督として結果を見せなければもちろん批判の対象になると思う。私は日本に来てからずっとW杯出場に向けて戦ってきた。JFAから『辞めてください』と言われることもあるだろう。しかし、私のほうから『辞めます』と言うような状況もある。もちろん、そこには様々な理由があるはずだ。ひとつは、私の個人的な状況によって辞めざるをえないという状況が考えられたり、サッカーと関係ない理由があったりもする。

 これは初めて言うが、他のところからオファーがあり、金銭的にも協議面でもより良い条件を提示されたということもあった。しかし、私は目的を持ってここにきているので、忠誠心がある。2年半をともに過ごしているこのグループ、この日本という国にも愛着がある。私はここにいるし、家族もよく日本を訪れている。会長との関係も非常にはっきりしている。私が到着してからどういうふうに仕事をしてきたかは会長もご覧になっている。私は日本サッカーを向上させるためにすべてを注いでいる。もちろん、仕事をしていく中でミスもあるだろう。理想的にすべてが進むわけではない。しかし、私はこのチームでいい結果を残すためにここにいる。日本のサッカーを向上させるために私はたくさんの人にアドバイスをしている。私の仕事の仕方は前任者と少し違うかもしれないし、私は外交的なことはやっていないので、それがいいと思う人がいれば、それが好きじゃない人もいると思う。

 いつかこの美しい国、協会を去ることになれば、誇りを胸に去ることになると思う。友人として何度も日本に挨拶に訪れることになるだろう。もしかしたら日本代表の監督をいつか辞めることがあれば、そのあとに日本の美しいところを見ることができるかもしれない。昨日の発言の中にはそういった意味もある。私を批判してきた方々に向けたもの。それと同時に、皆さんに対する感謝の言葉もあった。そして、私が今後どれくらい日本代表の監督を続けられるかはもちろん結果次第。なので、私からははっきり申し上げられない。私に何かがあればまず最初に会長にお知らせする。私はロボットではない。感情を隠すことはできない。私は代表的な話し方に欠けた発言をしてしまうこともある。もうこの年齢で変わることはないと思う。

 今まで競技面で成功をおさめてきた。とある方々にとっては残念かもしれないが、私は仕事を続ける。いつまでかは分からない。非常に長いプロローグになってしまったが、昨日の発言でチームが動揺するのは避けたかったので、なぜそういう発言をしたのかという説明をした」

ー選手にはどんな声をかけたのか。

 このチームのビジョンをずっと伝えてきているが、チームの仕事のなかにはいくつかの段階がある。昨夜、第二段階が終わり、第三段階が始まった。最も難しいW杯だ。W杯への準備は今日から始まっている。このチームの意欲をできるだけ大きなものにし、さらに勇敢に戦いたい。ロシアW杯にはツーリストとしていきたくはない。成功をおさめるためにはまだまだ改善点がある。私が来日した当初、選手たちのメンタルの状態を良くないと感じた。W杯での敗退、アジア杯での敗退の影響があった。私はW杯で結果を残したい。日本国民はこのチームに誇りを感じていると思う。W杯期間中、本当に大きな情熱を見せる国々を見てきた。そして、いつの日か日本でもサッカーが圧倒的ナンバーワンのスポーツになってほしい。だからその準備をしようと選手たちに話をした。

 しっかりとトレーニングして、チームのために何がいいのかということを日々考えなければならない。私のマネージメント、チームのつくり方に批判はあると思う。私が若手を使うといったときにも批判があり、それは初めてではなかった。しかし、私は責任を持ってやってきている。毎回最善策だったわけではないが、その時点でベストのチームを私は常につくっている。いわゆるベテラン、スター選手を尊重しながら、若い選手も起用しようと思っている。

 昨日の井手口のプレー。最終的に彼が素晴らしいプレーを見せた裏側で何が起こっていたかは皆さんに想像がつかないと思う。この若い選手がなぜあそこまでいいパフォーマンスを見せたのか。そういう準備もある。しかし、私の近くにいる人の中にもそういったことに価値を見出せない方もいる。もちろん試合で結果を残せなければ今、全く違う状況になっていたかもしれない。私は国内組、海外組を問わず、日本人選手全員に代表で背番号を勝ち取ってほしいと思う。

 私はもしかしたらリスクを冒しながらこういったこと(若手の抜擢)を行ったかもしれないが、日本サッカー界にとって大きな一歩になったと感じている。以前は34歳の今野を起用した。それは彼がそのタイミングでトップフォームだったからだ。そしてUAE戦で彼はベストプレイヤーになった。コーチングスタッフが常に試合を視察しているが、私も分析している。井手口がいいプレーをした、ベストプレイヤーだったと報告していたが、まだ21歳だということもあった。フランス代表のリストを見れば18歳の選手がプレーしている。そういった意味で、日本サッカー界にとって大きな一歩だったと思う。

 私はベストな選手をプレーさせるだけだ。選手たち全員がロシアW杯に向けて大きな意欲を持ってトライをしなければならない。今後はアルゼンチン、ドイツ、フランスなどと対戦する。非常に高いレベルだ。そのようなチームと対戦するとき、恐れてしまうのならば行かないほうがいいかもしれない。このように、選手たちに私が感じていることを正直に話している。このグループに感謝したい。このグループとは27人の選手を含んでいる。怪我人もいて、初日から心配事もあったが、非常にポジティブな姿を見せてくれた。オーストラリア戦の2ゴールを全員が喜んでいる。浅野や井手口、若い選手たちが点を取った。ここまで久保、原口も活躍して、いつも新しいことが起こる。代表は個人のものではなくみんなのもの。私はいいプレーを見せる選手たちにチャンスを与えたい。私の判断が大多数をまだ納得させていないこともあるかもしれない。しかし、私はこのグループを前進させようとしている。素晴らしい性格を持った選手たちだと思う。今後は次のチャレンジであるW杯に向けていい準備をしてきたい。

ー来年のW杯に向けて具体的な改善点とは?11月の国際Aマッチではどんな希望があるか?

 日本のサッカーはこれからも進化できると思っている。これまで何度も言っているが、私は選手たちにとある資料を渡している。そこにサッカーのビジョンを載せている。日本のサッカーのアイデンティティを見つけるためだ。ブラジルのように、フランスのようにと考えるのではなく、日本らしくプレーしないといけない。そのためには自分たちの弱点を含め、特長を捉えないといけない。フィジカル的な戦い、戦術、プレースピードがより高いと聞いた。今も前進している。フィジカルの面ではこの2年半でたくさんのテストを行ってきた。そのテストも信頼性の高いものだ。国内組と海外組に準備の面で違いが見られた。たとえば、国内の選手が海外に行くと、代表のトレーニングのリズムに慣れるのに最初は苦労する。

 オーストラリアとの2試合は戦術的にも分析すべきゲームだと思う。アウェーゲームと昨晩で、全く違う戦術をチョイスした。戦術好きな人にとっては面白い分析ができるかもしれない。アウェーでは深い位置でブロックを形成した。その試合ではそれが一番いいと思ったからだ。昨日はほぼ90分間を通して高い位置でボールを奪いに行った。1-0の状況でPAの中まで引いて守ってしまうと、190cm以上の選手がエリア内に入ってきてしまう。だから私たちはできるだけ高い位置でボールを奪った。非常に素晴らしいフィジカル的な戦いを見せられたと思う。

 今、守備の話をしたが、DFだけの話ではない。浅野、大迫、岡崎、原口、日本代表のマラドーナ乾、彼らの守備での貢献がどれだけ大きかったか。中盤やDFはもちろんのこと、相手はフィジカル的により体格のある選手たちだ。私は選手たちに速く走ろうと言った。たとえば浅野は相手の背後でのボールのもらい方、井手口はボールを追ったときのスピードアップが見られた。山口のプレーもC大阪とは全く違うものだった。トレーニングの時間が短かったので、ボールを使いながらたくさん説明を行った。これからの日本代表の改善点はどこなのか。テクニックはある程度のレベルまで達したが、それをスピードと組み合わせないといけないと思う。

 あとはメンタル面。サッカー大国といわれる国々に対するコンプレックスをなくしたい。そして、自分たちの可能性を信じないといけない。そのために私は違ったサッカーのアプローチをして、物事を前に進めようとしている。ただ、トレーニングする時間があまり取れないことが残念だ。しかし、昨日のゲームでは全員がエネルギーを使い果たす姿を見た。(一部の選手は)火曜の午前に到着して、木曜が試合だった。我々は金曜に試合を開催できないかと相談したがかなわず、その状況でプレーした。このチームは我々の誇りだ。

 今日現在、日本のFIFAランクを確認していないが、私はトップ10に入ってほしいと思っている。私は他のチームを指揮して、55位から16位まで順位を上げたことがある。つまり、可能だということだ。私は私のビジョン、ものの見方を伝えようとしている。私の周りにいる人たちを説得して、納得させようとしている。納得がいかない人には説明をする。私は常に勝者になりたい。勝ちたいという意識を持っている。私の性格は常に穏やかではないかもしれない。選手たちにもそう伝えている。つまり、大きな仕事をしながらたくさんのところを修正していかないといけない。私は選手たちにダイレクトに修正点を伝える。ダイレクトに言われてよく思わない選手もいる。そういう習慣がないのかもしれない。

 今日も言ったが、私はこのグループに愛着を持っている。そして、全員で進化しながら成功をおさめたい。もちろん私のやり方が満場一致で全員を納得させることはできないと思う。過去にどうやってきたのか、それぞれの指導者にやり方があるので批判はしない。私は私のやり方をしている。それが成功につながるかはわからない。もちろん、今回のW杯出場を決めたことは満足している。私も他の人たちも喜んでいると思うが、この時点で満足しきってしまってはいけない。さらに大きなのを目指していく。

 W杯が終わったときに初めて、私が本当に満足したかどうかが言える。私は常にもっともっとと欲している。それが病気なのかどうか、みなさんがどう解釈するかはわからないが、私は勝つことが大好きだ。その勝者の意識をチームにも持ってもらいたい。これからもまとまって大きな仕事を成し遂げないといけない。進歩し、進化するために。もちろん私を解雇する力はいつでも会長にある。もし、そういうことがあったとしても、友情はなくならないだろう。

 10月、11月に(日本代表の)活動がある。W杯予選が終わったあとの最初の2試合は日本で行われる。10月は日本開催が、11月になれば国外に行くことができるかもしれない。高いレベルのチームと対戦できるかもしれない。どのチームになるかはまだ決まっていない。アレンジできたときにみなさんに伝える。W杯に向けた準備として非常に高いレベルのチームと対戦したい。その時点でどこまでできるのか、日本のレベルがどのあたりなのかを確認するためだ。今のチームの状況ではW杯では結果を残せないと思う。しかし、8か月後にはそれが変わっているかもしれない。W杯では戦えないとか、そういうことではない。9か月後にはチームの姿が変わっているかもしれない。重要なことは怪我人を多く出さないことだ。日本のベストプレーヤーをW杯で使いたい。

ーいろいろな組み合わせがある中で、昨日のメンバーでいこうと決断したタイミングはいつだったのか?

 試合の前にトレーニングセッションと呼ばれる練習を火曜と水曜に行い、その中で戦術トレーニングを行った。あまり負荷はかけない内容にし、その中で2つ、3つ、変えながら試していった。まず、代表の活動がない期間にコーチングスタッフがすべての試合を視察したり、映像を見たりしている。国内組もそうだし、海外組もそうで、現場に足を運んだり、映像で見たりしている。そういった報告もあり、私も見ているので、選手たちの状態は基本的に理解している。

 だから、チームの8割は私の頭の中に出来上がっていた。特に中盤と前線はまだ決まり切っていなくて、いろいろ考えていた。例えば20歳そこそこの選手が2人いるとか、そういった若い選手を使うことに関して、全員が納得していたわけではない。若い選手がこういったプレッシャーの中でしっかり応えられるかどうか、恐れてしまうのではないかという心配もあった。

 しかし、最後のトレーニングの後に決断した。個別でもグループでもポジション別でも説明した。DF、MF、FW。そして、オーストラリアのメンバーを見たときに中盤の枚数を増やしてくるだろうと予測した。1トップだったが、そこもMF的な特長を持った選手が入っていて、オフサイドギリギリで裏を狙える選手を前に持ってきた。その後ろにMF4人、ポジションを入れ替えながらプレーする選手たちだった。なので、試合直前にメンバーが出た後も選手たちから色々な質問が出てきた。そこで最後の説明をして、中盤でどういった戦術的なチョイスをするのか、前から相手の選手が中盤にボールをつけたら誰がそこにつくのか、あるいは逆サイドをどう見るのか、どの高さでブロックを形成するのかなど、試合直前にもたくさんの指示や確認をした。

 セットプレーに関しても、我々が予測していた背の高い選手が入っていなかったので、まずはマークの仕方を変えた。細かいことがたくさんあり、指示をたくさん出したが、その全てを選手たちが実行してくれたことに私は驚いている。もちろん自分たちがボールを持ったときにも戦術があり、グラウンダーで速いボールスピードでプレーしようと言った。井手口や蛍は所属クラブであまりやらないようなプレーを見せてくれた。2人ともいいシュートを持っているので、私はシュートも要求し、井手口がゴールを決めた。

 このような形で代表でプレーするのは彼にとってほぼ初めてと言える状況だったが、あの姿を見せられて私は誇りを感じた。そして、長谷部の戦術的な役割があり、その後ろに麻也がいて、前線の選手たちも犠牲心を持ちながらチームのために頑張った。そういった姿を見ると、このチームはまだまだ進化するなという希望を感じる。もっとトレーニングの時間があればさらに良くしていけると思う。つまり、たくさん選手たちと話し合ったということ。直前まで分からない部分もあったので、話し合って直前に決めたこともある。

 特にセットプレーは直前まで決まらなかったものもあった。相手はCKから5得点を取っている。すべての細かい確認ができたのは、スタッフが一生懸命働いて、細かいところまで詰めてくれたから。特に日本人のコーチングスタッフにお願いして、若い選手たちとたくさん話をしてもらった。自信をつけてもらいたいと思っていた。ドクターやトレーナーにも声をかけて欲しいとお願いした。試合に出ない選手たちも勇気付けてほしいとお願いした。

 このように全員で励まし合ってこの重要なゲームに向けて準備をしてきた。会長もホテルに来て応援の言葉をくれた。このようなやり方を行っているが、うまくいかなければ責任者は私だ。失敗すればそれは私のせいになる。私はそれを受け入れなければならない。全員で協力して、このような結果を残すことができて本当に良かった。私は自分のサッカーのビジョンを変えたくないのでこのような形を続けていきたい。

(取材・文 佐藤亜希子)

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