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【令和を迎えて】「将来10番を背負う選手」。ブラサカ界に出現した15歳、園部の野望「パラリンピックに出たい」

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園部優月は軽快なドリブルで女子日本代表のエース菊島宙(右)をかわす

 令和時代がはじまり、新時代をリードする期待の若手選手を7人紹介する連載の第2回目はこの春、高校に入学したばかりだが、早くもブラインドサッカー界で「将来の背番号10」とささやかれる15歳の園部優月だ。

 園部は細身ながら軽快な身のこなしで、才能の片りんを見せつけた。4月21日、八王子市内で行われた女子日本代表と行った練習試合。free bird mejirodai の一員として出場した園部は相手選手を背負うと、後ろに戻るようにドリブルし、一気に切り返して置き去りにすると、完全にフリーの状態を作る。GKと1対1から、落ちて着いて右足で決めた。

「とりあえず後ろにいってターンしたら、DFをうまくかわせました。小さい頃からスポーツが好きで五輪パラリンピックの舞台に立つことが夢だったので、それは成し遂げたいです。東京五輪は高い目標になりますが……」

 園部は、東京五輪パラリンピックに対しては控えめに意気込みを語ったが、決して夢物語ではない。164cm、46㎏。もともと食が細く、代表選手に交じるとひと際細いが、ボールが足元に吸い付くようなドリブルをする。生まれた直後から弱視で網膜細胞芽腫(網膜に発声する悪性腫瘍)により、3歳のときに両目が見えなくなったが、認知能力が高く、ルーズボールへの反応もいい。現在の日本代表を指揮する高田敏志監督は2年前の夏、園部を日本代表強化指定選手にしたい、という希望を伝えるために、群馬県内にある園部の実家を訪れたほどだった。高田監督は以前、園部をこう評していた。

「僕は彼が小学生の時から見ているんですが、将来、10番を背負えないとダメ、と言える選手です。今よりも(体が)細くてサッカー危ないんじゃないか、という選手ですが、センス、感覚を感じた。スキルがあがれば日本代表コーチの指導を受けたほうがいい、ということで引き上げました。世界の経験を積めば、もっと伸びると思う。彼はボールと自分の関係をきちんと保てるし、負けず嫌いで非常に楽しみ。東京五輪もさることながら、2024、2028年までの(育成)プランニングを組んでいます」


 中学3年だった昨年、日本代表強化指定選手となったが、筑波大付属視覚特別支援学校の内部受験のため、勉学が忙しく、日本代表合宿にはなかなか参加できなかった。特に昨年末の12月~1月にかけて勉強の追い込みをかけるため、完全にサッカーから離れた。それでも、試験が終わった後の2月下旬、久しぶりに参加した日本代表合宿では動きがよく、日本代表スタッフは、3月のワールドグランプリのメンバー10人に入れることも検討していた。2か月ボールを蹴らなくても、それがブランクにならないほど、園部の潜在能力は高い。同高校の教諭でfree bird mejirodaiの監督もつとめる山本夏幹氏はこう明かす。
 
「高校生になったことが、彼の中で大きい変化かもしれません。技術とかは変わっていないけど、落ち着きが出てきた気がする。今までだったらつぶされていたかもしれない場面で、フィジカル的に勝てるようになってきて、自分の持っているものを出せるようになってきている。高校では、中学の時以上に地方から生徒が多く入学してきて、彼の交友体系が変わってきた。ある子が大盛りを食べると、園部も『負けてられない』と大盛りを食べている姿も見ますから。この3年間が勝負だと思っています」

 園部は自分の現在地をどうとらえ、そのために何が必要だと感じているのだろうか。

「今回、ワールドグランプリに出られなかったことは確かに悔しかったです。日本代表は去年より明らかにレベルがあがっていて、プレーを見ていて、代表の舞台はすごいな、と感じました。世界で通用するにはまず点をとらなければいけないし、それには日本の中で点をとれるようにならないといけない。今年は(秋に開幕する)リーグ戦で毎試合1得点以上はしたいのですが、今はそこまでの実力はないので、もっと頑張りたいです」

 ダイヤの原石がひたむきに歯を食いしばっている。磨かれた輝きが世界で通用すると周囲を確信させる時が、東京五輪前に訪れるのか。ブラインドサッカー界にはそんな楽しみもある。

【ブラインドサッカーの今後の主な予定】
▼6・1、2、8、9日 
アクサブレイブカップ予選ラウンド
▼6月中旬 
日本代表・トルコ遠征
▼7・7 
アクサブレイブカップFINALラウンド
▼8月下旬 
イングランド遠征

(取材・文 林健太郎)

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