[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.4 選手権埼玉県予選準々決勝 武南高 1-1(PK3-2) 西武台高 浦和駒場スタジアム]

　“PK専用”の3年生GKが大仕事をやってのけた。武南高GK須賀貴大(3年)は準々決勝の西武台高戦、劣勢のまま1-1で迎えた延長終了間際に2年生守護神との交代でピッチに立つと、PK戦で相手5人目のキックを見事にストップ。このプレーで準決勝進出が決まり、ベンチメンバーから一躍ヒーローになった。

「PK戦になったら自分が出ると思っていたので、準備の面でしっかりできたのが大きい。PKに入れば、自分が止めて勝つという自信があった」。試合後の取材にそう話した須賀は、3年生ながら控えのGKという立場。先発には昨季からレギュラーのGK深澤颯人(2年)が入っており、なかなか出番を確保するに至っていないのが現状だ。

　そんな背番号1は今大会、PK戦を担当することになった。大山照人監督は「(PK戦など)試合じゃない部分で調子が良かったため」と意図を説明。さらに「もう一つは“かく乱”。戦術は何もないが、GKを代えることで相手の動揺を引き出せる」との狙いもあり、このような役割分担に踏み切ったという。

　“PK専用GK”の出番は、予選3試合目の準々決勝で訪れた。西武台の鋭いアタッカー陣に圧倒され続けていた延長後半10分、深澤と交代でピッチに立つと、直後のアディショナルタイムに危険なクロスが立て続けに到来。「引いたプレーをしていたら点を取られていたと思う。積極性という自分のプラスの面を出せた」と飛び出しからのキャッチも見せ、まずは良い形で試合に入ることに成功した。

　そうして迎えたPK戦、先攻となった3、4人目の相手キッカーが続けて枠を外したが、そこまで須賀はボールに触れることができず。それでも味方キッカー4人のうち3人が成功し、「止めれば勝ち」という状況で5人目に臨むと、甘いコースに来たシュートに対し、身体を寝かせてしっかりブロック。真っ赤なユニフォームの周りに歓喜の渦ができ、チームメイトからは手荒い祝福が寄せられた。

　交代時に「後は頼みます」と声を掛け、先輩の活躍をベンチで見守った深澤は「もう、憧れですね。自分もそういう活躍をしていきたいです」と感嘆した様子。一方の須賀も「アイツがしっかり止めてくれて、PK戦まで引っ張ってくれた。最後に交代するのは悔しいと思うけど、自分は先輩として責任を果たす使命がある」と先を行く後輩の思いも背負って戦っていたようだ。

　実のところ須賀は、以前からPK戦が得意だったわけではない。深澤が手と足首の負傷でベンチに控えていた夏のインターハイ予選準々決勝で、浦和学院高にPK戦で敗退。フル出場した須賀にとって「止められるはずのボールすら、1本も止められなかった」というつらい経験だった。それでも「そこから練習したことで、徐々に止められるようになってきた」と悔しさと向き合ったことが、冬の大舞台で結実する形となったのだ。

　もっとも、“ベスト4進出の立役者”になったことで満足するつもりはなく、「自分が出ても出なくても、目標は優勝」とすでに前を向いている。準決勝の相手は“県内3冠”の昌平高。「向こうが格上なのでチャレンジャーになる」と力量差は認めるが、「引いて守ってPK戦でも勝ちは勝ち」としぶとく戦う覚悟はできている。「もし、PKまで行ければ自信はあります」。まずはチームメイトを後押しし、舞台袖から虎視眈々と出番を待つ。

(取材・文　竹内達也)

---

●【特設】高校選手権2017