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「戦争ですから」。5度目のワールドカップ初戦を迎えるアンプティ日本代表のエース、エンヒッキの悲壮な覚悟

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エンヒッキ(左)と杉野正幸監督は2人で地道な普及活動から頑張ってきた

 アンプティサッカーのワールドカップ(W杯)がいよいよ幕を開ける。日本代表は最後の調整を終え、日本時間29日の初戦・コスタリカ戦に備えた。

 メキシコ入り後、移動のバスを待つ時間が多く、ボールを蹴って待つのが日課となるほど気持ちが高ぶってきた日本代表戦士の中にあって、唯一金髪にして決戦に挑むエンヒッキ松茂良ジアスは出発前、サッカー元日本代表の日本障がい者サッカー連盟会長・北澤豪氏と固い握手を交わしながら、こう誓っていた。

「どんな結果で帰ってこられるかはわかりませんけど、とにかく頑張ってきます。戦争ですから」

 2007年、ブラジル代表としてW杯に初めて参戦し、翌2008年に仕事のために来日。当時、日本にはアンプティサッカーという競技そのものがなかった。エンヒッキは、日本の子供たちに交じってサッカーをすることから普及をはじめた。最初に声をかけてくれたのは、当時知的障がい者のサッカースクールコーチだった、日本代表の杉野正幸監督。その後も陸上競技サークルやJリーグクラブを通して選手募集をかけた。2010年、1つ空いていた参加国枠でW杯に出場するために、今の協会を設立した。

「(8年かけて)ここまで来たか、という気持ちもありますが、世界を目指すにはもっと競技人口を増やさないといけない。今回のW杯にむけて、僕はこれが最後だと思って頑張ってきました。なぜなら、明日、何が起こるかわからないじゃないですか。さかのぼれば僕だって、(足を切断する転機となった)事故にあった5歳のとき、亡くなっていたかもわからないんです。だから毎日を大切にしないといけない」

 エンヒッキが誓ったように、W杯は競技を通して国のプライドをぶつけ合う「戦争」だ。競技熱をさらに高めるには、目標とするベスト4の結果が欲しい。明日なき戦いの覚悟を胸に、エンヒッキがピッチに飛び出す。

(取材・文 林健太郎)

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