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予選初戦に「膝が変な方向に曲がった」…一条、主将を全国へ “限定20分出場”「感謝しかない」

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11月に前十字靭帯断裂の診断を受けたDF生成光だったが、選手権のピッチに立った

[1.3 高校サッカー選手権3回戦 一条0-3米子北高 等々力]

 初の8強入りを目指した一条高(奈良)だったが、昨年に続く3回戦敗退となった。ただ前田久監督は、「十二分に練習してきているので、それでも決められるのは相手が強いということ。後悔がないわけではないが、やり切ったというのが感想です」とどこか誇らしげだった。

 主将DF生成光(3年)をアクシデントが襲ったのは11月3日に行った選手権予選の初戦、東大寺高戦だった。前半途中、ヘディングでクリアを試みたが着地に失敗。「着地で膝が変な方向に曲がった。音が鳴った。その瞬間に終わったと思った」。診断の結果は右膝前十字靭帯断裂だった。

 しかし周囲は誰一人、全国のピッチに主将を立たせることを諦めていなかった。「トレーナーさんとかにまだ終わっていないぞと言われた」。そして何よりチームメイトが奮起。主将不在を感じさせない戦いぶりで決勝まで勝ち上がると、奈良育英を相手に2度のビハインドを追いつき、PK戦で2年連続となる全国行きの切符を掴んでみせた。

 そして迎えた全国大会。前田監督も「本当は出していい状態ではない」ことは分かっていたが、本人の意思を尊重。担当医にも相談すると、手術を先延ばしさせることで、選手権出場の了承を得た。ただ前田監督が決めた出場時間は冒頭20分のみ。初戦となった2回戦の桐蔭学園戦は前半22分で交代。3回戦の米子北戦は前半16分でベンチに下がった。

 しかし指揮官はこの起用方法に後悔はないという。「彼の発信力。立ち上がりで相手に持っていかれそうになった時に、彼がいた方がいい。そこだけしっかりやってくれたら、そこから先はいいかなという感じだった」と役割を全うしてくれたことに感謝。

 生成自身も「感謝しかない。こんな夢のような舞台に実力もまだ戻っていないし、チームの力になれたかも分からないけど、それでも立たせてくれたのはありがたいです」と声を震わせながら話した。

 試合後は米子北のロッカールームを訪ねて、自分たちの思いの詰まった千羽鶴を託した。「あれは一条のサッカー部みんなに折り紙を回して、保護者も含めて折ってくれた。自分たちの思いも乗せて頑張ってほしい」。

 卒業後は関西大に進学する。本格的かは未定だが、どんな形であれ、サッカーは続けていくという。だがその前に膝を治さないといけない。大学入学前にメスを入れる予定だ。だた怪我が未練を残したのも事実。「怪我していなかったらやり切れた感はあると思うんですけど、あの時あの切り返しをしなければなとか、あの時に準備しておけばなという思いがある」。18歳。可能性は無限に広がっている。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 児玉幸洋)

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