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[もうひとつの高校選手権・あす開幕]出場校紹介:東京都立志村学園

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連覇を狙う東京都立志村学園の石綿洵哉主将と1年生のFW渡邉仁暉

王者が大会初の連覇にむけてやってきたこと

 第4回全国知的障害特別支援学校高等部サッカー選手権「もうひとつの高校選手権」が明日16日に静岡県藤枝総合運動公園サッカー場で開幕する。代表10校を紹介する連載の最終回は、前回王者の東京都立志村学園だ。

 全国86校で唯一、連覇を目指すことができる東京都立志村学園は、その重圧をエネルギーに変えて大会に乗り込む。小澤通晴監督が明かす。

「たとえばバスケットの名門・能代工が高校3大タイトル(インターハイ、国体、選抜大会)を3年連続で獲得する9冠を達成したとき、当時の監督さんが『他の学校は能代を目標にしてきている。能代はそれ以上のことをやらないといけないよ』という談話に目にしました。生徒たちにもその話をしてトレーニングをしています」

 では志村学園は他校の追随を許さないために、何にこだわってチームを作ってきたのだろうか。それはフィジカルでもテクニックでもない。持てる能力を最大限発揮させるために一番必要なスキルだった。小澤監督が続ける。

「話す力、聞く力を重視しています。トレーニングの中でも『この練習は何の目的か』ということを生徒に言わせるようにしているんです。ウチの学校の生徒もそうですし、今の子たち全般に言えると思うんですが、特にコミュニケーション能力に課題を抱えています。優勝した去年のチームに比べると、今年のチームの方がおとなしい。選手たちだけのミーティングで話をさせて、何をしたいのかという目的意識をはっきりさせたり、理解を深めたりするようにしています」

 対話する力を伸ばして選手としても成長を遂げたのは、日本代表にも選ばれた主将のMF石綿洵哉(3年)だ。中学まではサッカーの能力が高くても、周囲と話すことを苦手としていて、授業中は先生からさされても笑みを浮かべるしかなかった。しかし主将となった今年は毎日、練習前後2回、必ず石綿がしゃべる時間がある。小さな訓練の積み重ねによって自信が芽生え、変身をとげた石綿が明かす。

「話すことで、練習でやってきたことの課題や次にやっていきたいことも明確になりました。関東代表を決める決勝(栃木県宇都宮青葉学園戦、〇6-0)でも、点数をとれる場面でとれなかったところがあって、コミュニケーションが足りなくてパスをもらえないことが理由でした。シュートを打って仮に入らなかったときでも、『こうしてほしかった』ということはお互いに言うようにしています。練習中もそうなんですが、(シュートが)決まらないと選手同士で文句みたいになってしまう。そこは変えていきたいんです」

 そんな石綿に憧れて入学してきたのが1年生のFW渡邉仁暉だ。関東代表の決勝でも自身初のハットトリックを達成。八王子の自宅の近くに別の特別支援学校があるにも関わらず、志村学園で全国制覇を目指すために、約2時間かけて通学している。

「自分でも入るとは思わなかったところで入ったりして、運がよかったのもありました。この学校に来たのも日本代表の人と一緒にサッカーがしたかったからです。このメンバーで優勝したい。近い学校を選べばラクになるんですが、自分に厳しくしたかった。そうしないとサッカーもうまくならないと思ったんです」

 力を持つエースが内面に磨きをかけ、その背中を1年生が追う。志村学園が今年、初めて連覇を達成すれば、バスケットの名門・能代工業のような黄金時代を迎えるかもしれない。

(取材・文 林健太郎)


■学校紹介
 2013年(平成25年)、東京都で4番目に開校した就業技術科の設置校。サッカー部は翌2014年創部。板橋区西台の高台に建ち、「高等部就業技術科」と「肢体不自由教育部門小学部・中学部。高等部」のふたつの部門がある。
 「高等部就業技術科」は生徒全員の企業就労を実現するための専門的な教育をしており、「ビルメンテナンスコース」「流通・都市農園芸サービスコース」「食品加工コース」「介護・コミュニケーション」の4コースに分かれている。「介護・コミュニケーション」コースでは福祉施設やホテルでの居室清掃やベッドメイキング等を実践的に学ぶため、ホテルの部屋や介護施設をそのまま再現した実習室などもある。都内の一流ホテルの勤務経験者を講師に呼ぶなど、より充実した授業内容を目指している。
 部活動もさかんで全国制覇の経験があるサッカー部を筆頭に体育系、文科系合わせて11の部が存在する。サッカー部と陸上競技部が使うグラウンドは天然芝。施設も充実しており、今年度の入学試験も競争倍率1・4倍と都内の就業技術科で一番高かった。

■校長
諏訪肇

■サッカー部監督、スタッフ
監督 小澤通晴
スタッフ 藤嶋智史、藤本恵美、今野桂一

■主将
石綿洵哉(3年)

■予選成績(関東代表決定戦)
東京都予選  〇2-0東京都立永福学園
関東代表決定戦〇6-0栃木県宇都宮青葉学園

■過去の全国大会成績
第1回(2015年度)準優勝
第2回(2016年度)4位
第3回(2017年度)優勝

■出場選手登録一覧
Pos 名 前 学年
GK1円谷光太(3年)
GK19堀颯太(1年)
DF2境野仁善(2年)
DF5梶原大輝(3年)
DF13栗原宗一郎(2年)
DF16前田涼太(1年)
MF10石綿洵哉(3年)★
MF8笠原輝(3年)
MF4大塚和(2年)
MF14岡村海翔(2年)
MF6飯野允也(2年)
MF12渡邉仁暉(1年)
MF15横溝翼(1年)
FW3原沢一輝(3年)
FW9石原大雅(2年)
FW7川添裕也(2年)
【注】番号は背番号、★は主将

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